研究・健康レポート

「クロロゲン酸類の健康機能」

長年、コーヒー豆由来のポリフェノールであるクロロゲン酸類の研究に取り組んできた花王株式会社の落合龍史氏。
クロロゲン酸類に備わる体脂肪低減や血圧改善などの健康機能や、近年の研究知見などについてお話を伺いました。

落合 龍史 Ochiai Ryuji

花王株式会社 生物科学研究所 主席研究員

1986年上智大学理工学部化学科卒業。1988年上智大学大学院理工学研究科化学専攻修了。1990年花王株式会社入社。2012年人間総合科学大学大学院心身健康科学博士後期課程修了。博士(心身健康科学)。入社以降、香粧品研究所を経て、生物科学研究所、ヘルスケア食品研究所において家庭品や食品の機能性評価業務に従事。2000年頃からコーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類)の研究に取り組み、さまざまな健康価値を見出してきた。

コーヒー豆由来クロロゲン酸類の健康機能

 コーヒー豆には主にカフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(di-CQA)からなる9種類の化合物が含まれており、これらの総称をクロロゲン酸類(コーヒーポリフェノール)といいます。
 クロロゲン酸類の数ある健康機能の中から、花王が特に注目して研究を進めてきたのは、体脂肪低減と血圧改善のメカニズムです。
 体脂肪低減のメカニズムには、脂肪酸の燃焼を亢進する機能と脂肪合成を抑制する機能の二つがあります。脂肪合成の抑制機能とは、食事により摂取した糖質を脂肪に代謝させにくくする作用です。この二つの機能によって体脂肪が低減されます。
 血圧改善に関しては、血管内皮機能改善に起因した、以下三つの知見が確認されています。一つ目は高血圧の原因の一つである活性酸素の除去作用です。二つ目は食事や運動など必要に応じて血管を拡張させる一酸化窒素合成酵素を活性化する機能。三つ目が血管全体に活性酸素を生成するNADPH*1 酸化酵素を抑制する機能です。クロロゲン酸類のもつこれらの機能が互いに作用し合うことで、血圧改善に効果があると考えられています。

クロロゲン酸類の研究と焙煎による成分変化

 生豆から抽出したクロロゲン酸類で血圧低下効果が認められました。しかしながら、コーヒー飲料の研究時の課題となったのは、コーヒー豆の焙煎による成分変化です(図1)。

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 コーヒー独特の味と香りは、コーヒー豆の焙煎により生み出されます。しかし、焙煎度が深くなるほどクロロゲン酸類の含有量は減少し、酸化成分ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)が生成されます。このHHQがクロロゲン酸類の血圧低下の働きを阻害することが明らかとなっています。そこで私たち研究グループは、HHQを顕著に低減する研究を進め、コーヒー中のクロロゲン酸類の含有量を保ったまま、HHQを除去し、コーヒー特有の香りや苦味、酸味を保ちつつ、クロロゲン酸類の効果を発現させることができました。
 クロロゲン酸類にはその他にも、疲労感の軽減、睡眠の質の向上、更年期症状の緩和といった自律神経機能に関わる効果が期待されています。さらに最新の研究知見では、血管内皮機能への作用に付随した肌の末梢血管の血流改善や保湿作用など、肌状態の改善効果も報告されています。
 私たちの研究グループでは、コーヒーポリフェノールに着目しましたが、コーヒーの香りはリラックス効果があることは既知事実です。またストレスなどで緊張を感じているときの1杯のコーヒーには、緊張を緩和する作用が期待されます。私はこの研究を始める前からコーヒー愛好者であり、休日は自宅でコーヒーの生豆を焙煎して飲用することも多く、コーヒー豆や焙煎の違いを味わい楽しんでいました。この経験が上記の研究にもつながっています。
 クロロゲン酸をはじめとするポリフェノールには、身体の不調を感じた時、崩れそうな身体のバランスを支える力があると考えていますので、食生活をサポートする素材として利用していただければと思います。

  • * 1 NADPH:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸
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