研究・健康レポート2

座り続けず、立つことを健康行動のきっかけに

科学技術が進歩し便利になった現代社会では、「座りすぎ」による健康リスクが大きな問題となっています。10年以上前から日本における「座りすぎ」の研究を先導し、国際的な共同研究、一般の人々に向けた啓発活動にも尽力する岡浩一朗氏に、座りすぎに潜む危険性、座りすぎないための生活習慣などについて伺いました。

岡 浩一朗 Oka Koichiro

早稲田大学 スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 教授

1999年早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。早稲田大学人間科学部助手、日本学術振興会特別研究員(PD)、東京都老人総合研究所介護予防緊急対策室主任を経て、2006年から早稲田大学スポーツ科学学術院准教授、2012年から同教授。専門は健康行動科学、行動疫学。日本運動疫学会理事長、日本体力医学会理事、日本健康教育学会理事等。「国民の身体活動不足解消を具現化するための健康スポーツ科学研究の基盤形成」という研究課題で文部科学省から助成を受け、座位行動研究に関する国際共同研究拠点の形成に尽力。著書に『長生きしたければ座りすぎをやめなさい』(ダイヤモンド社、2017)、『「座りすぎ」が寿命を縮める』(大修館書店、2017)。

座りすぎは明らかに健康リスクを高める

 技術が進歩しインターネットや便利な家電が普及することで、人々の活動量は減少しました。現代人が起きている時間の行動を身体活動の強度*1 別に見てみると、3メッツ以上の中高強度身体活動はわずかに3〜8%、1.5メッツ〜3メッツの低強度身体活動は37〜46%で、残りの46〜59%は1.5メッツ以下の活動です*2 。1.5メッツ以下の活動を「座位行動」と呼び、座っていたり寝転んでいたりする場面が相当します。
 世界の研究者たちが座位行動に着目し始めたのは2000年頃。そして2010年以降は急速に研究数が増加し、座位行動が身体に及ぼす影響がわかってきました。私は2011年にオーストラリアに留学して座位行動研究の第一人者に師事し、帰国後は「座りすぎ」という言葉を使って、研究や啓発活動に努めています。
 図1は、1日あたりの総座位時間と死亡リスクの関係を表したグラフです。曲線は6時間を超えたくらいで増加に転じ、8時間以上になると急激に死亡リスクが高くなっていることがわかります。

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 また、アメリカで行われた6年間にわたる追跡調査では、テレビ視聴時間が1日に2時間増加するごとに、肥満リスクが23%、糖尿病発症リスクが14%増加することが報告されています*3 。イギリスで行われた約7年間の追跡調査では、1日の座位行動が10.44時間を超えると認知症の発症リスクが1.5倍になることが明らかにされています*4 。さらに、複数の研究結果を統合したメタアナリシス*5 でも、座位行動が心血管疾患、脳卒中、糖尿病、肥満、認知症、うつ病などのリスクを有意に上げることが示されています。長時間座っていると下肢の大きな筋肉が使われず、消費エネルギーや筋肉量が低下します。血流も悪くなるので、血液中の糖代謝が悪くなったり、脂肪分解酵素の働きが悪くなり、肥満、血管機能の低下、心肺機能の低下、認知機能の低下などにつながっていくのです。

座りすぎないことは運動と同等に大切

 「平成25年国民健康・栄養調査報告」(厚生労働省)によると、成人男性の38%、成人女性の33%が1日8時間以上座っています。また、世界20カ国の成人の座位時間を比較したところ、日本人が最長だったというデータもあります*6 。日本において、座りすぎ対策は急務となっています。ただ、あらゆる国の座位時間が長くなっているので、座りすぎは全人類に共通した問題だと言えるでしょう。
 座りすぎが特に危惧されるのは、外出の機会が少ない高齢者、勤務時間の大半を座って過ごすデスクワーカーです。また、コロナ禍を経て在宅ワーク、オンライン会議、オンラインイベントなどが一気に普及拡大したため、多くの方の座位時間が延びています。さらに子どもも、40〜50年前と比べて歩数が半減しており、テレビを観たりデジタルゲームをする時間が増えています。子どもの頃の運動習慣は大人になっても持ち越されやすいので、子どもの座りすぎへのアプローチも喫緊の課題です。
 なお、「仕事帰りにジムに通っている」「休日にランニングや登山をしている」といった運動習慣を持つ人は、「私は身体を動かしているから大丈夫」と思うかもしれません。ですが、職場や家で座りっぱなしの時間が長いと、運動習慣があっても座りすぎによる健康リスクを十分に防げないことがわかっています。座りすぎないことは、運動をすることと同じように大切なのです。
 厚生労働省は「健康づくりのための身体活動基準2013」を10年ぶりに改訂し「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を取りまとめましたが、成人版、こども版、高齢者版の全てにおいて、座りっぱなしの時間を減らす旨が明記されました。座位行動の研究者として感慨深く思うとともに、人々への啓発活動により一層力を入れたいと考えています。

