研究・健康レポート

「新型コロナウイルス感染症による後遺症のフォローアップ」

新型コロナウイルス感染者数の増加に伴い、後遺症に悩まされるケースが報告されています。日頃から新型コロナウイルス感染症の重症者の診療にあたっている讃井將満氏に、感染後のフォローアップや後遺症ケア、さらに患者の社会復帰に向けて求められることなどを伺いました。

讃井 將満 Sanui Masamitsu

自治医科大学 総合医学第2講座 主任教授 副センター長
麻酔科 科長・集中治療部 部長

1993年旭川医大卒業。麻生飯塚病院で初期研修および麻酔科研修、新東京病院で心臓麻酔研修後、1999年より米国マイアミで麻酔・集中治療の臨床研修を行う(小児科インターン、麻酔レジデント、移植麻酔フェロー、集中治療フェロー)。2005年帰国後、自治医大さいたま医療センターでクローズドICUを創設。2010年より東京慈恵会医科大学集中治療部准教授、2013年より自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授・部長。2018年麻酔科科長(兼任)。研究テーマは、tele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、循環モニタリング。臨床専門分野は、集中治療全般、周術期呼吸循環管理。

新型コロナウイルス感染症の経過と自宅療養

 新型コロナウイルス感染後の一般的な経過としては、約8割の方が軽症、約2割の方が入院が必要な中等症以上の病態となります。さらに、そのうち5%程度の方がICUでの治療が必要な重症になります。私が勤務する自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部では、2020年3月より重症者の診察を行っています。
 重症化しやすい患者の特徴として、男性、65歳以上、肥満の方が多く見受けられます。さらに喫煙者、心不全、高血圧、糖尿病などの基礎疾患がある方もリスクが高いとされています。
 2020年11月以降のいわゆる「第3波」で感染者が急増した頃は、医療体制の逼迫に伴い自宅療養となるケースが見られました。このときに問題とされたのが、新型コロナウイルス感染症の特徴である、Happy hypoxia(幸せな低酸素症)と言われる症状で、身体の酸素濃度が低くても息苦しさを感じない状態をいいます。怖いのは、本人がこのHappy hypoxiaの状態のまま密かに肺炎が進行し、息苦しさが出現した時には、すぐに人工呼吸をはじめないと命が危ない可能性があることです。
 このため、自宅療養の場合には、1~2時間おきに、ご自身もしくはご家族が以下をチェックすることが重要です。

  ・パルスオキシメーターの酸素飽和度の数値
  ・呼吸の荒さの変化
  ・1分間あたりの呼吸回数
  ・活動性(部屋を移動する、トイレに行く、階段を昇るなど)の変化
  ・顔色や手足の冷たさの変化

 現在では、各自治体において自宅療養者の病状管理アプリを導入したり、保健所から患者への連絡回数を増やすなど、濃やかなフォローが行われるようになっていると思います。

新型コロナウイルスの後遺症とは

 新型コロナウイルス感染者数の増加に伴い、後遺症についても問題となっています。後遺症の症状としては、図1のように非常に多岐にわたります。

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 最も一般的な症状としては疲労、息切れ、咳、関節の痛み、胸の痛みなどがあり、その他にも発疹、脱毛、味覚・嗅覚障害、睡眠障害、集中力・記憶低下、うつ、筋肉痛、頭痛、間欠的な発熱、頻脈や動悸などがあります。
 先程、新型コロナウイルスの重症化リスクは男性が高いと話しました。しかし後遺症に関しては、女性のほうが残りやすいことがわかっています。理由は明らかではありませんが、女性のほうがウイルスに対する免疫反応が強いためではないかと考えられています。
 また最近では、イギリスの国立衛生研究所(NIHR)が、後遺症を以下の4つのカテゴリーに分類しています*1
 ①肺・心臓への慢性的障害
 ②集中治療後症候群
 ③ウイルス後疲労症候群
 ④持続する新型コロナウイルス感染症の症状
 この4つのカテゴリーについて、概要を記したのが図2です。

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 年齢層をみると、②集中治療後症候群の後遺症が残るのは高齢者が多く、③ウイルス後疲労症候群は年齢層が若い傾向があります。また回復に要する期間としては、④持続する新型コロナウイルス感染症の場合、ほとんどのケースにおいて3~5カ月で回復するといわれています。一方、① ② ③に関しては3~4カ月で回復する場合もあれば、年単位で続くこともあります。特にウイルス後疲労症候群から筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に移行した場合は難治性で、寝たきりになるなど生活の質が極端に落ちてしまいます。

後遺症のケアのポイント

 後遺症をケアする場合には、まずは医療者が正しい認識を持つことが必要です。特に ③ウイルス後疲労症候群やME/CFSについては、まだよく知られていない病気ということもあり、単なる不定愁訴として扱われるケースもあるようです。
 ポイントとなるのは、症状によってケアの方法が異なることです。③ウイルス後疲労症候群やME/CFSの場合、少し動けるようになったからといってリハビリをすると、かえって悪化してしまいます。しかし、②集中治療後症候群の場合は、ICU入室中からの早期リハビリが必要です。医療者自身がこうした正しい認識を持ち、ケアを行うことが重要なのです。
 ちなみに、②集中治療後症候群、③ウイルス後疲労症候群やME/CFSは、新型コロナウイルス感染症に特有の後遺症ではありません。今回の新型コロナウイルス感染症で後遺症が目立つのは、発生数が多いからです。世界で1億人を超える人が短期間で同じ病気にかかることはごくまれなこと。だからこそ早急な対策が必要なのです。

コロナ後遺症からの復帰に必要なこと

 こうした後遺症に関するフォローアップについては、2020年11月以降のいわゆる「第3波」で感染者が急増した頃は不十分な状況でした。けれども今年に入り、後遺症の外来を始める病院が増え、メディアでとりあげられる機会も増えるなど、社会的な認知が広まってきたように思います。内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室が認知活動の一環として後遺症に関する動画を公開している*2 ほか、厚生労働省と日本呼吸器学会による後遺症に関する共同調査の実施*3 など、さまざまな取り組みが行われています。しかし「こうすれば必ず治る」という特異的な介入方法は見つかっていません。後遺症の実態調査、相談窓口の整備、訪問看護や在宅・通所のリハビリ支援、臨床心理士によるケアなど、まだまだ課題が多いのが現状です。
 また、新型コロナウイルス感染症から回復した方が元の生活に戻る際に、周囲の過剰な警戒や偏見によって社会復帰が難しいケースが出ています。厚生労働省の退院基準を満たしていれば感染性は極めてゼロに近く、過剰に恐れる必要はありません。スムーズな社会復帰のためにも、一人ひとりが正しい知識を持つことが必要です。

  • * 1 https://www.nihr.ac.uk/news/living-with-covid-nihr-publishes-dynamic-themed-review-into-ongoing-covid/25891
  • * 2 https://www.youtube.com/watch?v=NvHD6hNSAak
  • * 3 https://www.jrs.or.jp/modules/covid19/index.php?content_id=19
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