内臓脂肪と免疫機能との関係

免疫とは

免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類があり、外部から侵入してくる病原体や異物を排除するための防御機能を持っています。自然免疫は生まれつき備わっている免疫で、免疫細胞である好酸球、好中球、好塩基球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞がその役割を担っています。獲得免疫は、初めて体内に侵入した病原体を記憶し、2度目以降に効果的に排除できるようになる後天的な免疫です。この獲得免疫を担う細胞には、ヒトの場合、B細胞、形質細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞、メモリーB細胞があります(1)(2)。病原体や異物が侵入すると、最初に自然免疫が働き始めます。好中球やマクロファージが反応して侵入物を捕食処理します。追いつかない場合は、マクロファージがリンパ節に移動してヘルパーT細胞に異物情報を伝え、攻撃の指示を出します。ここからが獲得免疫の発現です。ヘルパーT細胞はサイトカインという物質を出して、NK細胞を活性化させ、B細胞の抗体産生を促進します。B細胞は形質細胞に分化して抗体を大量産生して侵入物を攻撃します。キラーT細胞は、他の細胞がやられてしまった時に、抗原を攻撃して処理します。抗原がなくなると制御性T細胞が働いて、全ての細胞攻撃を終了させます。また、メモリーB細胞の一部は抗原を記憶するメモリーT細胞に分化し、次回の異物の侵入に備えます(2)。
(1) A. Iwasakim et.al., Nat. Immunol, 16(4),343-353(2015)
(2) 高橋秀実, J. Nippon Med. Sch., 69(5),410-414

内臓脂肪と免疫細胞

ヒトの免疫細胞は、感染症や異物侵入などの刺激に応答して、体内の病原体や異物を攻撃する役割を果たします。内臓脂肪は体内に蓄積されたエネルギーの貯蔵庫であると同時に、免疫応答にも関与しています。内臓脂肪が増加すると、内臓脂肪細胞は炎症性サイトカインを放出し、免疫細胞の活性化や増殖を促進します(1)。一方で、内臓脂肪が減少すると、炎症性サイトカインの放出が減少し、免疫細胞の活性化や増殖も抑制されます。また、内臓脂肪細胞から放出される脂肪酸は、免疫細胞の機能を調節する役割があります。内臓脂肪の増加に伴い、脂肪酸の濃度が上昇することで、免疫細胞の機能が変化し、炎症性応答が促進されます(2)。以上から、内臓脂肪と免疫能の発現には密接な関係があることがわかります。内臓脂肪の増加に伴い、免疫細胞の活性化や増殖が促進され、炎症性応答が強まります(3)。これらの変化は、肥満や糖尿病、心血管疾患などの病気のリスクを高める可能性があります。
(1)C.N.Lumeng,J.Clinical Investigation, 121(6),2111-2117(2011)
(2)G.S.Hotamisligil,Nature,V.444,No.7121,860-867,2006,doi:10.1038/nature05485
(3)E.Scarpellini, J.Tack, Digestive Diseases, 30(2),148-153(2012) https://doi.org/10.1159/000336664

サイトカインとは

サイトカインは、免疫系において重要な役割を果たすタンパク質の一群で、炎症や免疫応答の調節に関与します(1)。脂肪細胞は、これらのサイトカインを産生することができます。脂肪細胞が産生するサイトカインには、炎症を引き起こすものや、炎症を抑制するものがあります。例えば、炎症を引き起こすサイトカインとしては、IL-6やTNF-αなどがあります。これらのサイトカインは、脂肪細胞が過剰に分泌されることで、肥満やメタボリックシンドロームの発症に関与することが知られています(2)。一方で、炎症を抑制するサイトカインとしては、アディポネクチンやIL-10などがあります。これらのサイトカインは、脂肪細胞から適切な量が分泌されることで、免疫応答や炎症反応を適切に調節することができます。また、脂肪細胞が産生するサイトカインは、他の免疫細胞の活性化や機能調節にも関与します。例えば、IL-6やTNF-αは、マクロファージやT細胞の活性化を促進することが知られています(3)。一方で、アディポネクチンは、マクロファージの炎症性サイトカインの産生を抑制し、炎症反応を抑制することが示されています。このように、脂肪細胞から産生されるサイトカインは、免疫応答や炎症反応の調節に重要な役割を果たしています。しかし、脂肪細胞が過剰に分泌することで、肥満やメタボリックシンドロームの発症につながることがあるため、適切な調節が必要とされています(4)。
(1) P.Trayhurn, et.al., Br. J. Nutr.,92(3),347-355(2004)
(2) G.S. Hotamisligil, Nature, 542(7640),177-185(2017)
(3) A. Chawla, et.al., Nat. Rev. Immunol., 11(11),738-749(2011)
(4) C.N.Lumeng,et.al., J. Clin. Invest., 121(6),2111-2117(2011)

