研究・健康レポート1

福島県桑折町における地域一丸となった健康づくり

福島県桑折町では、東日本大震災やコロナ禍といった困難を乗り越えながら行政と住民が力を合わせて健康づくりに取り組み、健康指標の改善を実現しています。
町役場で住民の健康増進事業に尽力する佐久間ミチル氏に、桑折町で行っている健康づくりの取り組みについて、詳しく教えていただきました。

佐久間 ミチル Sakuma Michiru

地域の健康課題に目を向けて

 福島県の北部に位置する桑折(こおり)町は自然豊かで美しい町です。私は生まれ育ったこの町の人々の健康を守りたいと考え、町役場で行政栄養士として働いています。人口11,029人(2024年3月1日現在)という小規模な町なので住民と行政の距離が近く、日頃からさまざまな健康相談をお受けしています。町の高齢化率は37.7%(2024年3月1日現在)で、全国平均の29.1%(2023年9月15日現在)を上回っています。
 桑折町が抱える健康課題は、メタボリックシンドローム・高血圧・脂質異常症・糖尿病の該当者が多い、子どもの肥満が多いなど多岐にわたります。背景には、車社会による運動不足があると推察されます。2011年の東日本大震災後は原発事故の影響もあって大人も子どももさらに出歩かなくなり、健康指標の悪化が懸念されました。そこで「みんなが幸せを実感できる 元気なまち こおり」の実現に向けて、健康づくり事業に尽力してきました。

町をあげた「こおり健康楽会」の取り組み

 町が行う健康づくり事業の課題として、健康イベントを実施しても健康意識が高い人ばかりが集まり、健康無関心層や多忙な働き盛り世代を取り込めない点がありました。また町民から、「町の健康づくりに協力したい」という声をいただくこともありました。そこで2020年に設立したのが、「こおり健康楽会(がっかい)」です。メンバーは、大学の先生、医師、薬剤師、農業協同組合、建設業組合、PTA、商工会、老人クラブなど、さまざまな視点を持つ方が集いました。
 そして2020年、コロナ禍の自粛生活でも健康意識を高めてほしいと考え実施したのが「健康こおりンピック」です。①イラスト・ポスター、②作文、③運動の取り組み、④川柳・キャッチコピー、⑤減塩おすすめレシピ、⑥お父飯(とうはん)レシピ(男性提案のレシピ)、⑦日本一健康なまちにする愛ディアという7部門の作品を募集したところ、1,410点が寄せられました(図1)。

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 参加者は小さなお子さんから高齢者まで幅広い世代にわたり、多彩な工夫や身近な人への思いやりが込められた素敵な作品揃いでした。入賞者には町役場でメダルを贈呈したところ、とても喜んでいただき、90代の男性からは「この歳で初めてメダルをもらったよ」と最高の笑顔をいただきました。
 また、2022年には「こおりヘルスアップDAY」というイベントを開催(写真1)。

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 さまざまな世代の町民に壇上で自身の「健康宣言」を発表していただいたのち、町長が「ヘルスアップタウンこおり宣言」をしました。他にも、タレントの照英さんらによる健康トークショー、筋肉量や血管年齢の測定会、ビタミンスムージーの試飲会、地域の特産品マルシェなども開催し、会場は大いに盛り上がりました。1日で1,000人以上の町民にお越しいただき、「健康について考える機会となった」という感想をたくさんいただきました。
 イベント以外の継続的な取り組みには、「こおり健康ポイント」があります。各種健診や健康イベントに参加したり、スポーツ施設を利用したりするとカードにポイントが貯まる仕組みで、一定数集めると地元の特産品や健康グッズと交換できます。「ポイントを貯めたいから毎週プールに行っています」という声もあり、楽しい健康づくりにつながっています。

ウォーキングで楽しい運動習慣づくり

 福島県は2017年度から「市町村先駆的健康づくり実施支援事業*1 」を行い、民間企業のノウハウを活用した健康づくりを推進しています。桑折町はこの事業を活用し、2020年度から花王株式会社とともに「歩行力改善プログラム」に取り組んでいます(写真2)。

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 プログラムではまず、「歩行の質測定会」で歩行スピード、歩行バランス、歩行年齢、歩行のくせから、転倒や腰痛等の傾向を分析します。その後3〜6カ月間、「ホコタッチ®」という専用の歩行計をつけて生活していただき、定期的に評価シートを渡します。期間終了時には再度測定を行い、歩行力がどれほど改善したかを花王の担当者から伝えていただきます。2023年度は、10代から80代まで78名の方が参加されました。
 参加者はやる気いっぱいで、結果に一喜一憂しながら取り組んでくださいました。測定会では、楽しそうに数値を見せ合う様子が印象的でした。参加者の歩数と歩行速度はともに増加していて、歩幅や蹴り出し力といった細かい数値も改善しました。「普段から歩くようになった」という声も多く聞かれました。
 こおり健康楽会の取り組みや歩行力改善プログラムを続ける中で、町民の健康意識が高まり、楽しみながら健康づくりに取り組む場面が増えてきました。その成果は、メタボリックシンドローム該当者率、特定健診受診率といったデータにも表れています(図2)。

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 今後もたくさんの方と連携し、自身も楽しみながら町の健康づくりを加速していきたいと思います。
 保健師や栄養士といった健康づくりの専門職は、人々の健康な未来をつくる素敵な仕事です。変化が大きい時代ではありますが、試行錯誤しながらベストを尽くし、地域の方の幸せを支えていきましょう。

  • * 1 2023年度から「市町村先駆的民間プログラム活用事業」に改称。
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