ジアシルグリセロール油の安全性に関する報告

これまでに実施されたジアシルグリセロール油のヒト臨床試験、動物等の試験の一覧を表-1と表-2に示しました。これらの試験が実施された当時のジアシルグリセロール油を可能な範囲で分析した結果、いずれもグリシドール脂肪酸エステルが意図せずに一般食用油よりも多く含まれていたことを確認しました。

ヒトでの臨床試験結果

これまでに実施されたジアシルグリセロール油のヒト臨床試験において、被験者の血液および身体上の検査項目に問題は認められませんでした(表-1)。

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表-1 ヒト摂取試験 論文リスト

DAG:ジアシルグリセロール

動物等での試験結果

ジアシルグリセロール油の安全性評価試験は、医薬品ガイドラインもしくは国際的に受け入れられているガイドラインにしたがって実施されました。これらの試験はGLP(Good Laboratory Practice)※に適合し、花王および外部専門機関において、急性毒性試験、遺伝毒性試験、反復投与毒性試験、長期栄養試験、発がん性試験、 生殖毒性試験、加熱処理ジアシルグリセロール油の安全性試験、発がんプロモーション試験、消化器内容物および血清、糞便中の1,2-ジアシルグリセロール量の測定、消化管粘膜細胞、およびヒト大腸由来細胞を用いたプロテインキナーゼC(蛋白質リン酸化酵素、PKC)活性※の測定が実施され、いずれの試験においても、一般の食用油と比較して安全性に問題は認められませんでした(表-2)。
これらの動物試験では、ヒトでの摂取量を十分上回る条件にて試験が実施され、ヒトの摂取量に換算すると、平均的に食用油を摂取する量の12.5~48.5倍の高用量に相当します。この量は、体重50kgのヒトが1日10gの油を摂取する量に換算すると、125~485g/日となります。
特にICHガイドラインにしたがって実施されたマウスの発がん性試験では、ヒトの摂取量に換算すると、平均的に食用油を摂取する量の48.5倍を一生涯与えた結果です。

表-2 これまでに実施したジアシルグリセロール油の安全性試験

試験 目的 試験名 試験
基準*
投与条件/対 ヒ
ト摂取量
DAG/加熱
後DAG
引用文
献・資料
急性毒性 多量摂取時の 影
ラット単回投
医薬品、
OECD
~15g/kg/75
影響なし/
影響なし
23/23
反復毒性 長期間に多量 摂
取時の影響
ラット亜急性
(28日)
医薬品 ~3.5g/kg /
17.5倍
影響なし/- 23/-
ラット亜急性
(90日)
OECD ~3.8g/kg /
19倍
- /影響な
- /24
イヌ慢性(1年) FDA ~2.5g/kg /
12.5倍
影響なし/- 25/-
ラット発がん
(一生涯)
ICH ~2.6g/kg /
13倍
影響なし/- 26/-
マウス発がん
(一生涯)
ICH ~9.7g/kg /
48.5倍
影響なし/- 27/-
遺伝毒性(変
異原性)
遺伝子への影響 Ames試験 医薬品 陰性/陰性 28/28
染色体異常試
医薬品 陰性/陰性 28/28
小核試験 台湾/医
薬品
(~2g/kg) /
(10倍)
陰性/陰性 28/28
生殖毒性 奇形誘発 催奇形性 ICH ~4.6g/kg /
23倍
影響なし/- 29/-
生殖機能 二世代生殖毒
FDA ~4.6g/kg /
23倍
影響なし/- 30/-
発がん修飾 発がん促進 中期多臓器発
がん試験
医薬品 ~2.9g/kg /
14.5倍
影響なし/- 31/-

* OECD:経済協力開発機構テストガイドライン
 ICH:日・米・EU三極医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議に基づき策定されたガイドライン
 FDA:US Food and Drug Administrationガイドライン
 医薬品:医薬品ガイドライン

 これらの安全性試験は、GLP※に適合して実施しております。
 より詳細な結果は、引用文献・資料*23 をご覧下さい。

その他文献等の情報

  • 27名の健康な男性に1日20gのジアシルグリセロール油(15名)とトリアシルグリセロール油(12名)を摂取させたときの脂溶性ビタミンの血清動態への影響を検討した結果、ビタミンA、E、Dについては摂取した脂質の違いによる変化は認められないことが報告されています*10
  • ラットにおける化学発がん物質誘導乳腺がんに及ぼす脂質の影響を検討した中で、同じ脂肪酸組成のジアシルグリセロール油とトリアシルグリセロール油とにおいて発がん性に差のないことが報告されています*32
  • 第67回日本癌学会(2008年10月28日~30日)にて遺伝子組み換えラット(Hras128)を用いたジアシルグリセロール油の経口投与による乳腺への発がんに与える影響に関する研究発表があり、ジアシルグリセロール油投与群での誘発率がトリアシルグリセロール投与群よりも高かったと報告されています*33
  • ジアシルグリセロール油に関して国際的に受け入れられているガイドラインに沿った2年間の発がん性試験で乳腺への発がん性は認められておりません*26,27
  • PKC活性化と関連があるといわれている1,2-ジアシルグリセロールが、ジアシルグリセロール油摂取時と同程度にトリアシルグリセロール油摂取時に生じているか確認した結果、消化管(胃、小腸、盲腸、大腸)内容物、糞便中、血清中に生じている1,2-ジアシルグリセロール量に差は認められないことが報告されています*34,35
  • ラットにジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油を投与し、消化管粘膜組織(食道、胃、小腸、盲腸、大腸)のPKC活性差があるかを比較した結果、ジアシルグリセロール油投与群と、トリアシルグリセロール油投与群に差は認められないことが報告されています*35
  • 培養したヒト大腸由来細胞にジアシルグリセロール油、または、トリアシルグリセロール油を添加し、PKC活性に差があるかを確認した結果、ジアシルグリセロール添加とトリアシルグリセロール添加で差は認められないと報告されています。*35

◆ジアシルグリセロール油に関する動物およびヒト安全性試験をまとめた総説

  • Morita O. et al., Food Chem.Toxicol., 47, 9-21, 2009

引用文献・資料

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