巻頭インタビュー

「コロナ禍での食生活の変化とこれからの食のあり方」

新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の日常は様変わりし、食生活も大きな影響を受けています。コロナ禍における食生活の変化や、免疫機能を落とさず健康を保つために栄養面で心がけたいこと、さらには持続可能な社会を目指すための食のあり方について、武見ゆかり氏にお話しいただきました。

武見 ゆかり Takemi Yukari

女子栄養大学 栄養学部 教授

東京都出身。慶應義塾大学文学部文学科フランス文学専攻卒業。編集社勤務を経て、1986年香川栄養専門学校栄養士科卒業。1988年女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程修了。女子栄養大学栄養学部助手、専任講師、助教授を経て、2005年より現職。2014年より大学院研究科長。管理栄養士。博士(栄養学/1997年女子栄養大学)。専門分野は食生態学、栄養教育学、公衆栄養学。農林水産省・厚生労働省「フードガイド(仮称)検討会」委員の一人として「食事バランスガイド」作成にも尽力。その他、厚生労働省「厚生科学審議会」委員、農林水産省「食育推進会議」委員、厚生労働省「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」座長などを歴任。

食生活の重要度・優先度の変化

 私たちは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響下における人々の食生活への関心の変化とその要因を明らかにすることを目的に、2020年7月に、同年4〜5月の緊急事態宣言期間中に特定警戒都道府県に指定された13都道府県在住の20~69歳男女2,299人を対象とするインターネット調査を行いました。この調査では、コロナ流行前、緊急事態宣言中(2020年4〜5月)、及び調査時(2020年7月)の食行動や食態度の変化を追いました。また対象者の婚姻状況、世帯構成、就労状況、経済状況等を把握し、社会経済的状況を考慮した分析を行いました*1
 コロナ禍以前から調査時までの食生活の重要度・優先度がどう変化したかを示したのが表1と図1です。

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 食生活の重要度・優先度ともに「変化なし」が約半数となっており、変わっていない人が最も多いという結果になりました。変化があったと回答した人では、重要度・優先度ともに「改善傾向」が多くなりました。これはおそらくコロナ禍で家庭での時間が増え、健康に関心が高まったために、食事を充実させ栄養バランスにも配慮しようという意識が高まったのでしょう。一方、「悪化傾向」が重要度で6.5%なのに対して優先度で14.1%と多いのは、重要だと考えているけれど経済的要因や世帯状況などにより優先することができない状況の表れでしょう。
 今回の調査では、男性や若年層、未婚者などで食生活への関心が低くなる傾向が見られました。また、就業形態、世帯収入、コロナ禍による世帯収入の変化などの経済的状況が食生活の悪化に関連していることが明らかになりました。コロナ以前から、世界的に収入や学歴といった社会経済的な格差が健康や食事内容に影響していることが問題視されており、日本でも国民健康・栄養調査などで所得により生活習慣や食生活に格差があることが指摘されています。今後は食生活を悪化させるリスクの高い集団の特徴を把握し、背後にある社会経済的な要因に配慮したアプローチが必要となっていくでしょう。

食行動と食事内容の変化

 コロナ禍による食行動の変化としては、外食が減り家庭での食事が増え、それに伴い家庭で調理する頻度が増えたことが挙げられます。このように食行動が変わったことにより、大きく変化したのが食事づくりと食事内容です。私の研究室では、コロナの影響下での調理の変化とその要因、食物摂取との関連についての調査・分析を行いました*2 。コロナ禍前と比べて食事をつくる労力・時間の変化を尋ねたところ、「増加」が24.6%、「減少」が7.3%、「変化なし」が68.1%という結果でした。「増加」グループでは、野菜や全粒穀物、乳製品など食事バランスを整える上で有用な食品の摂取頻度が増え、「減少」グループでは、インスタント食品や冷凍食品、テイクアウトの利用頻度が高いという結果が出ています。また、世帯収入が減って家計の悪化した方やコロナ禍で食事の重要性が低くなってしまった方で、食事をつくる労力・時間が減る傾向が見られました。コロナ禍によって家庭での食事が増え、労力と時間をかけてバランスに配慮した食事をつくる方が増えるという変化の一方で、経済的に厳しい状況にある人では家庭での食事が必ずしも望ましい方向に変わっていない状況がうかがえます。
 さらに、食事づくりの負担感が増大するといったマイナス面も報告されています。例えば子どもがいる世帯の場合は、コロナ禍の影響により家庭で子どもの世話をする時間が増えるなど、食事づくり以外での負担も増えています。日本では家事全般を女性が担うことが多く、コロナ禍で家庭での時間が増えたことにより、料理や育児などの負担が女性にかかっているのでしょう。こうしたジェンダーギャップの課題も、コロナによって浮き彫りになったことの一つです。
 食事内容の変化では、子どもへの影響も注目されています。国立成育医療研究センターが実施した「コロナ流行下のこどもの食事への影響に関する全国調査*3 」によると、緊急事態宣言で小中学校が休校になった期間にはバランスの良い食事をとれている子どもの割合が低下し、学校が再開するとその割合が戻っています。これは、栄養バランスに配慮した学校給食を食べられなくなったことが要因でしょう。世帯所得が低い家庭ほど、バランスの良い食事をとれている子どもの割合が大きく低下しており、先述した社会経済的状況の食生活への影響の一例といえるでしょう。
 給食に関しては、2020年夏期とその1年前の事業所給食をモニタリングしたところ、食堂の利用時間制限や黙食といったコロナ対策の影響によっておかずの摂取が減り、その結果1食あたりの野菜摂取量が11%減ったという研究*4 も報告されています。これらの結果から、学校や事業所の給食は、適切な栄養をとるという面で大きな役割を果たしていることがわかります。
 今、コロナの影響により食生活が悪化している人たちへのアプローチが求められています。私たちの調査では、コロナで収入が減った人たちにとって最もニーズが高い情報は食費の節約法でした*5 。食費を節約しつつ栄養バランスをとる方法、食材を無駄なく使い切る方法などを、必要とする人にどのように伝えていくかが重要です。最近は社会情勢の影響もあり、さまざまな食品の価格上昇が続き、低所得世帯に大きな影響を与えています。そうした世帯に対して、どのように食料を供給できるかを考える必要もあります。これまでも無償で食料を提供するフードバンクなどの活動が行われていましたが、コロナ禍ではSNSなどを活用して引き取り手がない食品を安価で販売する動きが活発になりました。事業者にとっても、経済的に困難な状況の人たちにとってもプラスになる、こうした新しい支援の仕組みづくりが求められています。

