研究・健康レポート2

「緑茶カテキンEGCGの生理作用研究の最前線」

緑茶カテキンEGCGの抗がん作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用、脂質代謝改善作用などが注目されています。長年EGCGの研究を続けてきた立花宏文氏に、EGCGの生理作用のメカニズムや、食品成分の機能的な組み合わせ「機能性フードペアリング」についてお話しいただきました。

立花 宏文 Tachibana Hirofumi

九州大学大学院農学研究院 生命機能科学部門
食料化学工学講座食糧化学分野 主幹教授

1991年九州大学農学部食糧化学工学科博士後期課程退学。1991年九州大学大学院農学研究科助手。1994年同講師。1996年同助教授。2012年同教授、同年主幹教授。2012年九州大学食品機能デザイン研究センター長。2014年日本学術振興会学術システム研究センター研究員。専門分野は、フードケミカルバイオロジー、食品機能学、食品免疫学。

緑茶カテキンEGCGを感知する受容体67LR

 私たちは2004年に、緑茶に含まれるカテキン類の一種であるエピガロカテキンガレート(EGCG)を感知する受容体(センサー)として、67-kDaラミニンレセプター(67LR)を同定することに成功しました*1 。当時はEGCGの抗がん作用は知られていましたが、メカニズムに関しては詳しくわかっていませんでした。EGCGは体内に吸収されづらい性質があるにも関わらず、抗がん作用に関する研究は高濃度のEGCGを摂取する条件下で行われていたため、私たちは何かしらの異なるメカニズムがあるのではないかと考えました。そこで、体内に吸収される微量なEGCGで抗がん作用を説明できる受容体があると仮定して研究を進め、がん細胞の表面にEGCGが結合する(くっつく)現象を見出したのです。おそらく細胞表面にEGCGをキャッチする受容体があるのだろうと考え、分子生物学的手法を用いた研究により、67LRを見つけることができました。その後の研究で、抗がん作用に加えて抗炎症作用、抗アレルギー作用、脂質代謝改善作用などに67LRが関与することがわかっています。
 EGCGが67LRと結合した後に起きる現象を調べる中で、主に2つの経路により抗がん作用や抗アレルギー作用が起こることがわかりました。その経路を記したのが図1です。

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 経路の1つが左側のcAMP(環状アデノシン一リン酸)依存的な経路で、もう1つが右側のcGMP(環状グアノシン一リン酸)依存的な経路です。どちらの経路においても、EGCGが67LRと結合した後、細胞内の分子が連鎖的に活性化され、その結果として抗アレルギー作用や抗がん作用が生まれます。わかりやすく説明すると、EGCGが細胞に信号を送るためのスイッチだとします。EGCGが67LRにくっつくとスイッチがオンになり、細胞内の分子を伝って信号が流れ、その結果電気がつきます。電気がつくというゴールが、抗がん作用や抗アレルギー作用です。この信号の流れが非常に重要で、途中で詰まったり切れたりするとゴールにたどり着かず、抗がん作用や抗アレルギー作用が起きません。
 私たちは、この67LRを介したEGCGの経路を強力に活性化させることにより、既存の抗がん剤では対処できない難治性の膵臓がん細胞の致死作用を増強できることを見出しました。さらに分裂・増殖をほとんどしないため、アタックできないがん幹細胞に対しても、この経路ならアタックすることが可能です。将来的に67LRを活性化できる薬剤が見つかれば、膵臓がんの根治にもつながるのではないかと期待しています。

EGCGの機能性を向上するフードペアリング

 図1のcGMP依存的な経路においては、cGMPの分子が細胞の中でたくさんできることにより、その下のPKCδ(プロテインキナーゼCδ)やASM(酸性スフィンゴミエリナーゼ)といった一連の経路が活性化されます。しかし、がん細胞にはcGMPを分解するPDE5(ホスホジエステラーゼ)という酵素があり、先述の信号の流れを悪くする働きをします。そこで私たちは、PDE5を阻害する薬剤・化合物をEGCGと一緒にがん細胞に与える実験を行い、cGMPが分解されずに信号がうまく伝わり、がん細胞が死ぬことを確認しました。このことから、信号が伝わりにくい原因となるものを除去する、あるいは信号の流れを増幅するものを一緒に飲んだり食べたりすることで、EGCGの効果をより発揮できるのではないかと考えました。
 そこで、40種類強の緑茶抽出物を対象に、EGCGの抗がん作用を高める成分を探しました。そこで見つかったのが、柑橘類に多く含まれるポリフェノールであるエリオジクチオールです。単独では活性化できない微量のEGCGでも、エリオジクチオールを併用すると活性化することがわかりました。つまり、エリオジクチオールはEGCGの活性化をサポートするのです。さらに抗がん作用だけでなく、抗炎症作用、抗肥満作用にもこうした組み合わせの効果が期待できるのではないかと研究を進めたところ、エリオジクチオールの他に、ヘスペリジンという柑橘類に多く含まれるポリフェノールや、ビタミンA、含硫成分が効果のあるペアリングだとわかりました(図2)。一方で効果を下げる食品成分もわかっており、その一例が牛脂などに含まれる飽和脂肪酸です。

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 こうしたEGCGとの機能性フードペアリングの効果について、現在ヒトレベルで実証できているのは抗肥満作用のみです。しかし、動物レベルでは抗アレルギー作用や筋萎縮予防作用で効果を高めることがわかっており、さらなる研究や実用化が期待されます。

ポリフェノールの健康効果を探究

 世の中には、EGCGも含めて「ポリフェノール」と呼ばれる、健康に良いとされる成分が多数あります。しかし、EGCG以上に吸収が悪いものも多く、どのように健康効果をもたらしているのかのメカニズムについては、まだわかっていません。私たちの研究では、EGCG以外のポリフェノールについても、67LRに相当する受容体の候補となる分子を見つけつつあります。今後は、研究を進めて分子を同定するとともに、「ポリフェノールはなぜ健康に良いのか」を明らかにしていきたいと考えています。
 私は長年にわたり緑茶カテキンの研究を続けてきて、EGCGは間違いなく健康に良いと考えています。ただ吸収率は低いので、そこを補う工夫が求められます。そこで、無理なく緑茶を飲める量でEGCGの効果を享受する方法として、フードペアリングに注目していただければと思います。保健師・栄養士など人々の健康づくりを支える立場の方々には、ビタミンAや柑橘由来のポリフェノール、含硫成分等の入った食材と緑茶を一緒にとることによってEGCGの効果を高められるという情報を頭の片隅に置いていただき、保健指導の現場などで役立てていただければと思います。

  • * 1 Tachibana H. et al. Nature Structual and Molecular Biology. 11, 380, 2004.
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