映画にみるヘルスケア

「ブルゴーニュで会いましょう」
(ジェローム・ル・メール監督、15年、仏)

「ワイン造りは家族あってこそ。一人じゃ虚しい・・」
  土と汗の赤ワイン造りに癒された父子、蘇った心身の健康

映画・健康エッセイスト 小守 ケイ

 「タンニンの渋みが良い。14点」。人気ワイン評論家シャリルはブルゴーニュの老舗ワイナリーの息子。農家が嫌で父に抗い20歳でパリに出て成功はしたが、15年に及ぶ父との疎遠が心の傷に。そんな折、ブルゴーニュの古城での出版記念パーティで一人の女性と出会う。「ワイン農家は貴方の点数に一喜一憂よ」。惹かれ合い一夜を共にするも翌朝は一人抜け出し、車を実家方面へ……。

「エッ、パパが破産? 畑が差し押さえに?」

 実家近くの妹のレストラン。妹に依れば“父と妹の夫が造った赤ワインが売れず、会社更生法の対象に”と。「でも、7日以内に裁判所に再建責任者を出せば、1年間の猶予を貰える。兄さん、力を貸して!」。
 パリに戻るも、脳裏には祖父の“特級赤ワイン”や美しいブドウ畑の光景……。意を決した彼は、翌日、再建責任者として署名する。一方、5年前に妻とも別れ一層頑固になった父、この事態下でも興味はワイン造りより釣りと船造りで、「破産しようと私の勝手だ!」。
 「昔の方法でやろう」。翌日から作業着姿で畑に出た彼は、トラクター代わりに馬で畑を耕し、醸造には樽でなく中世の壺を提案。同時に、在庫は“ワイン評価のコネ”で旧知の業者に買わせ、全力で再建を目指す中、或る日、古城で出会った女性が妹のレストランに! 「兄さん、隣の畑の娘ブランシュよ。近く米国のワイナリーの息子と結婚するのよ」。

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「父親と伝統に背いて自分の道を拓き、立派だ」

 「徐々に分かるさ」。実り始めたブドウが嵐で倒された日、彼が頭を抱えると、その真剣な取組に心を動かされたのか、父が優しく声を掛ける。それを機に「破産は俺のせい?」と尋ねた息子。父は「私も家業継承は苦だった」と打ち明け、そして「自分の努力で道を拓いたお前を誇りに思うべきなのに出来なかった……」。父子は、父の初醸造の66年赤ワインで小さく乾杯した。

 「まだタンニンが……」。いよいよ収穫の時期。父は急かすも彼は隣の“優良ワインの名手ブランシュの母”の畑の収穫日を真似ようとする。しかし、ブランシュから「自分で味見を! 種も噛んで“リコリス*1 の味がしたらOK”と祖父が言ってたわ」。彼は連日、味見し、数日後、父に「リコリスだ! 皮や種も食べてみて! タンニンが多く含まれる。収穫しよう」。収穫後は、心配する父を横目に“中世風の足踏み”でブドウを踏み潰し、壺で醸造へ。

  • * 1 マメ科の植物

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映画の見所

 「後はお前に」。息子の仕事を見届けた父は、完成した船と共に水辺の地へ。半年後、彼の初ワインが出来上がった頃、父に「家に戻って! 皆が寂しがってる」。そして翌秋の父も見守る収穫時、何と、ブランシュから電話で「独り米国より帰郷した」と!
 美しい自然と人間愛に包まれて心が洗われる映画。シャリルに「イブ・サンローラン」の監督J・レスペール、父に仏映画を代表する名優G・ランバン(「そして友よ、静かに死ね」など)が出演。全編がブルゴーニュ地方で撮影されたため、四季折々の美しいブドウ畑に加えて、同地方のシンボルのクロ・ド・ヴィージョ城や中世に建てられた教会など自然と歴史が織りなす映像美を堪能できる!
J・ル・メール監督作。97分。

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赤ワインのポリフェノール

【監修】 公益財団法人結核予防会 理事 総合健診推進センター 所長 宮崎 滋
 赤ワインには多彩なポリフェノールが含まれ、赤い色はアントシアニン、渋みはタンニンが関わっています。これらのポリフェノールは、主に種子と果皮に含まれるため、発酵前にこれらを取り除く白ワインには少量しかありません。
 タンニンなどポリフェノールには抗酸化作用があり、動脈硬化の予防効果があります。有名なフレンチパラドックス(フランス人は肉や乳製品などの脂肪摂取量が多いにも拘らず、心筋梗塞の発症が少ない)は、フランス人が好んで飲む赤ワインの抗酸化作用によるものと言われています。しかし、赤ワインを日常的に飲むためアルコール過剰摂取となり、フランスでは肝硬変患者が多いと報告されています。
 家族や友人との食事でワインを飲む際には、抗酸化作用を高め、健康の糧とするためにも、適量を守ることが大事です。

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