座りすぎない社会づくりを目指して

 座りすぎない生活習慣としてまず心がけていただきたいのは、“たまに立って動く”ことです。これまでの研究でも、長時間の座位行動を度々中断すると血糖値や中性脂肪、血圧、疲労感などが改善されることがわかっています。この中断のことを「ブレイク」と呼びます。ブレイクの効果的なタイミングの目安は30分に1回、3分程度です。なお、ブレイク中の身体活動は中高強度でも低強度でもリスクの改善度はほぼ変わりません。つまり、コーヒーを淹れに行ったりトイレに行ったりするだけでも十分なのです。会議中などで立てない場合は、座ったまま身体を動かすだけでも健康リスクは低減できます。図2は、ブレイク中におすすめの簡単エクササイズです。

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 私は、日本人の座りすぎ対策として積極的に着目すべきは職場だと考えています。働く人に「自宅でもなるべく立ってください」とお願いしても「家ではゆっくりしたい」と思う方が多いでしょうし、私もその一人です。そこで、座り続けずに適度なブレイクを取り入れながら仕事ができるよう、職場の環境や意識を変えることが求められます。個人レベルでは実践しにくい面もありますので、会社が率先して呼びかけ、社員全体の意識を変えるべきです。
 ハード面から「座りすぎないオフィス」をつくることも効果的です。立っても座っても仕事ができる昇降式のデスクなどを導入することで、仕事中の座位時間は大幅に減っていくでしょう。大学の私の研究室でも昇降式デスクと疲労軽減効果のあるフロアマットを併用し、立って仕事をすることをデフォルトにしています。なお、私たちが行った研究では、仕事中に座っている時間が長いことが生産性やワーク・エンゲージメント*7 の低さと関連するという結果が得られています*8 。つまり、座りすぎを防ぐことは、働く人の健康づくりのためにも、生産性向上のためにも、非常に大切な取り組みなのです。
 子どもの座りすぎについても、「座りっぱなしの授業形態を見直し、適度に立ち上がるようにする」などの取り組みを実践し、積極的に手を打っていくべきです。産官学が連携して固定観念を覆していくことで、座りすぎない社会が実現されていくのです。
 保健師や栄養士といった保健指導に携わる方は、健康づくりへの意識が低い人に会って行動を変えられる貴重な存在です。「運動しましょう」というと拒否反応を示す人でも「30分に1回立ちましょう」だと受け入れやすいのではないでしょうか。座りすぎずに立ち上がる行為は健康づくりの入り口。座りすぎないことの大切さをしっかり伝え、健康づくりをサポートしていただければ幸いです。

  • * 1 身体活動の強度は「メッツ」という単位で表される。安静にしている状態が1メッツとされ、料理をするのは2メッツ、普通の歩行は3メッツなど、生活のさまざまな場面はメッツで示すことができる。
  • * 2 Owen N. et al. Br J Sports Med. 48(3), 174, 2014.
  • * 3 Hu FB. et al. JAMA. 289(14), 1785, 2003.(看護師健康調査に参加した女性が対象)
  • * 4 Raichlen DA. et al. JAMA. 330(10), 934, 2023.(60歳以上が対象)
  • * 5 ある研究課題に関する既存の複数の研究結果を統合する統計手法。得られた結果は信頼性が高いとされる。
  • * 6 Bauman A. et al. Am J Prev Med. 41(2), 228, 2011.
  • * 7 仕事に対する「活力」「熱意」「没頭」が満たされている状態のこと。
  • * 8 Ishii K. et al. J Occup Environ Med. 60(4), e173, 2018.
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