新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延、地政学リスクの拡大に伴う国際社会の多軸化・分断化、及び原材料高騰に伴う物価高騰や処理水問題などは、日本経済に大きく影響を与えました。一方、持続可能な社会をめざす脱炭素化、環境保全の世界的な動きは重要度をさらに増しています。
花王グループは、「豊かな共生世界の実現」をパーパスに掲げ、人と地球、人と社会、そしていきいきとした人と人のつながりを大切にする「未来のいのちを守る」企業として、持続可能な社会に欠かすことのできない存在をめざして前進を続けています。
2023年8月には、グローバル展開の遅れと資本効率の悪化という課題に対応し中期経営計画の一部修正を行い、2027年を計画最終年とする「K27」を発表しました。基本方針は変えず、具体的な成長軸を明確にするために、「グローバル・シャープトップ」という方針を新たに加えました。
花王の強みは、本質的な研究を追求していくことで生まれるユニークな技術です。これらの技術は、特定のお客さまのお困りごとを高いレベルで解決し、欠かすことのできない製品、すなわち価値を生み出してきました。お客さまに強く支持されるシャープな価値提案をし、世界の中で唯一無二の存在となること。それが「グローバル・シャープトップ」の考え方です。
「K27」達成に導く戦略として、4つのフレームワークを明示しました。
1つ目が、お客さまから高い需要があり、高収益となる事業を強くし、グローバルシフトさせていくこと。
2つ目は、これら重要ニーズを創造力で解決できるとがった人財を育成し、その人財たちが主役となって活躍できる能率的な組織運営を進めていくこと。
3つ目が、資本効率と収益性の継続的な改善です。事業ポートフォリオに基づいて、事業ごとに区分けされた投資効率を監督していくことで、経営資本の価値最大化をめざします。
4つ目は、パートナーとの共創による事業構築です。これは、私たちの保有している技術資産を早く、大きく活用するための戦略です。
花王の「よきモノづくり」は、生活者を起点として、多様な視点で本質を見極めることを重視しており、極めてユニークな切り口がそこから生まれてきます。そしてそれを支えている研究開発は、多くの製品に活用される技術を継続的に磨くことや、異なる分野から持ち込んだ技術により、新たな価値を生み出す製品づくりができることに強みを持っています。
多様性が常識になる昨今、誰しもが同じ価値を求めることは少なくなり、自分に合う、自分に意味のある商品選びをするようになってきました。私たちは、誰が使っても一定の満足を得られる価値づくりから、高い満足感をめざした特定の顧客に強くフォーカスした価値づくりへとモノづくりを進化させていきます。これにより、量と数の経済から、質と絆の経済への移行を図ります。
「グローバル」を改めて強く意識づけたのは、これまでの「インターナショナル」との対比を明確にするべきと考えたからです。これまでのように、日本発の技術や製品を海外展開するのではなく、最初からグローバル視点で展開エリアの選定と価値化を同時並行に進めるということを強めていきます。
その上で、お客さまがなくてはならないと感じていただける尺度となる「リピート率」(ロイヤリティ)を重視した製品づくりと事業展開を志します。そして、それらの事業がある重要な領域でトップであるかにもこだわっていきたいと考えています。
これまで以上にメリハリある人的資本投資に舵を切ります。花王の根幹となる、人の多様性を尊重するDE&I方針に基づいて、個々の人財の特徴と強みを最大限尊重する方針を立てています。
そのために、まずはリーダーシップを発揮できるとがった人財の育成や、ある特定のスキルに極めて優れた人財の育成に力を入れていきます。
人的資本投資では、さまざまな研修の機会を用意していますが、特に力を入れているのが先端技術教育です。現在、花王では、IT技術の基本的理解からトップクラスのスキルを習得するためのDXアドベンチャープログラムと、先端技術者にリスキリングするAIアカデミーを始めました。
高いリーダーシップ資質を持った人には、権限の委譲を進めて、コンパクトなチームで迅速に意思決定できるようにしています。
また、これまでは、事業運営部門と機能部門とのマトリックスによる体制を尊重してきましたが、より明確かつ迅速な判断ができるように、事業運営部門を主軸とするタスク型の運営モデルへの移行を図っています。
これまでどおり、対話を中核とした、叡智が結集される運営は続けていきますが、タスクごとの判断と実行において、スピードを優先するようにしました。
2023年より、ROICを基本とした事業ポートフォリオに基づく経営マネジメントを進めています。花王の事業を定量的に分析し、安定収益領域、成長ドライバー領域、事業変革領域の3つに分類し、それぞれの事業領域のROICを明確にしました。
「K27」の最終目標は、ROIC11%以上をめざしています。特に、成長ドライバー領域にあるスキンケア、化粧品、ケミカル、業務品事業は、グローバル成長のための投資を優先し、グローバル事業の売り上げを高めていきます。
2023年は大きな構造改革に着手しました。中国に傾注しすぎた事業ポートフォリオを見直し、バランスよくグローバルで成長するための整理をしました。また、人財構造改革においても、人的資本最大化のための施策を進め、資本効率改善の道筋をつくりました。
一方、日本では、日用品における低価格の商習慣が根強く、値上げすることに抵抗感が強くありましたが、花王が業界をリードし、原材料高を価格転嫁するための「戦略的値上げ」を実施し、定着化しました。その中で花王は、デジタル技術を駆使して、利益率を製品設計から販売までを意識して管理し、きめ細かい高付加価値化への挑戦をしてきました。
さらに、2024年以降の物流問題に関する課題に対して、在庫管理の最小化、欠品の削減、及び配送の能率化を急速に進めています。
最後のフレームワークで必要なのが、パートナーとの共創による事業構築です。花王の技術資産を最大限活かし、最速、最大レベルで事業と社会に貢献するためには、尖った強みをもったパートナーとの協業が必須となります。協業指針は、同じ価値観、同じ方向性を見据えた大きな志を抱き、社会課題解決に共に進めるかどうかです。業界をリードし、それぞれ強みとなる領域を持っていることが、シナジーを生み出す上で重要になると考えます。
今後、花王は自前だけの発想から脱却し、多くのパートナーの力を借りて、より高いレベルの製品、より高い収益性の事業を構築するよう努力していきます。
「The Kao Way」は社員一人ひとりに深く浸透している企業理念です。これをよりどころにすることで、すべての活動が一貫し、多様な資産と社員の力を集積させる原動力となります。
「K27」に向けては、世界の中で誰かの欠かせない一番になるという思いを「グローバル・シャープトップ」という戦略に込めました。何といっても、ベースとなるのは人の力です。社員の活力を最大限に引き出すことを重視し、創造と革新でESG視点の「よきモノづくり」を進化させていきます。
量から質の経済への転換を、次の世界のあり方として示しながら、次なる発展の道を歩み、持続可能な社会に欠かせない唯一無二の企業となることをめざします。