「フェアウェル」
(ルル・ワン監督、19年、アメリカ)
映画・健康エッセイスト 小守 ケイ
「ナイナイ? 私、元気よ!」。NYに住む作家志望の30歳の中国系米国人女性ビリー、6歳で移住以来、長春の祖母と会っていないが大の“お婆ちゃん子”! 頻繁に電話し“順調”と言うが、実はバイト生活でアパート家賃も滞納中。或る日、実家に無心に行くと、旅支度の父(祖母の二男)が「祖母はステージⅣの肺がんで余命3カ月。“家族再会”の口実に兄の息子の結婚式を早めた。明日発つ」。その上、「お前は祖母に言いかねない。来るな!」。
「家族が揃うのは25年ぶりね!」。一人密に長春へ飛んだビリー。祖母は喜ぶが、家族(両親、伯父夫婦、その息子と婚約者、祖母を世話する大叔母)は“告知派”の来宅に困惑! 伯父が慌ててホテルに案内、「日本の専門医に相談して良い薬も買った。祖母には絶対言うな!」。
翌日は結婚式3日前。祖母は日課の体操と“日本のビタミン剤”服用の後、皆を率いて“式場下見”へ。「盛大な式を!」。しかし、その夕、疲れが出たのか酷く咳込む・・。
翌朝の病院。祖母不調の報に一同が駆け付けると、若い男性医師が祖母には「肺炎の咳です」と告げ、ビリー親子には英語で「肺がんだが中国では本人に言わない。“優しい嘘”です」。戸惑うビリー! 父と伯父は「分かってくれ」。
結婚式当日。華やぐ新郎新婦、満面の笑みの祖母、大勢の招待客、ご馳走、音楽、余興・・。伯父が涙ながらに「私達が在るのは母のお陰」と挨拶すると、会場は感極まる!
式後の家族写真。祖母が「今、家政婦を病院へ遣った。診断書を貰いに」と言い出し、一同、仰天! 即、外に飛び出したビリー、高層ビル群を走り抜け、病院で診断書を貰うと、後から来た大叔母と“文書偽造屋”へ! 「“悪性陰影”を“良性陰影”に書き換えて!」。帰宅後、それを受け取った祖母、「ほらッ、何でもなかったわ!」。
「ここで祖母を世話したい」。帰国の日、NYの厳しい現実に怯むビリーだが、祖母は優しく首を横に振る。「NYで頑張って! 貴女を誇りに思っているわ」。
6年後のNY、相変わらずのビリー。雑踏でスマホが鳴ると、体操中の祖母から動画が! 「ビリー? 私は元気よ」。
中国系米国人監督ワンの実体験の映画化でヒット作。東洋と西洋の異なる価値観に揺れる家族の中で、愛に支えられて成長するビリーの姿をユーモアも交え温かに映す。ビリー役のオークワフィナ(「オーシャンズ8」)はアジア系女優として初めてゴールデングローブ賞の主演女優賞を、監督はシカゴ映画批評家協会の有望監督賞を受賞!
【監修】 公益財団法人結核予防会 理事 総合健診推進センター 所長 宮崎 滋
肺がんは、日本では罹患数は大腸がんに次いで2位ですが、死亡数は1位の予後の良くないがんです。初期症状に乏しい為、診断時に約6割に転移があり、外科手術で切除しきれない場合が多いので、これまでは脳や肝、骨などに転移があるステージⅣの5年生存率は10%以下で、他のがんに比し低値でした。
しかし、近年登場した分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の使用により、5年生存率は上昇しています。分子標的薬は、がんを増殖させる遺伝子に作用し、がん細胞の増殖をピンポイントで抑える経口薬です。また、免疫チェックポイント阻害薬は、がんによって免疫が働き難くなった状態を元に戻し、本来の免疫力でがん細胞を消滅させる注射薬です。
この2種類の新しい治療薬のお陰で、肺がんの生存率は上昇し、末期肺がん患者の治療にも光明が差しました。