メタボリックシンドロームと内臓脂肪の蓄積

肥満とは

脂肪組織が過剰に蓄積した状態を肥満といいます*1
肥満は通常、BMI(Body Mass Index):体重(kg)÷身長(m)2で判定されます。

表1 肥満度分類

BMI(kg/m2) 肥満症診断基準
(日本肥満学会)
Classification
(WHO基準)
18.5未満 低体重 Underweight
18.5以上25未満 普通体重 Normal range
25以上30未満 肥満(1度) Pre-obese
30以上35未満 肥満(2度) Obese class I
35以上40未満 肥満(3度) Obese class II
40以上 肥満(4度) Obese class III

ヒトは、食事で摂取した栄養を体内で消費して、活動に必要なエネルギーを産生します。エネルギーとして使われなかった栄養素は、脂肪に変換され、体内に蓄積されます。エネルギー収支における余剰が積み重なることで、脂肪の蓄積が進み、肥満となります。

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満

肥満には、内臓に脂肪が多く蓄積する内臓脂肪型肥満と、皮下に蓄積する皮下脂肪型肥満があることがわかっています。肥満の中でも、内臓脂肪型肥満は、動脈硬化性疾患を引き起こす生活習慣病の発症基盤を形成していると考えられています。脂肪組織からは生理活性作用のある“アディポサイトカイン”が分泌されます。血栓形成に関与するplasminogen-activator inhibitor type-1(PAI-1)や、インスリン抵抗性に関与するtumor necrosis factor-alpha(TNF-α)もアディポサイトカインのひとつです。アディポサイトカインの産生量は、皮下脂肪と比べて内臓脂肪で高く、内臓脂肪が過剰に蓄積した肥満者では、皮下脂肪型の肥満者と比べて、代謝関連疾患の頻度や重症度が高まります。内臓脂肪の蓄積を管理することは、高血圧、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化性疾患を予防する観点で重要です。

図1 内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の臍位断面の模式図。内臓脂肪蓄積型肥満は、内臓に脂肪が多く蓄積し、皮下脂肪型肥満は、皮下に脂肪が多く蓄積するのが特徴であることを示す。

図1 内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の臍位断面イメージ

日本人の肥満者の年次推移

日本における肥満者(BMI 25以上)の割合は、増加傾向が続いています。増加は男性、とくに40代および50代の男性で顕著です。2023年、肥満者の割合は、40代男性で34.3%、50代男性で34.8%に達しました*2

図2 BMI25以上の日本人肥満者の1980年から2023年までの年次推移を示した折れ線グラフ。女性の肥満者割合は一定であるのに対し、男性の肥満者割合は年々増加し、40代男性や50代男性の肥満者割合は40年間で約10%増加した。

図2 日本人の肥満者(BMI 25以上)の年次推移(20歳以上、性別)

ライフスタイルの変化と生活習慣病の増加

近年、日本人のライフスタイルは大きく変化しました。医療水準、栄養状態、衛生状態の向上により、寿命が大きく延伸する一方で、欧米化した食生活や交通手段の発達による運動不足が肥満を増大させ、肥満に起因する健康障害を発症させていると考えられています。1996年、厚生省は、肥満、インスリン非依存糖尿病(2型糖尿病)、高脂血症(脂質異常症)、高血圧症、循環器病等の発症に、個人の生活習慣が関与していることを重視し、生活習慣病の概念を導入した疾病対策の基本方針をまとめました*3

図3 1947年から2020年までの日本人のライフスタイル、エネルギー摂取量、生活習慣病などの変化を示した折れ線グラフ。50代男性の平均BMIは増加し続けている。総摂取エネルギー量のピークは1970年代だが、摂取エネルギー量に占める炭水化物量は約80%から60%以下に減り続け、脂質量は10%以下から約30%に増え続けている。また、乗用車普及率は1960年代より増加し、1990年頃には80%に達している。2000年にかけて、糖尿病、脳卒中は増加し、糖尿病はその後も増加している。

図3 ライフスタイルの変化と生活習慣病

メタボリックシンドロームの概念

内臓脂肪型肥満を背景とし、代謝異常が重複して表れ、心疾患等の重篤な障害に進行する病態は、メタボリックシンドロームを始めとして、様々な名称で呼ばれていました。病態が複雑なため、1999年にWHOがメタボリックシンドロームという語を提示した後も*4 、機関によってメタボリックシンドロームの定義および診断基準には細かい差があります。共通しているのは、内臓脂肪の蓄積を発症基盤とすること、高血糖、高血圧、脂質異常などが重なり、徐々に進行していく経過をたどることです。源流にある内臓脂肪の蓄積に留意し、ふだんから内臓脂肪をためない生活習慣を心がけることが重要です*5

図4 内臓脂肪の蓄積とメタボリックシンドロームとの関係を模式的に示したイラスト。適切な運動と、バランスの取れた食事によって、健康な生活を送ることができる。しかし、不適切な生活習慣(不適切な食生活、運動不足、ストレス過剰、飲酒、喫煙)によりメタボリックシンドローム(肥満症、糖尿病、高血圧症、脂質異常症)が進行し、生活習慣病を発症し、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病の合併症、認知症などにつながる。

図4 内臓脂肪の蓄積とメタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームの診断基準

2005年、日本内科学会など8医学会は、メタボリックシンドローム診断基準を策定しました*6 。診断基準には、内臓脂肪蓄積の指標としてウエスト周囲径、血清脂質、血圧、血糖値の基準が設定されています。
2008年、厚生労働省は、特定健康診査・特定保健指導制度を導入しました。40歳から74歳の全員に腹囲の測定を行います*7 。メタボリックシンドローム該当者、または予備軍と判定された対象者には、特定保健指導を行うことが義務付けられました。

表2 メタボリックシンドローム診断基準

必要項目 内臓脂肪蓄積
ウエスト周囲径:男性85cm以上, 女性90cm以上
(内臓脂肪面積:男女とも100cm2以上に相当)

選択項目
これらの項目のうち2項目以上
高トリグリセリド血症    150mg/dL以上
かつ/または
低HDLコレステロール血症 40mg/dL未満
収縮期(最大)血圧     130mmHg以上
かつ/または
拡張期(最小)血圧     85mmHg以上
空腹時血糖値       110mg/dL以上

メタボリックシンドローム診断基準検討委員会,日本内科学会雑誌, 94, 794-809, 2005より

引用文献

  • * 1 松澤佑次ら, 肥満研究, 6(1), 18-28, 2000
  • * 2 厚生労働省, 令和5年国民健康・栄養調査, 2023
    https://www.mhlw.go.jp/content/001435384.pdf
  • * 3 厚生省, 生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について, 平成8年12月17日
    https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/0812/1217-4.html
  • * 4 World Health Organization: Definition, Diagnosis, and Classification of Diabetes Mellitus and its Complications, 1999
    http://whqlibdoc.who.int/hq/1999/who_ncd_ncs_99.2.pdf
  • * 5 厚生労働省, 新たな健診・保健指導と生活習慣病対策
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/pdf/ikk-a.pdf
  • * 6 メタボリックシンドローム診断基準検討委員会, 日本内科学会雑誌, 94(4), 188-203, 2005
  • * 7 厚生労働省, 厚生労働省令第157号, 平成19年12月28日
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001081418.pdf

(2025年7月現在)

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