日本人の約8割が疲労を抱えていると言われるいま、「休養のとり方=休み方」そのものが注目を集めています。そこで今回は、「休養学」のパイオニアである片野秀樹氏にお話を伺い、現代に必要とされる「攻めの休養」の考え方や、心身を整える7つの休養法、さらには日々の行動や思考から疲れにくい身体をつくる抗疲労の実践について教えていただきました。
私は「休養学」という新たな学問を提唱し、休養に関する啓発活動に取り組んでいます。その背景には、年々増え続ける「疲れを感じる人」の増加への危機感があります。私たち日本リカバリー協会の調査*1 では、日本の成人の8割以上が日常的に疲れを感じていることがわかっています(P2図1参照)。一方、1999年に厚生省(現・厚生労働省)が実施した調査*2 では、一般の就労者の約6割が疲れを感じていると回答しており、この25年間で疲れを感じる方は2割も増加したことになります。こうした傾向を鑑みると、近い将来、ほぼすべての人が「疲れている」と答える時代が訪れるのではないか——そんな危機感を抱かずにはいられません。
健康づくりの三大要素「栄養・運動・休養」は、1978年に厚生省が、国民の健康を支える重要な柱と提唱したものです。このうち、栄養と運動については学問的な体系化が進み、専門教育を行う大学も存在します。ところが、休養だけは体系的な学問として確立されていません。現代は、当時とは比べものにならないほど社会のスピードが速まり、働き方も大きく変化し、心身にかかる負荷の質そのものが変わりました。その結果、従来と同じ休み方では疲労が回復しきれないケースが増えています。にもかかわらず、多くの人は休み方を学ぶ機会がなく、休養に関するリテラシーが不足しているのが実情です。
発熱や痛みと同じように、疲労も病気の前に現れる重要なサインです。私たちはよく「疲れがたまる」と言いますが、実はこの表現は正確ではありません。疲労は「状態」であり、たまっていくものではないからです。では「たまった」と感じるのは何かというと、活動能力が低下したときに体が発する危険信号=不快感です。これを「疲労感」と呼びます。疲労感は、「これ以上続けるとパフォーマンスが落ちる」「病気につながる可能性がある」という身体からのサインなのです。
動物は、疲労感という危険信号に素直で、安全な場所にとどまり活動能力が回復するまで動きません。これは、捕食者から身を守るための本能的な行動です。一方、人間はそうはいきません。使命感や責任感、さらにはドリンク剤などで疲労感を覆い隠す「マスキング」により、活動能力が低下していることに気づかないまま活動を続けてしまいます。その結果、生産性が落ち、長時間労働の悪循環に陥ってしまいます。こうした状況を解決する方法は、活動能力が低下している状態を回復することです。しかし、休み方の知識がないためにマスキングなどで乗り越えようとしてしまい、結果として健康を損ね、病気のリスクが高まります。
現在の私たちが一般的にとっている休養のサイクルをみてみましょう。朝起きて仕事や勉強などの活動をし、活動すると疲れ、疲れたら休む。そして再び活動する——このように、「活動→疲労→休養」3つの要素を繰り返しています(図1)。


このサイクルは、スマートフォンの充電で考えると、わかりやすいでしょう。活動し疲れると電池残量が減るようにエネルギーが消耗します。一方、休養は充電にあたり、活動できる状態へ戻す役割を果たします。しかし、休養で100%のフル充電ができている人は、実際には多くありません。日本人の8割が疲れを自覚しているという調査結果が示すように、休んでもフル充電にならないまま、再び活動しているのが現状です。
そこで私が提案しているのが、次の活動に移る前に、休養に加えてもう1つ疲労を打ち消す要素を加えること。それが「疲労」の反対語である「活力」です。つまり、休養したつもりで活動を再開するのではなく、そこから活力に満ちた状態に持っていき、再び活動するというサイクル(図2)への切り替えです。この「活力」は自然に湧いてくるものではなく、自分から能動的に確保する時代に入りました。ただ休むだけでは疲労回復が追いつかないのであれば、自分から活力を高めに行く——こうした主体的な休養の取り方を、私は「攻めの休養」と呼んでいます。
多くの人は、休みを権利と捉えていますが、私はむしろ休むことは義務だと考えています。権利と考えると「ゴロゴロすること=休み」と思いがちです。しかし義務と捉えると、休みに目的が生まれます。なぜ休む義務があるのか——それは、次に控えている行動でパフォーマンスを発揮するためです。この視点を持つだけで、休み方が変わります。単に休むのではなく、「次のアクションで成果を出すために、休みの時間で何をすべきか」を考えるようになるのです。
では、どうしたら活力を高められるのでしょうか。意外に思われるかもしれませんが、実はあえて軽い負荷を自分にかけると、活力が高まることがわかっています。これは、トレーニングなどの負荷で一時的に低下した身体機能が、休養をとることで元の状態以上に回復する、という「超回復理論」に基づく考え方です。負荷といっても、最初は軽いものから始めます。また、次の4つの条件を満たすことが必要です。①自分で決めた負荷であること ②仕事とは関係のない負荷であること ③それに挑戦することで、自分が成長するような負荷であること ④楽しむ余裕があること。
これらを踏まえて、休養学では休養を7つのタイプに定義しています(表1)。

私はまず、休養を大きく生理的休養・心理的休養・社会的休養の3つの領域に分けました。さらに、生理的休養を3タイプ、心理的休養を3タイプ、社会的休養を1タイプに分け、合計7つの休養タイプとして整理しました。7タイプの休養を紹介すると、多くの方が「自分はどのタイプだろう?」と当てはめたくなるのですが、本来の目的はそこではありません。大切なのは、自分にとっての休養とは何かに気づくことです。こうした理解が深まると、日常の中で休養を意識し、「では自分はどんな行動をとれば休まるのか」と、一歩踏み出す行動変容が生まれます。この「自分から休養を取りに行く姿勢」こそが、私が提唱する能動的な休養=「攻めの休養」へつながっていくのです。
7タイプの休養は、それぞれ単独でも疲労回復効果が期待できますが、組み合わせることで効果は2倍にも3倍にも高まります。ぜひ、さまざまなタイプを組み合わせて、「いいとこどり」をしていただければと思います。大切なのは、自分から主体的に休養を選び、実行することです。休み方を学び、自分に合った休養を見つけてください。
最近では、図2の攻めの休養サイクルで活力を高め電池の充電量を増やすだけでなく、電池量を減らさない「抑疲労」にも注目しています。電池に例えれば、活動中に省エネし、余計な消耗(放電)を防ぐという発想です。具体的には、疲れを抑制する行動や活動(抑疲労行動)、疲労を生みにくくする思考法(抑疲労思考)、疲れにくい身体をつくる食事法(抑疲労の食事法)という3つのアプローチがあります(図3)。これらは、日常の行動や考え方を少し変えるだけで取り入れられ、実践しやすいのが特徴です。

また、ともに活動してくれる専門家の育成にも力を入れています。その取り組みの1つが、日本リカバリー協会が認定する「休養士」資格制度*3 です。すでに全国に約100名の休養士が誕生していますが、今後はさらに積極的に育成を進め、休養の専門家を増やしていきたいと考えています。
栄養士や保健師といった健康づくりの専門職の方には、ぜひ休養に関する知識を身につけ、それぞれの現場で活かしていただければと思います。栄養士であれば「休養のための栄養」を提案することができますし、企業で働く保健師であれば、疲れて休みが必要な社員に対して回復策を提案できるでしょう。こうした専門家が増えることで、社会全体の休養リテラシーが高まり、疲労に悩む人をより深く支えることができるようになると考えています。