内臓脂肪の蓄積に起因し複数の代謝異常が重なるメタボリックシンドロームは、「生活習慣病」とも言われるように生活習慣の乱れが原因と考えられています。しかし一言で生活習慣と言っても様々な要因があり、個人ごとに内臓脂肪の蓄積に繋がる生活習慣の乱れはさまざまであると考えられます。そこで花王は、簡便なアンケートから生活習慣の乱れを評価できる質問票を開発しました*1 。
この質問票を基に、わかりやすい言葉に修正した質問票を用いると、肥満や内臓脂肪蓄積に関与すると考えられる生活習慣の乱れを、食事の「量」、食事の「質」、食事の「時間」、身体活動(不活動)などに分類し、個人ごとに得点化できます(表1)。
表1 生活習慣質問票
因子1 (食事の「量」) |
果物やお菓子が置いてあるとついつい手がでてしまう 周りで誰かが何か食べていると一緒に食べてしまう 空腹でなくても美味しそうな匂いがするとつい食べてしまう 食べ物をもらうともったいないので食べてしまう 甘いものに目がない ゆううつな気分のときは食べ過ぎる 食料品は必要量よりも多めに買っておかないと気がすまない ハンバーガー・ドーナツ・ポテトチップが好きだ 一日中おなかがすいているような気がする 人より食べるのが速いと思う 食べなければ元気が出ないと思う ほとんど噛まない 緊張しやすい |
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因子2 (食事の「質」) |
食物繊維が多い食品を積極的に選んでいる 緑黄色野菜を積極的に食べている 動物性脂肪を控え植物性脂肪や魚の脂肪をとるようにしている 積極的だ 協力的だ 肉よりも魚が好きだ 怠けものだ 洞察力がある |
因子3 (食事の「時間」) |
夜食を食べる 夕食後に夜食をよく食べる 寝る2時間以上前に夕食をすませている 食事の時間がでたらめだ 仕事で夕食が遅くなることが多い 朝が弱い夜型人間だ |
因子4 (食事制限) |
太らないように意識的に食事量を控えている 食べ過ぎに対する罪悪感があって食べる量を減らしている 低カロリーの食品を買うようにしている 自分は人よりも太りやすい体質だと思う |
因子5 (身体活動) |
運動はあまりしない 食べすぎというよりも運動不足だと思う エレベーターやエスカレーターがあったら使う 歩きも自転車も好きではない |
柳沢佳子ら, 人間ドック, 32(4), 611-617, 2017より
この質問票と腹部生体インピーダンス法内臓脂肪計を用いて、日本人成人男女11,438名の食事習慣および内臓脂肪蓄積の調査を実施しました。質問票から評価された食事・生活習慣の因子得点と内臓脂肪蓄積の関係を検討したところ、内臓脂肪の蓄積は、食事の「量」、食事の「質」、食事の「時間」、身体活動(不活動)いずれとも有意な相関関係が認められました*2 (図1)。
図1 生活習慣の因子得点と内臓脂肪蓄積(cm2)
花王は内臓脂肪蓄積に関与する食事因子のうち食事の「質」に注目し、成人男女579名に対して質問票を用いた食事習慣調査と連続3日間の全食事記録(写真+日誌)を行い、内臓脂肪になりにくい「質」の高い食事の栄養バランスの特徴の探索を行いました。その結果、摂取カロリーに差は認められない一方、脂質に対するたんぱく質のカロリー比(P/F)、炭水化物に占める食物繊維の重量比(Fib/C)、脂質に占めるω3脂肪酸の重量比(ω3/F)が有意に高いことが内臓脂肪になりにくい「質」の高い食事の特徴として見出されました*2 (図2)。
図2 食事の「質」と栄養バランスの関係
そこで、カロリーをほぼ同一とし、内臓脂肪になりにくいと期待される栄養バランスを高めた試験食(1日あたり2097kcal、脂質に対するたんぱく質のカロリー比は1.09、炭水化物に占める食物繊維の重量比は0.118、脂質に占めるω3脂肪酸の重量比は0.125)および現代(対照)食(2110kcal/日、脂質に対するたんぱく質のカロリー比は0.37、炭水化物に占める食物繊維の重量比は0.041、脂質に占めるω3脂肪酸の重量比は0.023)を調整し、肥満気味の成人男性21名(平均年齢41歳、平均内臓脂肪面積108cm2)を対象とし、2週間の食事を試験食または現代食に全て置き換えたクロスオーバー試験を実施し、介入前後の内臓脂肪およびメタボ関連項目を検査しました。その結果、試験食群では内臓脂肪が有意に低減し(図3)、LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪およびHbA1cの改善も認められました*3 。このことから、食事の量は減らさず摂取カロリーが一定でも、栄養バランスを最適に調整することで内臓脂肪になりにくい食事が実現できることを確認しました。
図3 栄養バランス調整による内臓脂肪の変化
栄養バランス調整による内臓脂肪低減作用のメカニズムを探索するため、試験食または現代食摂取後の血中パラメータの検査を行いました。その結果、糖質や脂質など食事の栄養素に反応して小腸上皮細胞から分泌される消化管ホルモンの一種であるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide:GIP)の分泌が試験食摂取時に顕著に抑制されることが確認されました(図4)*3 。GIPは過剰に分泌されることでエネルギー消費を抑制し脂肪蓄積を促進することが知られており*4 、栄養バランス調整によるGIP分泌制御が内臓脂肪になりにくい栄養バランスの作用メカニズムの一つと考えられます。
図4 栄養バランス調整による消化管ホルモン分泌制御
食事習慣と内臓脂肪蓄積に関する疫学研究から見出され、ヒト試験によって内臓脂肪低減効果が検証された3つの栄養バランスを指標とし、内臓脂肪を低減する食事法を開発しました。この食事法は、カロリー摂取を過度に制限することなく適量を保ちながら、日本人の食事摂取基準(開発時2015年版)を逸脱しない範囲で3つの栄養バランスを高めることで内臓脂肪になりにくい食事を提供・実践する新しい食事法です(図5)。
図5 内臓脂肪を低減する3つの栄養バランス
この食事法の社会実装試験を青森県で実施しました。青森県の弘前地域の3企業の社員92名(男性73名、女性19名)の方にご協力頂き、「内臓脂肪測定会」、内臓脂肪の低減のための「食教育」、および、内臓脂肪をためにくい食事法に基づく「食事の提供」を行い、内臓脂肪低減の効果を確認しました*5 。
食教育に対する実践度の調査票と献立の例を以下に紹介します(図6,図7)。詳しくは、書籍*6 をご参照ください。
図6 調査票例
図7 内臓脂肪を低減する食事法に基づく献立例