映画にみるヘルスケア

「毎日かあさん」
(小林聖太郎監督、11年、日本)

「ありがとう。君のおかげで子ども達を傷つけずに済んだ」
  元戦場写真家でアルコール依存症の夫を守り続けた妻と子ども達

映画・健康エッセイスト 小守 ケイ

 「エッ、何よ、それ!」。春の東京、病院の面会室。人気漫画家リエコが6歳の息子と4歳の娘を連れて、大酒と吐血を繰り返す夫の見舞いに来ると、点滴を付けた夫は娘を抱いて「犬? いいよ、買ってやる!」と相好を崩し、隠し持っていた缶ビールを飲み始める! 慌てて缶を取り上げたリエコは漫画で一家を養う身。「カネ払うのは私よ! その点滴だって誰のおかげでできるのよ!」。

「酒は止める。これからは戦場の小説を書くんだ」

 「ただいま」。夫が退院、家族は久しぶりに近くの川原や公園で和やかに過ごすも、「晩飯に焼き鳥を」と夫が台所に立った日、みりんを見るや飲み干し、そのまま駅前の飲み屋へ! 夕方、仕事の手を休めたリエコ、見回すと夕食はなく、夫もいない。「オーイ、寿司だ!」。酔っぱらった夫が玄関に寝ころび、箱を。中には子犬がいた……。

 「可愛い子犬だね!」。子ども達は喜んで世話するも、夫は朝からTVの前でドッグフードをつまみに酒浸りで、時に失禁も。過酷な戦場の幻覚にも襲われ、飲んでは家中の物に当たり、ある夜は物音で子ども達が起きて来る! リエコが慌てて扉を締めると、夫はまた血を吐いた。「私達までダメに……」。リエコは離婚を決意する。

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「お母さんは毎日いるけど、お父さんは時々だね」

 海辺のアルコール依存症専門病院。離婚後の夏、元夫が旅先の吐血で自ら入院を決めたため、その見送りに家族が再会した。皆で海を楽しんだ後、元夫は「じゃあ、元気でな!」と入院するも、手にはまたカップ酒が! リエコは愛想が尽きかけるが、ここは励ますしかない。「酒、本当に止められたら、家に帰って来てもいいよ」。

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 その後、兄から「両親の離婚原因は亡父のアル中」と聞いたリエコ、母の元夫への“白い目”の理由を知る。しかし、子ども達の父恋しさは強く、リエコの留守中、“川は海に繋がっているから”と近所の川からビニールプールで父の病院を目指し、交番に保護される! 「お父さんに会いたい……」。リエコは覚悟を決め、クリスマス近くに退院した元夫を受け容れた。その時、彼は「腎臓がんで余命半年」の身でもあった……。

映画の見所

 その後の正月、節分、桃の節句・・・。元夫は多くの家族写真を撮って逝った。傷心のリエコ、健気に支える子ども達。「神様、私に子どもをありがとう」。
 西原理恵子が夫の鴨志田穣や子ども達との日常を描いた漫画『毎日かあさん』の映画化。哀しい話なのに作風が明るいのは、元夫婦の小泉今日子(リエコ)と永瀬正敏(夫)の阿吽の呼吸や古田新太ら実力派の助演陣と愛らしい子役2人の好演によるだろう。

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治療は断酒だが、難しいのが現実

【監修】 公益財団法人結核予防会 理事 総合健診推進センター 所長 宮崎 滋
 アルコール依存症患者は常にアルコール渇望感を持ち、自分の意思では飲酒を制御できず、問題を起こしては後悔し、忘れようと連続飲酒します。飲酒を中断すると頭痛や不眠、振戦せん妄、痙攣、幻覚等の離脱症状が出現し、逃れようとさらに飲酒します。その結果、肝硬変や膵炎、高血圧、吐血、がん等を生じます。
 日本では推定患者数80万人とされ、飲酒する人は誰にでも起こりうる疾患ですが、未成年期の飲酒を容認する家庭に起こりやすいとされています。患者は何よりも飲酒を優先するため、周囲の信頼と社会性を失い孤立し、家族もまた患者の問題行動で常にストレスにさらされ、家庭が崩壊します。
 治療は断酒が原則で、自分は病気であると認識して断酒会に参加し、断酒継続を助け合う集団療法が効果的ですが、一旦断酒できても一口飲んだだけで逆戻りするので、治療の継続が重要です。

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