樹状細胞(DC)とは

樹状細胞(DC)は、病原体の自然免疫検出と適応免疫応答の活性化に重要な役割を持ちます。これらは、MHC分子上の抗原ペプチドを提示することにより、T細胞の活性化と分化を誘導し、免疫応答を増強または調節するサイトカインや増殖因子を分泌します。さらに、制御性T細胞の分化やT細胞耐性の発現にも重要な役割を果たしています(1)。樹状細胞は、全身に分布しており、腸や皮膚、リンパ器官などの環境境界面に特に存在します。
(1) J. Banchereau, et.al., Nature, 392(6673):245-252(1998)

DCの活性化

DCは、体内に侵入する異物を検知すると、病原体関連分子パターン(PAMP)またはダメージ関連分子パターン(DAMP)がパターン認識受容体(PRR)によって認識され、活性化されます。この活性化により、樹状細胞は、Tリンパ球を効率的に活性化するための成熟因子を産生します。そして、成熟した樹状細胞は、抗原提示装置の発現を増加させ、T細胞領域に遊走し、そこで抗原特異的T細胞を活性化する役割を果たします。一方、炎症シグナルがない場合は、末梢T細胞耐性を強化すると考えられています(1)。
(1)Caetano Reis e Sousa, Nature rev. Immunol., 6, 476-483(2006)

プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)とは

20年前に天然のインターフェロン産生細胞として同定されて以来、形質細胞様樹状細胞(pDC)は免疫応答において多様な機能を果たしていると考えられてきました。pDCは、さまざまな細菌、真菌、寄生虫感染に対する免疫応答に関与していますが、ウイルス感染時の役割については最もよく研究されています。形質細胞様DCは主に2つのエンドソームトール様受容体(TLR)、TLR7およびTLR9を介してウイルスを感知する。細菌やウイルスが体内に入ってきたとき重要な働きをする司令塔役の免疫細胞です。pDCが活性化することによって、NK細胞やT細胞、B細胞などさまざまな免疫細胞が活発に働きウイルス感染から防御します(1)。
(1) R. Leylek, et.al., Int. Rev. Cell Mol, Biol., 349, 177-211(2019). doi;10.1016/bs.ircmb.2019.10.002.

内臓脂肪とCOVID-19重症化との関係

新型CORONAウイルス(SARS-CoV-2)の発生により人類は新たな感染症との脅威に未ださらされているが、この間に少しずつ重症化のリスクのある患者の特徴が明らかになってきた。その特徴としては、高齢者であること、基礎疾患(高血圧、糖尿病、心臓病、肺疾患など)を持つ人たちである。この主な理由は、免疫機能が衰えていることが要因であるといわれている。それに加えて、肥満な男性が重症化リスクの高い人たちであることがわかってきた(1)。このことから、内臓脂肪と免疫系とのかかわりがあるのではないか、改めて注目されるようになっている。SARS-CoV-2に感染したヒト脂肪細胞を調査した結果、BMI(体格指数)と脂肪細胞の大きさには群間差は見られなかったが、COVID-19患者の自己内臓脂肪組織(VAT)ではCD68+マクロファージの有病率が高く、脂肪細胞のストレスや死の徴候が観察された。また、ヒト脂肪細胞もSARS-CoV-2感染すると細胞生存率が低下した。脂肪塞栓症の徴候は、COVID-19患者においてより多く見られ、脂肪細胞の死による脂質の流出と関連していた。また、肺と肝臓の間質腔、マクロファージ、内皮細胞、血管内腔で脂質が観察され、COVID-19と関連する特徴であるとされた。脂肪塞栓症がコロナウイルス疾患(COVID-19)の重要な決定因子としての内臓肥満の重要性を説明できる可能性が示唆された(2)。
(1) Adam E. Locke, et.al., Nature, 518(7538),197-206(2015) doi:10.1038/nature14177
(2) Georgia Colleluori, et.al., International Journal of Obesity, 46, 1009 –1017(2022)

