脂肪組織が過剰に蓄積した状態を肥満といいます*1 。
肥満は通常、BMI(Body Mass Index): 体重(kg)÷身長(m)2で判定されます。
図-1 肥満度分類
ヒトは、食事で摂取した栄養を体内で消費して、活動に必要なエネルギーを産生します。エネルギーとして使われなかった栄養素は、脂肪に変換され、体内に蓄積されます。エネルギー収支における余剰が積み重なることで、脂肪の蓄積が進み、肥満となります。
肥満には、内臓に脂肪が多くつく内臓脂肪型肥満と、皮下に多くつく皮下脂肪型肥満があることがわかっています。肥満の中でも、内臓脂肪型肥満は、動脈硬化性疾患を引き起こす生活習慣病の発症基盤を形成していると考えられています。脂肪組織からは生理活性作用のある“アディポサイトカイン”が分泌されます。血栓形成に関与するplasminogen-activator inhibitor type-1(PAI-1)や、インスリン抵抗性に関与するtumor necrosis factor-alpha(TNF-α)もアディポサイトカインのひとつです。アディポサイトカインの産生量は、皮下脂肪と比べて内臓脂肪で高く、内臓脂肪が過剰に蓄積した肥満者では、皮下脂肪型の肥満者と比べて、代謝関連疾患の頻度や重症度が高まります。内臓脂肪の蓄積を管理することは、高血圧、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化性疾患を予防する観点で重要です。
図-2 内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満のCT画像
日本における肥満者の割合は、増加傾向が続いています。増加は男性、とくに40代、50代の男性で顕著です。2012年、肥満者の割合は、40代男性で36.6%、50代男性で31.6%に達しました*2 。
図-3 日本人の肥満者(BMI 25以上)の年次推移 (20歳以上、性別)
近年、日本人のライフスタイルは大きく変化しました。医療水準、栄養状態、衛生状態の向上により、寿命が大きく延伸する一方で、欧米化した食生活や交通手段の発達による運動不足が肥満を増大させ、肥満に起因する健康障害を発症させていると考えられています。1996年、厚生省は、肥満、インスリン非依存糖尿病(2型糖尿病)、高脂血症(脂質異常症)、高血圧症、循環器病等の発症に、個人の生活習慣が関与していることを重視し、生活習慣病の概念を導入した疾病対策の基本方針をまとめました*3 。
図-4 ライフスタイルの変化と生活習慣病
内臓脂肪型肥満を背景とし、代謝異常が重複して表れ、心疾患等の重篤な障害に進行する病態は、メタボリックシンドロームを始めとして、様々な名称で呼ばれていました。病態が複雑なため、1999年にWHOがメタボリックシンドロームという語を提示した後も*4 、機関によってメタボリックシンドロームの定義および診断基準には細かい差があります。共通しているのは、内臓脂肪の蓄積を発症基盤とすること、高血糖、高血圧、脂質異常などが重なり、徐々に進行していく経過を辿ることです。源流にある内臓脂肪の蓄積に留意し、ふだんから内臓脂肪をためない生活習慣を心がけることが重要です*5 。
図-5 内臓脂肪の蓄積とメタボリックシンドローム
2005年、日本内科学会など8医学会は、メタボリックシンドローム診断基準を策定しました*6 。診断基準には、内臓脂肪蓄積の指標としてウエスト周囲径、血清脂質、血圧、血糖値の基準が設定されています。
2008年、厚生労働省は、特定健康診査・特定保健指導制度を導入しました。40歳から74歳の全員に腹囲の測定を行います*7 。メタボリックシンドローム該当者、または予備軍と判定された対象者には、特定保健指導を行うことが義務付けられました。
図-6 メタボリックシンドローム診断基準