コロナ禍の食生活で気をつけるべきこと

 コロナ禍においては、個々の食品や栄養素が取り沙汰されがちですが、確実にこれが良いというものはありませんし、ましてそれだけ食べていれば良いというものもありません。免疫機能を落とさないという面では、適切な栄養素を適切にとることに尽きます。基本は「食事バランスガイド(図2)」を参照し、主食と主菜と副菜をそろえた食事を1日2回以上とるように心がけることです。

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 また、注意していただきたいのが、食塩の過剰摂取です。日本人は男女ともに、目標よりも平均して約2~3g程度食塩を多く摂取しており、減塩は大きな課題です。家庭での調理の際には常に食塩控えめを心がけ、デリバリーやテイクアウトを利用する際には付属する調味料やドレッシングの使用量を半分に減らすなど、工夫していただきたいと思います。私はテイクアウトを利用する際に、買ってきたものに野菜など家にある食材を加えて食べることが多いです。野菜を多く食べられることに加え、ボリュームが増えるため一人分の料理を二人で食べられ、塩分も薄まりますし、適量を食べることにもつながります。
 コロナ以前より体重が増加する「コロナ太り」の要因については、多くの調査によって身体活動量の減少が報告されています。外出が減り消費エネルギーが減っている方が多いのです。対策としては、エネルギーのコントロールが基本となります。エネルギー摂取量がエネルギー消費量と釣り合っているかを知るための一番簡単で正確な方法は体重を測ることです。コロナ禍を機会に、毎日時間を決めて、体重をモニタリングする習慣をつけていただきたいと思います。

持続可能な食を目指して

 私たちが行った食品ロスに関する分析*6 で、「コロナによって食品ロス削減の考え方が変わりましたか」という質問をしたところ、3割程度が「前より意識するようになった」と回答しました。また6割以上が「食品ロスの増加について知っている」と回答するなど、コロナ禍で食品ロスについての関心が深まっていることがわかりました。ところが、売れ残りの購入など「食品ロス削減に向けたコンテンツを利用した」は6%以下と低く、問題意識をもっていても具体的な行動には至っていませんでした。そうした状況を考えると、食品ロス削減に向けた家庭での取り組みとしては、適量を考えて食べる、残ったものは保存して次の食事に回すといったことが、無理なく始められることでしょう。その他、店で手前に並んだ消費・賞味期限の近い商品を購入する「てまえどり」や、流通エネルギーが少ない地産地消なども、日常生活ですぐに取り組めることでしょう。
 厚生労働省では、2021年から「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会*7 」を実施し、産学官等が連携した食環境整備に取り組んでいます。そうした国としての政策とともに、個人レベルでも自らの健康と地球の健康の両方を考えていく姿勢が求められています。
 SNSなどで誰でも発信できる時代になり、世の中には根拠のないものを含め、さまざまな情報があふれています。管理栄養士や保健師といった専門職の方は、誤った情報に一般の方が振り回されることのないように、情報を整理し、その科学的根拠を確かめ、読み解いて伝える役割を果たしていただきたいと思います。また、コロナの重症化においては、基礎疾患や肥満がリスク要因になることがわかっています。日頃から食生活を整え、より良い健康状態を維持しておくことがいかに重要かを、しっかりと伝えていただければと思います。

  • * 1 林芙美ら. 日本公衆衛生雑誌. 68, 618, 2021.
  • * 2 Hayashi F. et al. Nutrients. 13, 3864, 2021.
  • * 3 コロナ流行下のこどもの食事への影響に関する全国調査
     https://www.ncchd.go.jp/press/2021/210824.html
     Horikawa C. et al. Nutrients. 13, 2743, 2021.
  • * 4 Nakamura M. et al. Nutrients. 13, 1606, 2021.
  • * 5 赤岩友紀ら. 日本公衆衛生雑誌. 69, 3, 2022.
  • * 6 新庄友香ら. 女子栄養大学栄養科学研究所年報. 26, 1, 2021.
  • * 7 自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会
     https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/newpage_19522.html
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