コーヒー機能性成分の探求

(1)クロロゲン酸類

ポリフェノールとは、植物が自身を活性酸素から守るために作り出す抗酸化成分として知られる物質です。コーヒー中に含まれる代表的なポリフェノールとしては、クロロゲン酸類が広く知られています。クロロゲン酸類は、一般に桂皮酸誘導体とキナ酸のエステル化合物と定義されます。コーヒー中には主にカフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)からなる9種類の化合物が含まれており、これらの総称がクロロゲン酸類です(図-1)。

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図-1 クロロゲン酸類の構造

(2)コーヒー豆焙煎による酸化ストレス負荷成分の生成

コーヒー生豆を焙煎することにより、コーヒー独特の風味や香りが出てきます。これは、焙煎という熱処理によりコーヒーの成分が複雑な化学変化を起し、コーヒー独特の風味や香りを作り出したためと考えられています。そのため、焙煎技術の開発は主にコーヒー風味の検討を主眼に行われてきました。
一方、焙煎によるコーヒー豆中の成分変化については、一般的に図-2に示すように変化します*1 。カフェインは焙煎しても変化しない成分ですが、ほとんどの成分は焙煎度に応じて大きく変化します。抗酸化成分であるクロロゲン酸類は焙煎することにより減少します。また、生豆では含まれていなかった褐色色素や活性酸素などは焙煎により生成します。活性酸素については、生体内での防御機構として必要なものでありますが、過度に存在すると酸化ストレスを与え、生体へのさまざまな障害を引き起こす要因となると言われています。
コーヒー豆中の活性酸素については、一般的にO-フェノール化合物の自動酸化や、脂質の酸敗などが発生源となると報告されています*1 。コーヒー中の物質からの発生については、コーヒーの焙煎によって生じるヒドロキシヒドロキノン(HHQ)が、活性酸素を比較的多く発生するとされ、その発生機構* が提唱されております(図-3)*2~3 。さらにHHQについては、生体への酸化ストレス負荷物質としての報告もあります*4~6 。この報告によると、焙煎により生じたHHQを含む通常コーヒーのヒト単回摂取評価において、尿中に活性酸素が検出されます。この活性酸素は生体への酸化ストレスを反映しており、尿中の活性酸素を測定することで、生体への酸化ストレス負荷を評価できると推察しております。

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図-2 コーヒー豆中の成分の焙煎による変化

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図-3 ヒドロキシヒドロキノンからの活性酸素発生機構

*)ヒドロキシヒドロキノンにより活性酸素が発生するメカニズム

①ヒドロキシヒドロキノンは自己酸化によりセミキノンラジカルとなり、この過程で活性酸素の1つであるスーパーオキサイドアニオン(.O2‐)を発生する(式1)。

②ヒドロキシヒドロキノンの自己酸化反応は、.O2‐を消去するスーパーオキサイドディスムターゼ存在下で阻害されることから、この反応に.O2‐の関与が示唆される。さらに、この反応により生成したセミキノンラジカルは.O2‐との反応で、キノイド体と過酸化水素を生成する(式2)。

引用文献

  • * 1 中林敏郎ら, コーヒーの焙煎の化学と技術, 弘学出版株式会社(神奈川), p.87, 1995
  • * 2 Greenlee WF. et al., Toxicol Appl Pharmacol, 59(2), 187-195, 1981
  • * 3 Zhang L. et al., Free Radic Biol Med, 20(4), 495-505, 1996
  • * 4 Long LH. et al., Free Radic Res, 32 (5), 463-467, 2000
  • * 5 Hiramoto K. et al., Biol Pharm Bull, 25 (11), 1467-1471, 2002
  • * 6 Halliwell B. et al., Curr Med Chem, 11(9), 1085-1092, 2004
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