内臓脂肪とインフルエンザ発症との関係

インフルエンザの罹患についても、内臓脂肪面積との関連が最近研究されている。K.Kinoshitaらの研究(1)によると、日本人成人の内臓脂肪とインフルエンザ感染の関連性を検討しました。横断研究のデータを用い、内臓脂肪面積(VFA)との関連性を調べた。その結果VFAが200cm2以上のグループでは、インフルエンザ感染のリスクが有意に高いことがわかった。

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図 2019年のVFAグループによる内臓脂肪面積(VFA)とインフルエンザ感染症との関連性(モデル1の結果より作成)
内臓脂肪面積とインフルエンザ罹患率との関係

(1) K.Kinoshita, et.al., PLoS One. 2022; 17(7): e0272059. doi: 10.1371/journal.pone.0272059

内臓脂肪蓄積量とpDC活性との関係

我々はコホート研究により、内臓脂肪蓄積とプラズマサイトイド樹状細胞活性は負に相関することを見出しました。

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図1 内臓脂肪面積と樹状細胞活性の関係性

内臓脂肪が少なく、プラズマサイトイド樹状細胞活性が高い方(免疫機能が高い方)と比較して、内臓脂肪が多く、免疫機能が低い方は新型コロナ(COVID-19)や季節性インフルエンザへの罹患率が高まる可能性があります。つまり、内臓脂肪が多く、免疫機能が低い方(本研究対象の約26%の方)は、免疫機能に加え、内臓脂肪もケアすることが重要である可能性を初めて明らかにしました。

内臓脂肪蓄積量とpDC活性とウイルス性疾患の罹患に及ぼす影響

内臓脂肪面積と樹状細胞活性が感染症の罹患に及ぼす影響を解析した結果、内臓脂肪高値群は、低値群と比較して、オッズ比として、7倍高く、新型コロナウイルスに罹患していました。一方で、樹状細胞活性低値群は、高値群と比較して、オッズ比として、6倍高く、新型コロナウイルスに罹患していました。さらに、両方の相乗効果を確認することを目的に4群に分けて、内臓脂肪(高値)x樹状細胞活性(低値)群は、内臓脂肪(低値)x樹状細胞活性(高値)群と比較して、オッズ比として、20倍新型コロナウイルスに罹患していた。同様の結果が、新型コロナウイルスとインフルエンザ罹患を合わせた解析でも確認できた。

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図2 内臓脂肪面積と新型コロナウイルスの罹患・樹状細胞活性と新型コロナウイルスの罹患の関係性

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図3 内臓脂肪面積と樹状細胞活性が新型コロナウイルスの罹患に及ぼす影響

内臓脂肪を蓄積しているヒトは、日常的な樹状細胞活性(免疫機能)が低下していることが、初めて分かりました。
また、内臓脂肪が少なく、樹状細胞活性が高い方(免疫機能が高い方)と比較して、内臓脂肪が多く、免疫機能が低い方は新型コロナ(COVID-19)や季節性インフルエンザへの罹患率が高まる可能性があります。つまり、内臓脂肪が多く、免疫機能が低い方(本研究対象の約26%の方)は、内臓脂肪と免疫機能の両方をケアすることが重要である可能性を初めて明らかにしました。

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