コラム

「ワインによる地方創生と社会貢献」

栃木県足利市で1984年からワインづくりを行うココ・ファーム・ワイナリー。
知的障がい者支援施設「こころみ学園」が母体となっており、除草剤をまかないブドウ畑の麓で丁寧な手作業から生まれたワインは、北海道洞爺湖サミットで提供されるなど、国内外で高い評価を得ています。

池上 知恵子 Ikegami Chieko

有限会社ココ・ファーム・ワイナリー 専務取締役

1972年東京女子大学社会学科卒業。1984年東京農業大学醸造学科卒業。同年4月有限会社樺崎産業(1986年ココ・ファーム・ワイナリーに社名変更)入社。1989年有限会社ココ・ファーム・ワイナリー専務取締役に就任。2008年12月東京農業大学経営者大賞受賞。2009年4月社会福祉法人こころみる会理事長就任。

ココ・ファーム・ワイナリーのはじまり

 ココ・ファーム・ワイナリーの原点は、特殊学級の教師だった私の父が、知的障がいをもつ生徒たちがいきいきと暮らせる場をつくりたいと、生徒とともに開墾した畑にあります。学校や社会で頼りにされることの少ない生徒たちは、自然の中では元気になります。そこで、やってもやってもやりきれないほどの仕事をこの地に用意しようと、平均斜度38度の急斜面を開墾し、ブドウの栽培やシイタケの原木栽培を始めました。草刈りも大切な仕事ですから、除草剤は一切使いません。するといろいろな草花が育ちいろいろな虫がやってきて、その虫を求めて鳥もやってきます。さらに鳥を追い払う仕事もできる……こうした積み重ねで、生徒たちのために多くの仕事をつくったのです。
 ブドウ畑開墾が昭和33(1958)年、こころみ学園が出来たのが昭和44(1969)年です。そのうちブドウでワインをつくろうと考えましたが、こころみ学園は社会福祉法人で果実酒製造免許が取れないため、昭和55(1980)年に有限会社ココ・ファーム・ワイナリーを設立しました。私はその頃、東京の大学を卒業して一般企業に勤めつつ子育てをしていました。そんな中でワインづくりの話を聞き、役に立ちたいと思いました。そして醸造を学ぶために東京農業大学に入学したのです。ちょうど卒業の年に酒造免許を取得でき、以来ワインづくりに取り組んでいます。

学園と社会をつなぐワインづくり

 ココ・ファーム・ワイナリーとこころみ学園の関係を示したのが図1です。

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 ココ・ファーム・ワイナリーは、こころみ学園の園生が思いっきり色々な仕事ができるように機能しています。学園で栽培したブドウをココ・ファーム・ワイナリーが購入します。また、ココ・ファーム・ワイナリーでの仕込み・ビン詰め・ラベル貼りなどの作業を園生が行い、その労務費はココ・ファーム・ワイナリーから学園への業務委託費として支払います。工場で働くのが得意な園生はワインづくりをしますし、食事づくりや洗濯が得意な園生は学園で仕事をするなど、それぞれの得意とする分野に取り組んでいます。
 ワインづくりの90%はブドウづくりです。私たちは栃木県南部の足利市と佐野市にある五つの自家畑(総面積約6ヘクタール)と、各地の契約農家の畑で、適地適品種のブドウを育てています。ワインづくりをしていると、自然とともにあることを実感します。葉緑素が光合成で糖分をつくるのは人間にはできませんし、醸造所でのブドウの発酵も微生物のはたらきによるものです。自然の力を借りてつくったワインを皆さんに飲んでいただいているわけです。
 ココ・ファーム・ワイナリーには、学園と消費者や社会とをつなぐ役割もあります。ワイナリー併設のショップやカフェのほか、毎年ブドウ畑で秋に行う収穫祭は2日間で約1万5千人が参加し、園生たちも楽しみにしていました。昨年と今年は、コロナの影響でオンライン収穫祭を行っています。コロナ禍で酒類の販売は厳しい状況が続いていますが、皆で乗り越えていきたいと思っています。ワインづくりは8,000年以上の歴史あるものです。私たちの仕事も100年単位の仕事だと考え、コツコツと取り組むことで、より美味しいワインをつくっていきたいと考えています。

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