発がんプロモーション試験についての情報

ジアシルグリセロール油を含有するマヨネーズタイプは2003年、食品安全委員会で、食品として摂取する限りは安全とされ、特定保健用食品の表示が許可されましたが、「念のため」の試験が行われることになりました。この際懸念されたのが、発がんプロモーション作用がジアシルグリセロールにあるのではないか、ということです。試験が行われた経緯、試験の内容と結果について説明します。

発がんプロモーション試験にいたる経緯

2003年6月の薬事・食品衛生審議会の新開発食品評価調査部会で、高濃度にジアシルグリセロールを含有するマヨネーズタイプの安全性および効果について審査を行った結果、特定保健用食品と認めることとして差し支えないと判断されました。この際、「なお本食品については提出された試験成績からみて、発がん性を示す所見は認められず、生体内試験でエコナに使用されている1,2-ジアシルグリセロールがプロテインキナーゼC(蛋白質リン酸化酵素、PKC)活性※の亢進に基づいたプロモーション作用を引き起こすとの報告もないが、念のため、(発がん)プロモーション作用を観察するため、より感度の高いラット等を用いた二段階試験を行うこととし、上記試験結果を新開発食品調査部会に後日報告すること」とされました。
これを受け2003年9月11日の食品安全委員会(第10回)で、エコナマヨネーズタイプの特定保健用食品としての安全性が審査された結果、食品として摂取する限りは安全と認められ、特定保健用食品として許可されました。ただし、「ジアシルグリセロールに係る二段階試験については結果がわかり次第、当委員会にも報告されたい」とされました。

発がんプロモーション試験の概要

発がんプロモーションを確認するためのA~Cの3つの試験結果は、2005年8月に食品安全委員会に中間報告がなされましたが「本実験からは健康危険情報については結論しえない、結果確認のための追加実験が望まれる」とされました。
これを受け、追加の試験E~Gが2005年から行われました。これら3つの追加結果、および、継続して行われていた試験Dに関しては、食品安全委員会の新開発食品・添加物専門調査会合同ワーキンググループ(WG)で協議され、2009年2月の第5回WGの総合的な結論として「高濃度にジアシルグリセロールを含む食品は適切に摂取される限りにおいては安全に問題はないと判断する」とされ、評価書(案)の作成に入りました。
その後、新開発食品・添加物合同専門調査会で評価書(案)の記載すべき文言などの議論が進められました。また、2009年7月からは、厚生労働省から提出されたグリシドール脂肪酸エステルに関する追加資料についても議論され、2015年3月に食品安全委員会で、ヒトが通常食品としてDAG油を摂取する場合の発がんプロモーション作用によるリスクは無視できると判断されました。

 
表-1 発がんプロモーション試験の経緯の概要

1998年5月 高濃度にDAGを含む油(DAG油、エコナクッキングオイル)が特定保健用食品として許可。
2003年9月 DAG油を含有するエコナマヨネーズタイプが特定保健用食品として許可されたが、「念のため」の二段階試験が開始された。
2005年8月 「健康危険情報については結論しえない。結果確認のための追加実験が望まれる。」
(第106回食品安全委員会)
2009年2月 「高濃度にDAGを含む食品は適切に摂取される限りにおいては安全に問題はないと判断する。」
(第5回 新開発食品・添加物専門調査会合同ワーキンググループ(WG)での総合的な結論)
2015年3月 「ヒトが通常食品としてDAG油を摂取する場合の発がんプロモーション作用によるリスクは無視できると判断した。」
(第552回食品安全委員会)

DAG:ジアシルグリセロール

image-01

図-1 発がんプロモーション試験の流れ

発がんプロモーション試験結果の概要

2009年3月23日、食品安全委員会 新開発食品・添加物合同専門調査会において、発がんプロモーション試験の結果がまとめられました。以下、「資料1-1:発がんプロモーションに関してこれまでに行われた試験一覧」から、合同専門調査会の判断を抜粋します。

(1)舌を含む口腔内の発がんプロモーション作用について
試験Aの結果は再現性のないものであり、Tgラットにおいて、DAG油の投与による舌を含む口腔内の発がんプロモーション作用は認められないと考えた。
合同WGとしては、最終的に、発がんプロモーション作用の評価は、通常の野生型ラットを用いた試験、すなわち、試験Eの結果に基づいて判断することが適当であると考え、DAG油の投与による舌を含む口腔内の発がんプロモーション作用は認められないと判断した。

(2)Tg ラットを用いた試験において認められた乳腺腫瘍の発生増加について
合同WGとしては、試験Gにおける乳腺腫瘍の発生増加は、再現性のないものと考えた。
また、合同WGとしては、DAG油が口腔内で吸収され、血中に移行し、乳腺という遠隔かつ特定の組織に到達して作用するということは、生理学的な体内動態からも想定しにくいと考えた。
以上のことを踏まえ、合同WGとしては、現時点では最終的に、発がん性の評価は、通常の野生型ラットを用いた試験、すなわち、発がん性試験の結果に基づいて判断することが適当であると考え、DAG油の投与による乳腺の発がん性は認められないと判断した。

(3)皮膚発がんプロモーション作用について
試験Dは、発がん物質によるイニシエーション後に高用量かつ頻回に皮膚に塗布するといった、ヒトが通常食品としてDAG油を摂取する場合には想定し得ない暴露条件下におけるものであり、皮膚への塗布による暴露と口腔からの消化管を通じた暴露とは状況が異なること等から、合同WGとしては、ヒトが通常食品としてDAG油を摂取する場合に外挿することは適切でないと判断した。

(参考)大腸発がんについて
合同WGとしては、DAG油の投与による大腸発がんプロモーション作用は認められないと考えた。

◆試験結果を抜粋した一覧表はこちらから

◆審議結果の詳細に関しては、食品安全委員会のHP
(http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20050920001 および
www.fsc.go.jp/sonota/dag/dag1_qa_20150310.pdf)をご覧ください。

◆これらの試験結果の一部は、以下の論文、資料に掲載されております。
・飯郷正明, 厚生労働省科学特別研究事業平成15年度総合研究報告書, 2005
・Tsuda H. et al., Food Chem.Toxicol., 45, 1013-1019, 2007
・Umemura T. et al., Food Chem.Toxicol., 46, 3206-3212, 2008
・Takasuka N. et al., Cancer Letters, 275, 150-157, 2009

Page Top