ジアシルグリセロール油の代謝メカニズム

ジアシルグリセロール油とトリアシルグリセロール油の燃焼熱と吸収率について

一般の油(トリアシルグリセロール)はグリセリン骨格に3本の脂肪酸がエステル結合しているのに対し、ジアシルグリセロールは2本の脂肪酸がエステル結合したもので、ジアシルグリセロールには、1,3-ジアシルグリセロール及び1,2-ジアシルグリセロールの2つの構造異性体が存在します。自然界におけるこれらの存在比は約7:3です(図-1)。
なぜジアシルグリセロール油には、トリアシルグリセロール油に比べて体重や体脂肪量が低減するといった栄養特性が認められるのでしょうか。まず考えられるのがジアシルグリセロール油は普通の油に比べエネルギー(カロリー)が少ないのではないかということです。摂取エネルギーが少なければ体に脂肪がつきにくくなるのは当たり前です。この点について、ジアシルグリセロール油とトリアシルグリセロール油の燃焼熱と吸収率が調べられました。同じ脂肪酸組成のジアシルグリセロール油とトリアシルグリセロール油の燃焼熱をボンブカロリーメーターで測定した結果は、それぞれ、38.9kJ/g(9.30kcal/g)、39.6kJ/g(9.46kcal/g)であり、ほぼ同じでした*1
1日10g(日本における成人の平均的食油摂取量)の食用油をジアシルグリセロール油に置き換えた場合の摂取エネルギーの差は約0.1%となり、無視できる差でほとんど影響はないと考えられます。また動物実験の結果から、ジアシルグリセロール油摂取とトリアシルグリセロール油摂取において、見かけの吸収率に差異は認められていません*1 。従って、摂取後の血中中性脂肪の上昇が小さく、体脂肪への蓄積が少ないというジアシルグリセロール油の栄養特性は、吸収したエネルギー量の違いによるものではないと考えられます。

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図-1 ジアシルグリセロールの構造

ジアシルグリセロールとトリアシルグリセロールの代謝メカニズムについて

体重や体脂肪量の低下は、食事として摂取したエネルギー量よりも体内で消費されるエネルギー量のほうが上回った場合に起こります。そこでジアシルグリセロールが体内に吸収された後の代謝特性に関心が向けられました。つまり、ジアシルグリセロールが吸収された後、体内で消費されるエネルギー量のほうにトリアシルグリセロールとの違いがあるのではないかということです。
ジアシルグリセロールの代謝メカニズム解析のため、まず小腸における消化、吸収、再合成についてジアシルグリセロールの特性が調べられました。図-2に示したようにトリアシルグリセロールは、消化管内において両端の脂肪酸がリパーゼにより選択的に加水分解され、脂肪酸と2-モノアシルグリセロールに消化され小腸上皮細胞に吸収されます。小腸上皮細胞では、脂肪酸と2-モノアシルグリセロールから再びトリアシルグリセロール(中性脂肪)が合成され体内に運ばれます。この反応は極めて素早く起こることが知られています。

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図-2 ジアシルグリセロールの代謝メカニズム

では、ジアシルグリセロールではどうでしょうか。動物を用いた研究から、1,3-ジアシルグリセロールのほとんどが2-モノアシルグリセロールではなく、1-モノアシルグリセロールに消化されることがわかっています*2 。この1-モノアシルグリセロールができることは、ジアシルグリセロール摂取時の特徴と考えられます。1-モノアシルグリセロールと2-モノアシルグリセロールとでは、グリセリンに脂肪酸が結合する位置が違うだけですが、中性脂肪への再合成の原料としては使いやすさに大きな差があることがわかっています。すなわち、1-モノアシルグリセロールは中性脂肪合成に利用されにくく、このため、ジアシルグリセロール摂取時には小腸での中性脂肪への再合成が遅くなった*3 と考えられます。中性脂肪への再合成が進みにくくなるとともに、細胞内の遊離脂肪酸の濃度が高まることが認められており*4 、これが小腸における脂質の分解・燃焼機能を高めると考えられています。実際、動物実験において、ジアシルグリセロール油摂取後にトリアシルグリセロール油摂取に比べて体内での脂質の燃焼が促進されているという知見が報告されています*5 。さらに、小腸において、熱産成タンパク質であるUCP-2(uncoupling protein-2)および脂肪酸のβ酸化分解に関与する酵素群の遺伝子発現が増加し、脂肪酸のβ酸化分解活性が上昇すること*4 肝臓において、脂肪酸のβ酸化に関与する酵素の遺伝子発現が増加し、活性が上昇すること、肝臓の脂肪酸合成に関与する酵素の活性が抑制されることが報告されています*6
この様に、ジアシルグリセロールの栄養特性の仕組みには、小腸における消化、吸収、再合成過程の特徴が関係しているのではないかと推測されています。ジアシルグリセロールの作用機構について現在考えられている仮説を模式的に図-2に示します。

