新型コロナウイルスの環境除染方法
感染経路は3つに大別されます。飛沫感染経路に注目が集まっていますが、接触感染経路も見過ごしてはならない重要な経路です。感染者の飛沫から料理への付着、共用PCのキーボード、靴底から伝播するウイルス、など多様な接触感染経路が報告されています。
fig.1 ウイルス感染症の環境表面を介した接触感染経路
(Otter et al., 2016; 日本リスク学会, 2020)
※飛沫の大きさや飛距離は目安。湿度、温度、空気の流れによってこれらの値は変化します。
一般的に、コロナウイルスやインフルエンザウイルスのように呼吸器系に症状が認められるウイルス感染症の場合、感染源のウイルスは主に感染者の咳やくしゃみ等で生じる飛沫を介して環境中に放出されます。SARS-CoV-2はSARS-CoVと同様に、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)を宿主細胞受容体として細胞感染を引き起こします(Ziegler et al., 2020)。ACE2は上皮系細胞で幅広く発現しており、舌や腸管、血管内皮など各臓器で感染が成立し多臓器感染により症状が重篤化します。特に舌や腸管が感染した場合には、唾液や糞便からウイルスが検出されており、それらを介した環境中への放出が意図せずとも起こります(WHO, 2020; Wang, 2020)。
環境中に放出されたウイルスは生活環境の様々な表面に付着します。SARS-CoV-2の集団感染が発生したクルーズ船の事例では、廊下排気口、トイレ床、枕、電話機、机、TVリモコンの表面においてウイルス検出が報告されました(国立感染症研究所, 2020)。環境表面に付着したウイルスは、長くて数日間ほど感染力が維持されます。
感染者から非感染者への感染経路は大きく空気感染(飛沫核感染、塵埃感染)、飛沫感染、接触感染の3つと考えられます。COVID-19では空気感染経路がどの程度寄与しているかは不明です(WHO, 2020)。代わりに初期から第一の感染経路と見なされているのは飛沫感染経路で、感染者が発した、ウイルスを105-7/mL含む飛沫を未感染者が吸引するか口鼻眼などの粘膜組織に付着することにより、感染が成立すると考えられています(WHO, 2020; CDC, 2020)。
第二の感染経路として重要視すべきなのは接触感染経路です。感染者と直接的に接触、または、汚染されたドアノブやトイレ、スマホなどを介して間接的に未感染者が接触することによる感染経路のことを指します(fig.1, Otter et al., 2016; Kampf et al., 2020,日本リスク学会, 2020)。
飛沫感染経路と接触感染経路の割合についてCOVID-19での報告はまだ十分なものがありませんが、インフルエンザへの感染シミュレーション報告が参考になります。感染者を介護者が15分間看護するという単回濃厚接触シナリオにおいて、介護者の手指からの接触感染経路の寄与率が31%、他方、感染者の飛沫が直接介護者の口や鼻、眼に付着する飛沫経路経路の寄与率は52%と報告されています(fig.2, Nicas et al., 2009)。
興味深いことに、このシミュレーションでは飛沫中のウイルス濃度が高いほど接触感染経路の寄与率が高まります。その為、感染者の飛沫からの感染経路対策は、飛沫感染経路に加えて接触感染経路の双方を考える必要があります(Zhang et al., 2018)。
fig.2 感染経路リスクアセスメント
(Mark et al., 2009; 日本リスク学会, 2020)
※ウイルス量ごとの症状ステージは目安。感染者によって放出ウイルス量に幅はあります。