巻頭インタビュー

翌日に疲れを残さないための睡眠習慣

良質な睡眠は、脳や身体の健康を支えるだけでなく、翌日の気分や集中力、パフォーマンスにも影響します。では、朝スッキリ目覚め、充実した1日を過ごすためには、どのような睡眠習慣が大切なのでしょうか。睡眠科学・睡眠指導を専門とする田中秀樹氏に、良い睡眠につながる生活習慣や睡眠環境、「朝バテ」を防ぐためのポイントについて伺いました。

田中 秀樹 Tanaka Hideki

良い睡眠は「夜」だけの問題ではない

 私はもともと脳や心に関心があり、研究を進める中で、睡眠が脳や心の働きや健康を支える重要な要素だと考えるようになりました。実際、うつと睡眠の関係などを見ても、睡眠は心の健康と深く結びついています。さらに睡眠に注目したのは、生活習慣や環境を変えることで改善できるからです。自分の考え方や行動を少し変えることで睡眠を整え、脳や心、体の健康につなげられるのではないか。そう考えて、睡眠改善についての研究を続けてきました。
 では、良い睡眠とはどのようなものでしょうか。私は、寝つきや睡眠の維持が安定し、朝スッキリ目覚め、翌日の体調や気分が充実している状態だと考えています。夜に良く眠れるだけでは十分ではなく、翌日、その人らしく元気に過ごし、持っている能力を発揮できることまで含めて「良い睡眠」なのです。良い睡眠は、集中力や意欲を高め、仕事や学習のパフォーマンスを向上させるだけでなく、美肌や体重管理、転倒予防、フレイル予防など、健康にもつながります(図1)。

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 一方で、睡眠不足や不眠が続くと、疲労や集中力・判断力の低下、うつや不安など心の健康にも影響します。さらに高血圧や、肥満、糖尿病など生活習慣病との関連も指摘されています。日中のパフォーマンスにも影響し、仕事でミスをしやすくなったり、事故につながったりすることもあります(図2)。

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 こうしたことから私は、睡眠改善は自分の能力や魅力を発揮し、健康で幸せに生きていくための土台だと考えています。つまり、より良く生きるためのウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な健康・幸福)にもつながるのです。そこで私たちは、睡眠とウェルビーイングとの関係を確かめるため、2,000名を対象とした大規模な研究*1 に取り組みました。調査の結果、成人でも高齢者でも、十分に睡眠を取ってしっかり休養できているという「睡眠休養感」が、健康感や幸福感と関係していることがわかりました。また、仕事や趣味などを通して生きがいを持って生活していることも、健康感や幸福感と関係していました。

「睡眠時間」より「睡眠休養感」が重要

 睡眠について、私は「量」「質」「タイミング」「規則性」の4つが大切だと考えています。最近は「睡眠の質」が注目されていますが、質を高めれば短時間睡眠でもいい、ということではありません。必要な睡眠時間には個人差があり、6時間で十分な人もいれば、8時間必要な人もいます。
 そこで重要になるのが、先ほどの研究結果でも触れた「睡眠休養感」、すなわち睡眠によって「しっかり休めた」と感じられているかどうかです。睡眠時間だけで判断するのではなく、翌日の体調や頭の冴えも含めて、自分にとって十分な睡眠が取れているかを見ることが大切です。
 朝起きるのがつらい、疲れが残っているなど、いわゆる「朝バテ」に悩んでいる方は、睡眠の質だけでなく、量やどの時間帯に寝ているかというタイミングや規則性にも注目してほしいと思います。体温がスムーズに下がり、自律神経も副交感神経が優位になりやすい、睡眠に適した夜の時間帯にしっかり眠ることが重要です。
 また、平日は睡眠不足なのに、休日になると昼近くまで寝てしまう方も多いでしょう。これを繰り返すと、平日と休日の睡眠時間や起床時刻の差が大きくなり、体内時計が乱れます。これを「社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)」と呼びます。眠気やだるさ、頭痛、胃の不調、やる気の低下などは、睡眠リズムの乱れが原因になっている場合もあります。特に子どもや若い人では、睡眠リズムを整えるだけで症状が改善することもあります。
 リズムを整えるうえで、私が特に大切だと考えているのが、朝の過ごし方です。朝は太陽の光が入る明るい場所で、朝食をしっかり食べましょう。光によって脳の体内時計を、食事によって胃腸などの体内時計を整えます(図3)。

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 朝に2つの時計を同時に合わせることで、全身のリズムも整いやすくなります。だから、私は「夜、早く寝なさい」と言うよりも「まず朝を整えましょう」と伝えています。早起きをすると、自然と夜に眠くなり、早寝につながります。つまり、朝を整えることが、結果的に夜の睡眠を整えることにつながるのです。

