研究・健康レポート1

排泄支援とQOLの向上への取り組み

排泄支援は、高齢者や身体に障害を抱えた方々の生活を支えるうえで不可欠なケアであり、生活の質(QOL)の向上に大きく寄与します。
おむつの濡れ情報、傾き、ズレなどを記録する「おむつセンサー」を開発する大橋一男氏に、開発の経緯や活用法を聞きました。

大橋 一男 Ohashi Kazuo

 私がおむつセンサーの開発に取り組んだきっかけは、1999年に部署異動に伴って、センシング技術を用いた商品開発に携わるようになったことです。調査するなかでセンシング技術を介護に使えないかと考え、当社が紙おむつなどを製造していたこともあり、おむつセンサーの開発に着手しました。当時は尿が出たら知らせる排尿センサーが主流で、排尿パターンを調べる手法は確立されていませんでした。そこで私は、おむつセンサーによって排尿パターンを見つけ、トイレ誘導や自立へとつなげたいと考えました。試作品を施設で使ってもらって検討したものの、「元気な方の場合は、もしかしたらパターンがあるかもしれない」程度の結果しか得られませんでした。

おむつセンサーの仕組み

 開発を進めるなかで、排尿を知らせるよりも記録をする方が、記録情報からおむつの使用情報を把握でき、介護者の負担低減につながるのではないかと考えました。こうして2016年に開発したのがおむつセンサー(図1)です。

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 これは市販の尿とりパッドの外側にセンサーシートを貼り付けたものです。そのセンサーシートにホックで計測器を取り付け、おむつの濡れ広がりでの信号変化を記録する仕組みです。計測器が腹側にくるように尿とりパッドを装着し、アウターとしてテープおむつや布パンツなどを履いて、ズレを抑えます。センサーを装着した尿とりパッドは使い捨てのため、1人につき1日あたり3〜5枚ほどが必要になります。
 このおむつセンサーの特徴は、吸収した水分の広がりが、ある程度のところで止まるという尿とりパッドの特性を活かして、尿の濡れ広がりの量(少、中、多)を推定する点です。また計測器に加速度センサーを搭載し、装着している人の動きによるおむつの傾きを検出して、尿の濡れ広がり具合を補正します。加速度センサーの精度向上に伴い、おむつの濡れ情報だけではなく、おむつの傾きやズレ、装着する方の観察記録と合わせることで活動状況も推定できるようになりました。記録はその場で確認するだけでなく、タブレットに送信し、あとで確認・検討することができます。専用ソフトでグラフ化すれば、ケアプランの見直しに活用していただくことができます。
 おむつセンサーを用いた計測・記録は、1〜3日間かけて行います。おむつの濡れの頻度や量などの傾向をみる場合は1日、トイレ誘導のために「何時ごろに出そうか」という規則性をみる場合は3日間計測します。複数日の計測・記録は、1日だけ異なる結果の日があった場合に、ほかの日と何が違ったのかを考えるヒントにつながります。例えばよく眠れた日があったら、その日の日中は何をしていたのかを検討するなど、ケアプランの見直しにもつながります。

おむつセンサーの導入とその効果

 おむつセンサーの研究開発には、2010年から北九州古賀病院に協力いただいており、現在も継続して使用していただいています。そのほかに、今までに約10の介護施設におむつセンサーの貸し出しを行いました。導入に際しては、最初に私たち開発研究者がグラフの読み取り方やケアプラン見直しへの活用例を紹介します。また取得した記録を確認し、課題解決に活かす打ち合わせにも参加しました。
 こうした取り組みの中で、おむつセンサーの記録の活用により、介護される方の自立度が高まったケースもみられます(表1)。

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 おむつをつけている方でも、尿をしっかりためて出せる人は、タイミングさえ合えばトイレで排尿できる可能性が高いです。おむつセンサーの使用でそうした方を見つけられれば、その方の自信につながります。また夜間のシーツ交換がなくなれば介護者の負担も減り、介護される方もよく眠れるといったケースもみられます。
 今後はより多くの施設におむつセンサーを使っていただけるように、蓄積したデータから自立へとつながる提案ができる仕組みづくりとコストを抑える取り組みも進めたいと考えています。また当グループが取り組む花王「おむつマイスター」企画*1 のように、おむつの構造や、もれないあて方や体型に合わせたあて方などの知識の普及も必要でしょう。
 排泄支援や排泄ケアについて考えると、膀胱機能は排泄のごく一部で、トイレまで自力で行けるかという身体機能や、夜間頻尿対策のマッサージや運動といった生活習慣など、その方の状況を全体的に見る必要があることに気づきます。またおむつセンサーで記録をとっていると、尿だけでなく便の話題も出てきます。食べ物の種類や摂取するタイミングなどで排尿や排便も変わってきます。栄養や食事、生活習慣と排泄は密接に関わっています。ぜひ保健師さんや栄養士さんも排泄支援の取り組みに加わっていただき、意見を出していただけると、より良いケアプランを立てられるのではないかと期待しています。

  • * 1 花王「おむつマイスター」とはおむつの基本的な知識を有し、おむつの装着に対しても充分な技能をもつ方を言います。花王プロフェッショナル・サービス株式会社で講義を実施後、テストを行い、合格された方にはピンバッジと認定証を差し上げます。
    https://pro.kao.com/jp/medical-kaigo/problem/diaper/
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