研究・健康レポート

「ビタミンと免疫」

幅広い経験を生かし、栄養や健康、料理についてわかりやすく伝える活動を続けている佐藤秀美氏。
免疫力アップに欠かせないビタミンの種類や効果・効能や、野菜の栄養素を効果的にとりいれる方法についてお話いただきました。

佐藤 秀美 Satoh Hidemi

日本獣医生命科学大学 客員教授

横浜国立大学卒業。家電メーカーで調理機器の研究開発を行なった後、1996年お茶の水女子大学大学院博士課程修了、博士号(学術)取得。東京栄養食糧専門学校卒業(栄養士免許取得)。1997年より日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)非常勤講師、2015年より日本獣医生命科学大学客員教授を務める。研究者と主婦の目線で研究を続け、料理・健康・栄養の実践ポイントをエビデンスに基づいて、分かりやすく生活者に伝えている。専門分野:食物学。

食生活を整えることの重要性

 食生活で最も重要なのは、生命を維持するために必要な栄養素である糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルをとることです。その中でも、身体を作る原料やエネルギーになる三大栄養素は炭水化物(糖質)・脂質・タンパク質で、ビタミンとミネラルは、三大栄養素の栄養効果を高めるための必須成分です。一方、糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルの五大栄養素以外の食品成分は、必要な栄養素が揃った上で摂取することにより、健康の増進につながります。
 厚生労働省が定める日本人の食事摂取基準*1 に対して、性別や年代を問わず必要量に達しているのが糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素で、男女ともに各年代で不足しがちなのがビタミン・ミネラルです*2 。ただし、年代別の傾向をみると、高齢者になると栄養素の摂取量が増えてきます。これは、高齢者は、主食や副食など栄養のバランスが取れる食事スタイルになっていることが考えられます。
 不足しがちなビタミンやミネラルを補う際には、基本的にはサプリメントに頼らず、食生活の中で栄養素をとることを心がけましょう。厚生労働省では、ビタミンやミネラルをサプリメントでとった際の過剰症対策として、摂取上限量を設定しています。一方、食事からの摂取では、基本的に過剰症のリスクはありません。まずは栄養素が不足しない食事のとり方を考えることが重要です。

ビタミンと免疫の関係

 ビタミンと免疫の関係について考える際に、まず大前提となるのが必要な栄養素を取っていることで、一つの栄養素が不足しても免疫力低下につながります。その上で、免疫力向上に直接的な影響を及ぼすものとして、ビタミンAとビタミンC、ビタミンD、ビタミンB6が挙げられます(表1)。

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 ビタミンA、ビタミンCは、ウイルスの侵入経路である鼻粘膜などの健康維持に関わります。また、ビタミンB6は免疫細胞の原料となるタンパク質の代謝に関わります。ビタミンDは、カルシウムの吸収を促す働きで骨粗しょう症予防に役立つことは知られていますが、近年の研究によって、免疫細胞の活性化に関わっていることがわかってきています*3, 4
 このように、免疫力向上にはさまざまな栄養素が関わっていますが、大切なのは1日3回の食事において多種類の食品をとることにより、必要な栄養素を摂取することです。まず挙げられるのが、朝食を抜かないこと。1日に3回摂取することでいろいろな栄養素が揃い、1食抜くと栄養素が揃いにくくなります。次に、食品の組み合わせによって栄養の吸収率が変わるので、色々な食品を組み合わせる事を心がけましょう。また、主菜、副菜の揃った食事を1日2回以上とった人は、そうではない人と比べてビタミンやミネラルの摂取量が多くなります*5 。最近ではコンビニエンスストアでも主菜や副菜メニューの開発が進んでおり、1人分として適切な量のものが売られています。こうした商品を上手にとりいれるほか、ごはんの他に主菜と副菜を兼ねる具沢山のお味噌汁を組み合わせるのもおすすめです。

野菜の栄養をとりいれて免疫力アップ

 野菜の栄養効果を考える際に欠かせないのが、野菜の組織構造です。野菜の細胞を取り囲む細胞壁は食物繊維でできており、そのまま摂取しても細胞内の栄養素を吸収することはできません。ビタミンやミネラルを腸管から吸収するためには、細胞壁の破壊が必要なのです。そこで、よく噛んで食べることが重要になります。噛むことで細胞が破壊され、栄養を効果的にとりいれることができます。よく噛むこと以外にも、すりつぶすことや加熱、冷凍によって細胞を破壊し、栄養素の吸収を良くすることができます。
 厚生労働省の健康日本21では、野菜を350g以上とることを目標としています。それを踏まえて、我が家では毎日一人400g以上の野菜をとることを目標としています。おすすめは、毎朝の具沢山お味噌汁。栄養素を効果的にとることができるように、お味噌汁に入れる具材はあらかじめ切って冷凍しておき、冷凍の状態のまま出汁で煮ています。一人分で100g以上は野菜を入れて、しっかりと野菜を摂取しています。
 私のライフワークは、栄養士として人々の健康寿命の増進に少しでも役立つことです。栄養士など栄養指導をする立場の方にお伝えしたいのは、指導する相手はこまめにバランス良い食事をとる環境にいない方が多いということです。そうした方でも栄養をとるためには、野菜ジュースやコンビニの総菜など、加工品を上手に活用してもいいと思います。全て手作りだけにこだわって栄養がとれないというのは本末転倒です。まず栄養をとることを念頭に、柔軟な発想で指導をしていただければと思います。

  • * 1 「日本人の食事摂取基準」(2020年版)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
  • * 2 平成29年「国民健康・栄養調査結果」をもとに、佐藤先生が計算。
  • * 3 阿部悦子. (1985). 活性型ビタミンDと免疫調節作用. ビタミン, 59(8), 418-419.
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/59/8/59_KJ00001708019/_article/-char/ja/
  • * 4 遠藤逸朗 & 松本俊夫. (2012). Vitamin D の骨と免疫への作用. 医学のあゆみ, 242(9), 751-757
  • * 5 健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf
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