良い寝つきのためにできること

 先述の睡眠とウェルビーイングの関係を調べた研究では、睡眠を良くするための行動や生活習慣が、健康や幸福感にもつながることがわかりました。特に、「毎日、決まった時間に起きる」「夕方以降は居眠りをしない」「寝床で悩まない」「休日も、起床時刻を平日と2時間以上ずらさない」といった行動が重要です。夕方以降に居眠りをすると、夜に眠るための力を使ってしまい、睡眠の質が低下することがあります。コロナ禍の研究論文*2 でも、「毎日決まった時間に起きる」「寝床で悩まない」ことが、成人・高齢者ともに睡眠休養感と関連することがわかりました。さらに、成人では運動習慣、食事バランス、人生の目標が、また高齢者では信頼感も睡眠休養感と関係していることがわかりました。
 寝床で考え事をしたり、スマートフォンなどを見たりすると、脳が興奮して寝つきが悪くなります。そして、休日に起床時刻を大きくずらさないことで、睡眠の「質」や「量」だけでなく、「リズム」も大切にしましょう。
 最近、睡眠を邪魔するものとしてスマートフォンやタブレットがよく挙げられます。夜に強い光を浴びると脳が刺激され、特にブルーライトは、睡眠に関わるメラトニンの分泌を抑えることが知られています。できれば寝る1時間前、難しければ30分前から使用を控えるといいでしょう。ただ、私は「スマホは絶対にダメ」と禁止するだけでは、なかなか続かないと思っています。以前、娘に「夜はやめる代わりに、朝起きたら好きなだけやっていい」と伝えたところ、自分から早起きして朝に楽しむようになりました。大人も同じです。夜の動画やドラマを、朝の楽しみに変えてみる。禁止するのではなく、自然に行動を変えられる仕組みをつくることが大切なのです。
 私は、温度、湿度、光などを組み合わせて、より快適な環境をつくるための研究*3 も行っています。睡眠環境では、温度だけでなく湿度にも注目してほしいと思います。夏は室温26℃以下、湿度55~60%程度、冬は16~19℃程度、湿度50~60%くらいが目安です。特に梅雨時は、除湿するだけでも体感的に涼しくなります。また、寝室だけでなく、寝る1時間ほど前から過ごすリビングの明るさも大切です。150~250ルクス程度の少し暗めの、暖色系の照明にするといいでしょう。寝室では、天井の明るい照明ではなく、足元などの間接照明を使うのがおすすめです。

「生活リズム健康法」のすすめ

 睡眠改善には、睡眠を良くするための行動を知識として学ぶだけでなく、自分の生活の中で、何ができていて、何ができていないのかを振り返ることが大切です。私は「生活リズム健康法」(図4)という方法を提案しています。

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 できていることは「○」、できていないことは「×」、頑張ればできそうなことは「△」をつけてもらいます。そして、いきなり「×」を改善しようとするのではなく、「△」の中から、できそうなことを3つ以内で選んで、2週間続けてみましょう。欲張らず、1つでもいいのです。「これならできそう」という小さな行動から始めてみてください。
 私自身は、良い睡眠のために、朝はなるべく明るい場所で食事をするようにしています。それから、必要なときは30分以内の短い仮眠を取ったり、時間がある休日には夕方に散歩をしたりしています。もう1つ心がけているのが、物事をできるだけ前向きに捉えることです。失敗したり、後悔したりすることもありますが、「次に生かすためのいい経験になった」「この段階で気づけてよかった」と考えるようにしています。何かあっても抱え込みすぎず、マイナスに捉え続けない。いわゆるポジティブ・リフレーミングを心がけています。

睡眠を「明日を良くする習慣」に

 私は、睡眠を「疲れたから仕方なく取るもの」ではなく、「明日をより良く生きるために取るもの」として考えていただきたいと思っています。日本には「寝ていない自慢」のような文化もありますが、これは間違っています。よく眠ることは、集中力や感情のコントロール、判断力を高め、自分の力を発揮するための大切な準備です。
 保健師や栄養士など、健康づくりに携わる専門職の方々には、睡眠が健康感や幸福感を高める大切な要素であることを、ぜひ伝えていただきたいと思います。これは大人だけではありません。子どもにとっても、食事と同じように睡眠は脳や心、体をつくる大切なものであり、感情をコントロールする力や人を思いやる心などにも関わっています。だからこそ、学校現場でも睡眠の大切さを伝え、子どもたちを守る睡眠教育をもっと広げていってほしいと思います。

  • * 1 山岡香織ら. 睡眠と環境. 18(2), 1, 2024.
  • * 2 Yamaoka K et al. Am J Health Promot. 2026 Aug 13
    https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/08901171261476510
  • * 3 田中秀樹. 日本臨牀 . 78(5), 847, 2020.
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