映画にみるヘルスケア 第50回

「サンドラの週末」
(ダルデンヌ兄弟監督、14年、ベルギー・仏・伊)

「私、善戦したわよね! 嬉しいわ・・」
  うつ病を病み、復職を阻まれるも夫や同僚の助けで人生を拓く中年女性!

映画・健康エッセイスト 小守 ケイ

  「えッ、解雇?」。コックの夫と小学生ら子供2人と暮らすサンドラはうつ病で休職中。回復し復職も近い金曜午後、同僚女性ジュリエットから電話が来る。「社長が社員16人全員にボーナスか貴女の復職かを投票させ、主任の圧力で14人がボーナスを選んだの」。涙し寝込む彼女だが、夫の「泣いてちゃ復職できないよ」に薬を飲んでジュリエットと共に社長に会い、翌週月曜の再投票を取り付けた!

画像

「土日にボーナス派14人に会って復職を頼もう!」

 「治ったのよ、月曜は私に投票して」。翌土曜日。サンドラはジュリエットの調べた住所を頼りに、薬持参で夫の車で同僚宅を回り始める。しかし、次々と断られ続け、親しい女性同僚の居留守や主任の「仕事は16人で可能。“病み上がり”は使えない」という暴言にも遭い、思わず息が詰まりかける。「酷いわ・・復職させない気よ・・」。
 一方、翻意したのは2人で、「僕の失敗を庇ってくれたのに」と謝る若手男性と、息子に猛反対されても彼女に理解を示した初老男性。さらにジュリエットの電話説得も功を奏し、味方は6人に。「あと3人で過半数よ!」。しかし、サンドラは「私のせいで皆がボーナスを失う。そんな所で働けないわ」と泣き伏し、夫が優しく抱き起こす。

「貴女を支持するわ」、勇気ある決断に力を得て・・

 日曜は先ずアンヌの家へ。「家の改修費が要るけど夫と相談するわ」。次に訪ねた男性2人に断られ、1人は不在。再訪したアンヌ宅では夫が出てきて、話もさせない。「面倒を持ち込むな! 帰ってくれ!」。

 「もう駄目・・」。帰宅後、薬を箱ごと飲んだ時、玄関から夫が「アンヌが来たよ! 君に入れると」。しかし、薬の大量服用を知った夫、急いで吐かせ、アンヌに救急車を頼む! 緊急治療で無事回復した彼女は、アンヌの「夫が何と言おうと私は貴女の味方よ」に勇気百倍!「今夜、残りの3人に会うわ!」。
 退院後の夜。1人目に断られ、2人目は不在。3人目の男性は「僕は9月迄の臨時雇いだから主任が怖いけど・・」と躊躇しつつも「君に入れるよ」。味方は8人となり、過半数まであと1人に!

画像

映画の見所

 月曜。8対8で復職は叶わずも、社長が「皆にはボーナスを、君にも臨時雇用者の契約満了後に復職を」。だが、サンドラは「誰かを解雇するならお断りします」。仲間の連帯を胸に明るい顔で職探しへ!
 主演のM・コティヤールの演技が絶賛され、映画各賞主演女優賞に輝いた作品で、監督はカンヌ映画祭最高賞2回受賞(「ロゼッタ」と「ある子供」)の欧州映画を代表するダルデンヌ兄弟。

画像

うつ病治療には薬も休養も必要

【監修】 公益財団法人結核予防会 理事 総合健診推進センター 所長 宮崎 滋
 うつ病は気分障害の一つで、気分が落ち込み何も楽しめない精神症状や、眠れず食欲がなく疲れやすい等の身体症状を呈します。OECD調査では日本のうつ病・うつ状態の割合は、7.9%(2013年)からコロナ禍の2020年には 17.3%に倍増しました。うつ病の発症には感染予防による長期間の閉塞感、孤独感などが関係していますが、原因は精神的な問題や個人の性格だけではありません。
 発症にはセロトニン等の脳内の神経伝達物質の減少が関与するので、治療にはセロトニン再取込阻害薬*1 などが使用されます。近年、即効性のケタミンが治療薬として期待されていますが、治療には薬だけでなく休養が必要です。
 うつ病の治療で問題となるのは回復期の自殺企図であり、自殺は突然のように見えますが、何らかの兆候があるので、予防には周囲の見守りや支援が欠かせません。

  • * 1 神経伝達部位でセロトニンの取込みを抑制することでセロトニン量を増やす
Page Top