油の主成分であるトリアシルグリセロールは、グリセリンに3本の脂肪酸がエステル結合しています。それに対して、ジアシルグリセロールは2本の脂肪酸がエステル結合したもので、1,3-ジアシルグリセロールおよび1,2-ジアシルグリセロールの2つの構造異性体が存在します。自然界におけるこれらの存在比は約7:3です(図-1)。
ジアシルグリセロールは、植物油、動物油を問わず、ほとんどの食用油に数%存在しており*1,2 、人類が長年摂取してきた油脂成分です。たとえば、オリーブ油(ジアシルグリセロール含量5.5%)の場合、地中海地方の人々は1日に約60gのオリーブ油を摂ることから、ジアシルグリセロールとして約3gを摂取していることになります(表-1)。
しかし、ジアシルグリセロールの栄養学的な特性に関する研究は、トリアシルグリセロールの消化分解物に過ぎないという認識から皆無でした。
花王は、1970年代に、安価なパーム油からチョコレートの原料となるカカオ脂代替物を製造するために、酵素反応を用いた工業化条件を検討していました。しかし、反応条件を検討する中で問題となったのが、ジアシルグリセロールの副生成でした。ジアシルグリセロールの生成は、カカオ脂代替物の収率と品質低下に関わる深刻な問題でした。
このときに、ジアシルグリセロールの栄養学的な特性を調べてみようという発想が生まれました。論文を調べた結果、すでにHamoshらは消化機能が未発達な乳児には口中に脂肪分解酵素のひとつである舌腺リパーゼという特殊な酵素が存在し、母乳中の乳脂の一部を分解し、ジアシルグリセロールにすることで消化を助けていることを報告していました*3 。そこで、ジアシルグリセロールの消化吸収を明らかにし、栄養学的な特性等に着目した研究を開始しました。
研究の結果、高純度のジアシルグリセロール油の外観、性状は通常の油脂とほとんど変わらず、サラダ用にもまた、加熱用にも使用できることがわかりました。カロリーも9kcalで油脂としての栄養価も一般の食用油と同様でした。また、ジアシルグリセロール油の風味は、従来の油よりもさっぱり感があり、胃もたれをしにくいという特徴が確認されました。