映画にみるヘルスケア 第53回

「ザ・ホエール」
(ダーレン・アロノフスキー監督、22年、アメリカ)

「素晴らしい娘!エッセイも完璧だ。僕の金は全て君に・・」
  “うっ血性心不全”で死を悟った高度肥満症の父、8年ぶりの娘と絆を回復!

映画・健康エッセイスト 小守 ケイ

 アイダホ州のアパート。立ち上がるのも難しい体重272kgの文学教師チャーリー、自分を映さずオンライン講義を行うが、月曜に発作を!通り掛りの青年宣教師に“お守り”を読んで貰って呼吸困難に耐え、毎夕、寄ってくれる看護師で亡き恋人アランの妹リズを呼ぶ。「血圧も喘鳴も悪化。入院しないと今週中に死ぬわ!」。しかし彼は「金がない・・」。

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「男子学生に恋して8歳の私を捨てた・・」

 火曜。リズ診察の“うっ血性心不全”、“血圧238/134”を検索した彼、“ステージ3、緊急入院”に蒼ざめるも、歩行器で窓辺の鳥に日課の餌遣りをしたのち天井釣輪につかまってシャワーを終える。すると、玄関に娘の姿が!
 「エリー!良く来てくれた!」。“アランとの生活”に後悔ないが、8年前の“娘との別離”は痛恨の極み!「高校のエッセイが不可で卒業が危ない」と聞くと、重態にも拘わらず、「書いてあげるよ」。また、自分の治療より娘の幸せを願い、「貯金12万ドルは全て君に」。しかし、父を憎む娘は歩行器無しで歩かせ、転倒させ、立ち去った・・。

「文は自分を正直に表すことが一番だ」

 水曜。エッセイの催促に来たエリー、「何故、太ったの?」。彼はアランの自死で過食に陥った事情を話し、“正直に語る重要性”を説く。夕方、肥満用車椅子を運んで来たリズも、再訪した宣教師に「教会は兄とチャーリーとの愛を認めず、死に追いやった」と真実を告げる。
 木曜。「貯金、本当に私に?」。父の愛を試したい娘、昼食に睡眠薬を入れて眠らせ、大麻を吸う!居合わせた宣教師にも与えると、「宣教師は嘘。教会の金を盗み逃げて来た」。それを娘が録画した頃、リズが来て、「睡眠薬なんて!」。娘を叱り付け、酸素マスク等の応急処置!彼はどうにか覚醒し、古びた紙を娘に渡す。「エッセイだ」。

 「超肥満かよ~」。夕食の宅配ピザ。いつもの配達人に初めて姿を見られた彼、ピザやフライドポテトに大量のケチャップやマヨネーズの爆食へ!しかし、夜、“宣教師”から「エリーが教会に録画を送ったお蔭で赦された」と聞き、娘の“善行”に安堵し、癒された・・。

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映画の見所

 金曜。「“正直に書け”と指導したから私も正直に」。最終講義で初めて自分を映すと学生達は驚愕!彼はPCを投げ捨てた。そこへ娘が怒鳴り込む。「あのエッセイ、不可だった!」。しかし、それは彼女の8歳当時の文で、彼の“お守り”!娘は初めて笑顔に・・。
 孤独な男の最期の5日間を濃密な映像&壮絶な展開で描く室内劇。出演は実力派俳優ぞろいで、主役のB・フレイザーがアカデミー賞主演男優賞を受賞!

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生命を脅かす高度肥満症が日本でも増加

【監修】 公益財団法人結核予防会 理事 総合健診推進センター 所長 宮崎 滋
 日本ではBMI* 25以上を肥満、同35以上を高度肥満と判定し、高度肥満者は200人に一人ほどです。一方、米国では400人に一人がBMI50以上の高度肥満で、高度肥満症患者の増加が医療や社会面で問題になっています。
 従って減量治療の目標も、日本では軽度の肥満で蓄積しやすい内臓脂肪が原因の血糖や脂質、血圧等の上昇の予防ですが、米国では高度肥満症の歩行障害や心不全、静脈血栓、肺栓塞、呼吸不全等による死亡の予防も目標になります。
 高度肥満症には、うつ病等の精神的問題や精神心理的外傷を抱える人、被虐待者が多く、心理的空虚感の解消の為の代理摂食で体重増加した例が多く見られます。日本でも今後は高度肥満症の増加が予測されるので、食事や運動療法に加えて行動療法や精神心理的ケアが必要になります。

  • * BMI(ボディマス指数):体重(㎏)÷身長(m)の2乗で算出
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