食事から摂取した油は、小腸で脂肪分解酵素のリパーゼによって消化分解され、主に2-モノアシルグリセロールと脂肪酸になって吸収されます。吸収後、小腸上皮細胞内でトリアシルグリセロールに再合成され、カイロミクロンと呼ばれるリポ蛋白の粒子になります。このカイロミクロンはリンパ管を経て血中に入ると、脂肪組織やその他の組織の毛細血管に存在するリポ蛋白リパーゼ(LPL)によって分解され、筋肉や脂肪組織に取り込まれます。分解されきれずに残った小型のリポ蛋白粒子をレムナントと呼びます。このレムナントは、主に肝臓に取り込まれて消失します。
また、一般にカイロミクロンやレムナントなどのリポ蛋白中に取り込まれているトリアシルグリセロールを中性脂肪と呼びます。したがって、油を含む食事を摂ると、血中中性脂肪値は一時的に上昇します。この食後の血中中性脂肪値の上昇が長時間にわたって持続する症状が報告され、「食後の高脂血症」と呼ばれています。中性脂肪に富むリポ蛋白の代謝過程で生じる中間代謝物であるレムナントリポ蛋白の血中濃度の増加が、動脈硬化性病変の発症、進展に深く関与することが明らかになっています*1 。
ジアシルグリセロール油の効果については、様々な被験者背景で試験が行われています。代表的な試験についてご紹介します。
より多くの試験内容については、論文リスト、継続摂取による体脂肪などに対する効果検証試験一覧、食後中性脂肪などに対する効果検証試験一覧を参照ください。
10名の男性を対象に、ほぼ同じ脂肪酸組成のジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油を体重60kgあたり10g、20g、44g摂取した場合の血中中性脂肪値の変化を経時的に比較検討しました。その結果、ジアシルグリセロール油を摂取した場合、食後の血中中性脂肪値がトリアシルグリセロール油摂取時より抑制されることがわかりました(図1)*2 。
また、ジアシルグリセロールの消化吸収および小腸におけるトリアシルグリセロールへの再合成量、リンパへの分泌量の検討を行っています。14Cオレイン酸のジアシルグリセロール油およびトリアシルグリセロール油をラットに投与し、それらの動態を経時的に比較した結果、ジアシルグリセロール油投与群ではトリアシルグリセロール油投与群と比較して、小腸でのトリアシルグリセロールの再合成量の低下および遅延が認められました*3 。
図1 食後の血中中性脂肪増加量の比較 <<油摂取量=20gの場合>>
血中中性脂肪値の上昇が抑えられた要因は、ジアシルグリセロールの構造に起因していると考えられます。すなわち、ジアシルグリセロールの主成分である1,3-ジアシルグリセロールは、グリセリンの2位に脂肪酸がないため、消化生成物として2-モノアシルグリセロールを生成しにくく、その結果、小腸上皮細胞内においてトリアシルグリセロール合成の基質である2-モノアシルグリセロールが不足します。1-モノアシルグリセロールは、トリアシルグリセロールに再合成される経路が2-モノアシルグリセロールと異なり*4 、食後の血中中性脂肪の上昇抑制に繋がると考えられています(図2)。
図2 ジアシルグリセロールの代謝メカニズム
また、カイロミクロンの代謝過程で生成するレムナントについて、男性6名を対象に検討しました。ジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油をそれぞれ体表面積(m2)あたり30gずつ摂取した場合のレムナントの変化を経時的に比較した結果、ジアシルグリセロール油を摂取した場合にレムナント・コレステロールおよびレムナント・トリグリセリドの値が、トリアシルグリセロール油摂取時に比べて、有意に低値を示しており、食後のレムナントの上昇が抑えられたことが明らかとなりました(図3)*5 。
図3 食後のレムナントリポ蛋白に及ぼす効果
27~49歳の健常男子38名を被験対象とし、ジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油を4ヶ月間摂取した場合の体脂肪動態が二重盲検法で比較されました。1日当たりの総摂取脂質量は50gと制限され、総摂取脂質量のうちの10gがジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油に置き換えられました。
