映画にみるヘルスケア 第52回

「タイヨウのうた」
(小泉徳宏監督、06年、日本)

「死ぬまでは生きまくるの! ギターが弾けなくても歌うわ♪♪」
  色素性乾皮症(XP)に倒れるも“宝物”の音楽を遺した16歳の少女

映画・健康エッセイスト 小守 ケイ

 「朝4時には必ず帰るのよ!」。初夏の湘南、七里ヶ浜の高台。近くでレストランを営む夫婦の一人娘、薫はXPのため太陽光を浴びれず、日没後から駅前広場でギターを抱えて歌う日々。夜明け前に帰宅し窓を開け、眼下のバス停を見ると、いつもの男子高校生がバイクでサーフィンの早朝練習に来る。彼をジッと見詰める薫、微笑み眠りにつく・・。

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「私は薫。16歳。趣味は音楽。彼氏はいません!」

 「オッス、薫!」。ある朝、薫の唯一の親友、美咲が高校をサボって来る。二人は楽しく過ごし、日没後に駅前広場へ。すると、あの男子高校生の姿が! 薫は走り、追い付くと「窓から見て・・」と告白するも彼はただキョトン!
 数日後の夜明け前、広場の帰りにバス停で歌っていると彼が! 「君が作った歌? 夏休みに聞きに行くよ」。一方、父母は病院で「娘は“覚悟を”と言われた年齢を過ぎているが、新薬は?」と尋ねるも、医師は首を横に振った。

「神経症状が進み、近く全身麻痺も起こるだろう」

 約束の夏休みの日。駅前広場は塞がり、歌えない。「じゃ!」とバイク二人乗りで横浜へ。広場で薫が歌い出すや人垣ができ、大喝采! その帰路、「孝治です。付き合って下さい!」。しかし、時計は4時28分! 「帰らなきゃ!」。空が白む中、薫は必死に走り、家に飛び込むと泣き崩れ、追って来た孝治を入れない。孝治は、薫を探しに来た美咲に「薫はXPよッ!」と言われ、皮膚科の本を調べる・・。

 「恋なんて、やっぱり無理ね」。傷心した薫は孝治を拒み、広場にも行かない。心配した父が美咲に相談、孝治を夕食に招く。「君の歌をCDに。バイトで貯金中だよ」とパンフを渡され、「有難う・・」。しかしその頃、薫のギターを弾く手指に異変が! 医師は病状の進行を告げる。入院した薫、「ギターは無理でも歌うわ!」。孝治は人知れず泣く・・。
 晩夏の夜のレコーディング。「彼女はプロ並み。CD、売り込みますよ!」と孝治。やがて秋晴れの昼の浜辺。車椅子の薫が防護服姿で父母と孝治のサーフィンを見に来る。「私、死ぬまでは生きるって決めたの!」。

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映画の見所

 まもなく薫は死亡し、大好きな向日葵に包まれて見送られた。そして晩秋の日、ラジオから柔らかな薫の歌声が! “優しさに出会えて良かったよ・・♪♪”。
 主演は本作で女優デビュー、日本アカデミー賞新人俳優賞に輝いたシンガーソングライターのYUI(薫)と塚本高史(孝治)。映画も音楽もヒットし、ドラマや舞台化、ハリウッドでも「ミッドナイト・サン〜タイヨウのうた」がリメイクされた。

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太陽光が引き起こす病

【監修】 公益財団法人結核予防会 理事 総合健診推進センター 所長 宮崎 滋
 色素性乾皮症は、短時間の日光暴露部位の皮膚に強い発赤や水疱、びらんなどの激しい異常な日焼けと、露光部に皮膚がんを生じる疾患です。原因は紫外線による皮膚細胞のDNA損傷を修復する機構が遺伝的異常により作動しないためです。
 日本では2.2万人に一人と稀な疾患です。遺伝子の異常によりAからG、およびVの8タイプが知られており、日本ではその半数が皮膚症状に神経症状を伴う重症のA型です。A型では、乳児期に短時間の露光で激しい日焼けを起こして診断され、学童期に運動障害が生じ、10歳代前半に脳萎縮を伴う中枢性病変、感覚障害などの末梢神経症状が出現し、20歳までに死亡します。遺伝子の異常部位が判明していますが、現在、治療法は皮膚がん予防の紫外線防御、神経症状にはリハビリなどの対症療法しかなく、難病に指定されています。

  • * XP:Xeroderma pigmentosum
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