新型コロナウイルスの環境除染方法
米国と欧州で用いられるウイルス不活性化評価法と
その試験を活用した規制の枠組みをご紹介します。
ウイルス不活性化能を評価するための標準試験法や公定法は、米国Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act (FIFRA)規制とEU- Biocidal Products Regulation(BPR)規則の枠組みで近年急ピッチで準備されました(ASTM-E1052, ASTM-E1053, 2020; EN14476, 2019)。これら不活性化試験法では、評価化合物溶液とウイルス溶液を混合し液中で反応、経時サンプリングし希釈などによって反応を最小化した後、培養シャーレ(96 well plateなど)中の宿主細胞にウイルス反応液を添加し、感染した細胞数で不活性化能を評価します。宿主細胞としてはウイルスが適切に感染することが事前に確認されたものを用います。ウイルスに感染した培養ヒト細胞は変性します。このため、化合物がウイルスを不活性化した場合は、ヒト細胞は変性せず、不活性化効果のない陰性対照と比較して細胞生存数は多くなります(ASTM-E1052, ASTM-E1053, 2020)。
Table1. 米国と欧州で用いられるウイルス不活性化評価法
項目 | 米国・International | 欧州 | |
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ASTM-E1052-20 | EN14476: 2019 | ||
ウイルス種 | ウイルスと培養細胞の組み合わせの中から選択 | 標準ウイルス株を指定 (環境表面用ウイルス標準4株:Adenovirus, Poliovirus, Murine Norovirus, Vaccinia Virus) |
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消毒剤調整水 | 製品用途に応じて選択 (水道水の場合は硬度300ppm以上を推奨) |
硬水 (硬度375ppm) |
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作用比率 消毒剤:負荷物:菌液 |
9:1 (負荷物は菌液に溶解) |
8:1:1*1 | |
初発ウイルス量 CFU/mL or TCID50/mL |
> 106 | ≧ 107 | |
添加負荷物質 (作用液中濃度) |
清浄条件 | なし | 0.03% ウシ血清アルブミン (BSA)*2 |
汚濁条件*6 | 5% 血清 or モデル汚れ*5 | 0.3% BSA + 0.3% 羊血球*2 | |
作用温度 | 22±2℃、または用途に応じて任意 | 4℃ ~ 30℃*3 | |
作用時間 | 製品に応じて任意 | ≦ 5 m*4 | |
有効性判定基準 | ガイドラインでは指定なし (用途に応じて:FIFRA 3log10 = 99.9%) |
ガイドラインでは指定なし (用途に応じて:BPR 4log10 = 99.99%) |
注)
Table2. 試験を活用した規制の枠組み(米国/欧州/日本)
項目 | 米国FIFRA審査 | 欧州BPR審査 | 日本の有効性評価(2020現行) | ||
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対象用途 | 非多孔質硬質環境表面用の日用品・業務品 (Non-pourus hard environmental surface) EPA OCSPP 810.2200: Disinfectants for Use on Environmental Surfaces |
Product Type 2 (Disinfectants not intended for direct application to humans or animals) Product Type 4 (Food and feed area) |
環境表面除染用の日用品・雑貨 (手指洗浄用の医薬部外品) |
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主な製品カテゴリー | 台所用洗剤(Kitchen Cleaner) 住居用洗剤(Household Cleaner) トイレ用洗剤(Restroom Cleaner) 風呂用洗剤(Bathroom Cleaner) 多目的洗剤(Multi purpose Cleaner), etc. |
病院用消毒剤 器具用消毒剤 家具用消毒剤 風呂用消毒剤 食品接触表面用消毒剤, etc. |
NITE報告リスト(2020) 住居家具用洗剤など 98製品 台所用合成洗剤など 51製品 北里大の製品リスト(2020) 住居用洗剤、ハンドソープ、消臭剤 洗濯洗剤、洗濯用漂白剤など 21製品 |
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製品形態 | 液体(Water soluble powders/Liquid), スプレー (Spray), ウエットワイプ(Towelettes), etc. | ||||
有効性審査 (不活性化評価) |
審査 ステップ |
有効成分審査+製品審査(2段階) | 有効成分審査+製品届出(2段階) | NITE(感染研/北里大):有効成分評価 北里大:製品評価 |
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ウイルス種 | ウイルス種別に訴求可能 | 標準ウイルス種としてAdenovirus及びMurine norovirus その他ウイルス種別に訴求可能 |
SARS-CoV-2 | ||
未知の新興 ウイルス への 効果訴求 |
◎Emerging Viral Pathogen Claim (事前警戒原則によるパンデミック対策) |
なし | なし | ||
有効性の 判定基準 |
3log10 以上(99.9%失活) | 4log10 以上(99.99%失活) ※病院用途に由来 |
4log10 以上(99.99%失活) | ||
接触時間 | 30sec ~ 10min | 30sec ~ 5min | 30sec ~ 10min | ||
試験方法 | 液液懸濁試験 ASTM-E1052 | 医療用途懸濁試験 EN14476 食品用途懸濁試験 EN136101 (ASTM-E1052と相似) |
液液懸濁試験 ASTM-E1052準拠 (NITE-感染研/北里大学の評価法) ※ 花王はASTM-E1052/E1053を 製品用途に応じて併用 |
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環境表面試験 ASTM-E1053 | 医療用途表面試験 EN16777 畜産用途表面試験 EN14765 (ASTM-E1053と相似) |