食事制限によって、両群とも体重、体脂肪量に減少が見られましたが、8週目から、ジアシルグリセロール油摂取群の体重およびBMIがトリアシルグリセロール油摂取群に比べ、統計的に有意に減少しました。またCT画像から算出した内臓脂肪量も4週目からジアシルグリセロール油摂取群で統計的に有意な低下が認められました(図4)*6~8 。
図4 長期摂取後の体脂肪蓄積抑制効果
その効果は体脂肪量の多い被験者ほど、大きく認められました。また、健常な若年女性を対象とした試験においても、ジアシルグリセロール油の内臓脂肪やウエストに対する減少効果が報告されています*9 。
さらに、米国人肥満患者を対象にしたヒト試験を行いました。シカゴ在住の米国人男女で肥満および過体重(BMI 30以上)の127名を対象に、ジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油を6ヶ月間摂取した時の体脂肪動態を比較検討しました。試験時の食事は各被験者の試験参加前の摂取エネルギーから500-800kcalを減じた減量食とし、ダブルブラインドの並行試験法(二重盲検試験による群間比較試験)で行いました。その結果、ジアシルグリセロール油摂取群はトリアシルグリセロール油摂取群と比較して、体重および体脂肪量の減少において統計的に有意な差が認められました(図5)*10 。
図5 米国人に対するジアシルグリセロール油の体脂肪低減効果
糖尿病における食事療法へのジアシルグリセロール油の応用についても検討が行われています。高中性脂肪血症を有する糖尿病患者における3ヶ月間の試験において、血中中性脂肪および血糖の指標であるヘモグロビンに糖が結合したグリコヘモグロビン(HbA1c)の明らかな低下が報告されています*11 。
さらには、小児肥満*12 や腎透析患者*13 においてもジアシルグリセロール油の有用性が報告されています(図6、図7)。
図6 肥満小児へのジアシルグリセロール油長期摂取に対する効果
図7 透析患者へのジアシルグリセロール油長期摂取に対する効果
1年間の自由摂取条件下での平行比較試験
この試験は、BMIが25以上および/または血清中性脂肪が150mg/dl以上の312名に対してジアシルグリセロール油もしくは脂肪酸組成を揃えたトリアシルグリセロール油を、それまで使用していた食用油に変えて1年間日常生活の中で使用するという条件下で行いました*14 。試験油は外観からは区別のつかない容器に入れそれぞれの家庭に送付し、試験期間中、被験者に対し3ヶ月ごとに身体測定、血液検査、食事調査を行いました。
試験期間中、食事内容、活動量に両群に有意な差は有りませんでした。
トリアシルグリセロール油群では体重減少が認められなかったのに対し、ジアシルグリセロール油群では体重は有意に減少し、12ヶ月目では両群間の平均値に約0.9kgの差が認められました(図8)。また、摂取する脂肪量に対する試験油の割合を比べた場合、10-20%の試験油摂取量ではジアシルグリセロール油群はトリアシルグリセロール油群と比べ有意に低下していました。更にジアシルグリセロール油摂取割合が20%を超える群は10-20%の群に対し有意に低下していました(図9)。
図8 体重の変化
図9 脂肪摂取量に対する試験油の割合とBMIの変化
2年間の自由摂取下での試験
この試験は、BMIが25以上および/または血清中性脂肪が150mg/dl以上の60名に対して、ジアシルグリセロール油を、それまで使用していた食用油に変えて2年間日常生活の中で使用するという条件下で行いました*15 。試験期間中総エネルギー量に有意な変動は認められず、BMI、ウエスト周囲長、拡張期血圧、HbA1cの低下および、HDLコレステロールの上昇が見られました(図10)。また、全被験者では有意差は見られませんでしたが、ウエスト周囲長、中性脂肪、HDLコレステロール、血圧、血糖値の5つのうちリスクの数が3以上の高リスク群(n=11)において、試験開始後6ヶ月目よりリスク数の有意な低下が見られ、試験終了の24ヶ月まで効果が継続しました(図11)。
図10 2年間の身体測定値および血液生化学検査値の変化
図11 生活習慣病高リスク群の変化