研究・健康レポート

「ポリフェノール、茶カテキンによる免疫機能の活性化と感染症予防」

茶カテキンの体脂肪低減効果に着目した特定保健用食品の開発や商品化に携わってきた時光一郎氏。
ポリフェノールや茶カテキンの摂取による免疫機能の活性化について、また感染症予防に関する研究について伺いました。

時光 一郎 Tokimitsu Ichiro

人間総合科学大学 人間科学部 教授

1980年3月京都大学農学部農芸化学科卒業。1982年3月京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了。同年4月 花王石鹸株式会社(現、花王株式会社)入社。1993年3月慶應義塾大学医学部 医学博士取得。1998年4月花王株式会社生物科学研究所室長。2007年4月花王株式会社ヘルスケア食品研究所所長。2009年4月石巻専修大学理工学部客員教授。2014年10月花王株式会社研究開発部門研究フェロー。2015年1月静岡県立大学産学連携講座客員教授。2017年9月人間総合科学大学人間科学部ヘルスフードサイエンス学科教授。2018年4月同学科学科長、現在に至る。

茶カテキンの免疫活性化作用

 食事や食品による免疫力向上効果を考えると、①外からの防御 ②粘膜の免疫機能を高める ③全身の免疫活性化(腸管の免疫活性化)の三つを挙げることができます。ポリフェノールの一種である茶カテキンについては、上記①と③の効果において、有効性が報告されています。
 ①外からの防御については、緑茶でのうがい、あるいは緑茶の飲用による抗ウイルス効果の研究が進んでいます。これについては、「Kaoヘルスケアレポート」vol.61掲載の山田浩氏の研究・健康レポート*1 にて、茶カテキンの抗ウイルス効果が詳しくまとめられており、緑茶でのうがいによるインフルエンザ感染の予防効果や緑茶の飲用による急性上気道炎の予防作用が示されています。
 また、③全身の免疫活性化(腸管の免疫活性化)については、ポリフェノールや茶カテキンの抗酸化作用が作用機構の一つとして挙げられます。抗酸化作用とは、活性酸素の働きを抑える作用です。活性酸素は、過剰に体内で生成されると、免疫細胞を傷つけたり、生活習慣病をはじめとするさまざまな疾患を引き起こす要因となります。ポリフェノールや茶カテキンには、この活性酸素を取り除き、酸化ストレスを軽減する効果があるため、摂取することで免疫機能低下の抑制が可能と考えられます。
 さらに近年の研究で、茶カテキンには、自然免疫を担うNK(ナチュラル・キラー)細胞の活性化作用があることがわかってきました(図1)。

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 NK細胞は、体内に侵入したウイルスや細菌などの病原体に対してすぐに反応する自然免疫の中でも、最初にはたらき、幅広いウイルスに対応する特徴があります。ただし、小規模な研究結果ですので、今後さらに被験者数を増やし詳細に検証していく必要があるでしょう。
 茶カテキンの新型コロナウイルス感染に対する作用に関しては、徐々に研究報告が出ています。例えば、コンピーターを使った解析でコロナウイルスのタンパク質を分解する酵素に、3種のカテキン類(EGCG、ECG、GCG)*2 が強く結合することが示され、その働きを阻害することが示唆されています*3 。今後さらに生体での研究に発展し、茶カテキンの効果が明確になることが望まれます。

免疫系の司令塔・脳への活性効果

 私たちの身体をウイルスや細菌などの外部刺激から守り生体を正常に保つシステムは、免疫系だけでなく、自律神経などの神経系、ホルモン分泌を司る内分泌系の三つで構成されています。これら三つのシステムは、それぞれ独立したものではなく、相互に連携して生体防御に携わっていると考えられています。そして、近年の研究では、これら三つが統合した防御システムの司令塔が脳であり、免疫系も脳からの指令によって制御されることが示されています。
 さらに、脳の機能維持にはポリフェノールや茶カテキンが有効であるという可能性も研究によって明らかになってきました。昨年発表された認知症および脳機能に対する研究*4 では、高脂肪食を付加すると脳機能の低下が早く生じる老化促進マウスに、茶カテキンを与えた際の脳機能低下抑制効果が認められました。また、脳の機能物質である神経成長因子やシナプス関連因子、あるいは脳の酸化ストレスについて調べた研究においても、茶カテキンの効果が報告されています。したがって、これまでは免疫に関する効果の研究というと、人体の最大の免疫系である腸管など局所の免疫機能に集中しがちでしたが、今後は、神経やホルモン、そして司令塔である脳などの中枢に対する影響も考えていくことが必要になるでしょう。

明るく前向きな生活が免疫力を高める

 これからの感染症予防についての研究は、免疫系だけではなく脳など中枢への影響を幅広くとらえることが必要でしょう。また、免疫機能の向上に効果のある食品についても、一つの素材や食品のみにこだわるのではなく、食事全体、さらには睡眠や運動など生活全体を意識したトータルな視点での研究が行われることを期待しています。
 日々の生活においては、やはり食事や運動、睡眠など規則正しい生活が非常に重要です。NK細胞をはじめとする自然免疫の活性には、脳など中枢も大きな影響を及ぼします。なるべくストレスを溜め込まないこと、さらに気持ちの面でも、目標を持って明るく前向きに生きることが免疫力を高めることにもつながります。
 繰り返しになりますが、感染症予防には身体面だけではなく心と体、さらには生活全体から考えることが大切です。保健師や栄養士といった保健指導に携わる専門職の方々には、ぜひ栄養面だけではなく、食の楽しさやおいしさを含めた食の役割の重要性を伝えていただければと考えます。また、やってはいけないことを伝えるだけでなく、ポジティブに健康づくりに取り組めるような指導をお願いしたいと思います。

  • * 1 Kaoヘルスケアレポートvol.61 「カテキンによる急性上気道炎の予防」
    https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/healthscience/pdf/report_61c02.pdfよりご覧いただけます。
  • * 2 Epigallocatechin gallate(エピガロカテキンガレート)、Epicatechin gallate(エピカテキンガレート)、Gallocatechin gallate(ガロカテキンガレート)
  • * 3 https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/07391102.2020.1779818よりご覧いただけます。
  • * 4 Onishi, S. et al. Green Tea Extracts Attenuate Brain Dysfunction in High-Fat-Diet-Fed SAMP8 Mice. Nutrients. 2019, 11(4), 821.
    詳細は https://www.mdpi.com/2072-6643/11/4/821よりご覧いただけます。
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