研究・健康レポート2

「朝バテ」を防ぐ睡眠と休養の新しいアプローチ
―身体アライメントへの着眼およびクロロゲン酸類の活用について―

朝起きても疲れが取れていない、体が重いといった「朝バテ」の背景には、日中の体の使い方や生活習慣など、さまざまな要因が関係している可能性があります。そこで、疲労回復と睡眠の質との関係に着目し、身体アライメントや休養法、クロロゲン酸類の摂取が起床時の疲労感に及ぼす影響などについて、花王株式会社ヒューマンヘルスケア研究所の峯岸慶彦氏にお話を伺いました。

峯岸 慶彦 Minegishi Yoshihiko

朝の疲労回復感に着目した理由

 10万人規模の調査*1 によると、日本人の多くが疲労を感じており、特に20~40代の現役世代でその傾向が強いことが報告されています。科学が進歩しているにもかかわらず、疲労はいまだに解決の難しい課題です。その理由の1つは、疲労には肉体的な要因だけでなく、精神的な要因など、さまざまなものが複雑に関係しているからです。だからこそ、疲労への対処も一人ひとり異なります。一方で、疲労の背景が人それぞれでも、「疲労が回復した」と実感できることは、誰もが求めることではないでしょうか。そして、その回復を最も実感しやすいのが、朝起きた瞬間ではないかと思ったのです。そこで、限られた睡眠時間でも、朝目覚めた時に「スッキリした」「体が軽い」「しっかりと眠れた」と感じられるように、睡眠の質を高めることが、疲労に悩む人の助けになるのではないかと考え、研究を進めています。

身体アライメントと睡眠・休養の関係

 睡眠の質を高める方法には、生活習慣改善をはじめ、寝具やサプリメントなどさまざまなものがあります。それでも多くの人が疲労を感じているのは、自分に合った方法に出会えていなかったり、継続することが難しかったりするからかもしれません。そこで、私たちは2024年に、生活者を対象に、どのような要因が疲労改善に関係するのかを調べました。その中で見えてきたのが、同じ休養方法を試しても、効果を実感できる人とできない人がいるということです。
 分析を進めると、体の姿勢や使い方、いわゆる身体アライメント*2 のゆがみの状態が、休養法の効果実感に関係している可能性が見えてきました。10年以上前から開発されてきた歩行から身体の使い方を分析する技術を使ったアプリ「ウォークコーディネーター*3 」を用いて、身体アライメントのゆがみ状態(A〜Cの歩行タイプ)が休養法の効果実感に与える影響を調査しました(図1)。

画像

 PR(パッシブレスト:消極的休養)では、普段よりベッドでの休息時間を1.2倍に増やしてもらいました。一方、AR(アクティブレスト:積極的休養)では、普段の生活に加えて30分程度の適度な運動を取り入れてもらいました。どちらも、同じ条件で休養法を試してもらい、その効果を比較しました。その結果、身体アライメントのゆがみが良好で、上手に身体を使って歩くAタイプでは、PR、ARいずれの方法でも効果を実感しやすい一方、歩き方が不安定なBタイプや力で身体のゆがみをごまかして歩くCタイプでは、効果を実感しにくい傾向がみられました。
 これはまだ予備的な研究結果ではありますが、睡眠などの休養効果の発現において、身体アライメントのゆがみ、姿勢の状態にも意識を向けることの重要性を示唆するものと考えています。日中の姿勢だけでなく、睡眠中の姿勢自体も睡眠の質に関係すること、日中と睡眠中の姿勢がお互いに影響している可能性も最近の研究で見えてきています。

クロロゲン酸類と「朝の疲労感」に着目

 さらに私たちは、食品成分によるアプローチとして、コーヒーなどに含まれるポリフェノールの一種、クロロゲン酸類に着目しました。これまでの研究から、クロロゲン酸類については、肥満や高血圧、認知機能、肌の健康などさまざまな健康機能があることがわかっており、睡眠についても深い睡眠や副交感神経の活動との関係が示されていました。
 そこで、起床時の疲労感と睡眠の質への影響を、2025年に検証しました。解析対象は30~59歳の健康な男女134名で、月から金曜日に日勤で働き、起床時に疲労感を感じている人です。コーヒー豆由来のクロロゲン酸類約120mgを含む粉末清涼飲料を2週間摂取してもらい、毎朝の疲労感や睡眠の質を評価しました。その結果、クロロゲン酸類を摂取したグループでは、プラセボ群と比較して、起床時の疲労感が低く抑えられて推移する様子が見られ、2週目の週後半で有意に改善しました(図2)。また睡眠の質の実感についても同様に有意な改善が見られ、1週目の段階から変化を感じられている様子が見られました(図3)。

画像

画像

 今回の試験期間は2週間ですので、より長期間摂取した場合の効果や、運動など他の生活習慣との組み合わせについては、今後さらに検証していく必要があります。

休むだけでなく、日中の過ごし方も大切

 研究を通じて改めて感じているのは、睡眠や疲労を改善するには、生活を多面的に捉えてアプローチしていくことの重要性です。例えば、クロロゲン酸類の摂取に加えて、日頃から歩行習慣がある人や湯船につかる習慣がある人では、睡眠の質の改善がさらにみられやすい可能性を示す知見も得られています。疲労や睡眠は非常に複雑で、個人差も大きいものです。だからこそ、睡眠だけ、運動だけ、食品成分だけと切り分けるのではなく、「休む・動く・食べる」という生活全体から、その人に合った方法を考えることが重要だと考えています。
 保健師や栄養士の皆様の日々のご指導の中で、生活者が「これならできそう、やってみたい」と思えるような具体的な行動提案に、こうした知見が一助となればと考えており、今後もさらに研究を進めていきたいと考えています。一人ひとりに合った小さな工夫を積み重ねることが、疲労回復や睡眠の改善、そしてQOLの向上につながっていくのではないでしょうか。

  • * 1 日本疲労学会・日本リカバリー協会「日本の疲労状況2025」
    https://www.recovery.or.jp/research/9513/
  • * 2 骨盤・脊柱・股関節・膝・足首などの骨格がどのように並び支え合っているかを示す考え方。須藤元喜氏のインタビュー(No.78 P12-13)を参照。
  • * 3 花王が2023年に開発した、スマートフォンをお腹に当てて8歩歩くだけで、歩行時の姿勢や癖を評価できる研究アプリ。須藤元喜氏のインタビュー(No.78 P12-13)を参照。
Page Top