エネルギー代謝亢進作用について

ヒューマンカロリメーターと呼ばれる部屋型の代謝測定装置を使うと、1日の生活でヒトがどれだけのエネルギーを消費して、どれだけの脂肪をエネルギーとして消費(燃焼)しているのかを測定することができます。さらに、食事中の脂肪の炭素原子を安定同位体(13C)でラベルしておくことで、食事で食べた脂肪の燃焼量を直接測定することができます。
ジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油を含む食事を食べたときの14名の成人男女(男性8名、女性6名)の1日の脂質燃焼量をヒューマンカロリメーターを用いて測定したところ、体脂肪率の高い男女(6名、平均体脂肪率 30.2%)では、脂肪燃焼性を示す呼吸商(RQ)がジアシルグリセロール油を含む食事をしたとき脂肪燃焼側に有意に変化し、1日の脂肪燃焼量が増加する傾向が認められました*7 。また、ジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油を13Cでラベル化して、その呼気への排出を測定したところ、ジアシルグリセロール油摂取時にはトリアシルグリセロール油摂取時と比べて呼気への13Cの排出が有意に速く、ジアシルグリセロール油がトリアシルグリセロール油と比較してすばやく燃焼されやすいことがわかりました(図-3)。
さらに、11名の成人男女(男性6名、女性5名)、14名の成人男女(男性8名、女性6名)の1日の脂肪燃焼性を測定し、一緒に食べた食事に含まれる脂肪(トリアシルグリセロール)を13Cでラベル化して、ジアシルグリセロール油と一緒に食べた食事の脂肪の燃焼性を測定したところ、1日の脂肪燃焼量が有意に増加し(図-4)、食事の脂肪の燃焼性も亢進することがわかりました(図-5)*8,9
これらのことから、ジアシルグリセロールはそれ自身がエネルギーとして消費(燃焼)されやすいだけでなく、一緒に食べた食事の脂肪(トリアシルグリセロール)の燃焼性も高める性質があることがわかり、このことが体脂肪への蓄積が少ないというジアシルグリセロール油の栄養特性の理由のひとつではないかと考えられます。

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図-3 呼気中のジアシルグリセロール油またはトリアシルグリセロール油由来の13CO2排出量

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図-4 脂質燃焼量

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図-5 食後10時間のトリアシルグリセロール油由来の13CO2排出量

引用文献

  • * 1 Taguchi H. et al., Lipids, 36, 379-382, 2001
  • * 2 渡邊浩幸ら, 日本油化学会誌, 46, 301-307, 1997
  • * 3 Murata M. et al., Biosci.Biotech.Biochem., 58, 1416-1419, 1994
  • * 4 Murase T. et al., J.Lipid Res., 43, 1312-1319, 2002
  • * 5 Kimura S. et al., Int.J.Vitam.Nutr.Res., 76, 75-79, 2006
  • * 6 Murata M. et al., Brit.J.Nutr., 77, 107-121, 1997
  • * 7 Hibi M. et al., Lipids, 43, 517-524, 2008
  • * 8 Hibi M. et al., Jpn.Pharmacol.Ther., 35, 1241-1248, 2007
  • * 9 Hibi M. et al., Int.J.Obes.(Lond.), 32, 1841-1847, 2008
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