内臓脂肪の蓄積に起因し複数の代謝異常が重なるメタボリックシンドロームは、「生活習慣病」とも言われるように生活習慣の乱れが原因と考えられています。しかし一言で生活習慣と言っても様々な要因があり、個人ごとに内臓脂肪の蓄積に繋がる生活習慣の乱れはさまざまであると考えられます。そこで花王は、簡便なアンケートから生活習慣の乱れを評価できる質問票を開発しました*1 。
この質問票を用いると、肥満や内臓脂肪蓄積に関与すると考えられる生活習慣の乱れを、食事の「量」、食事の「質」、食事の「時間」、身体活動(不活動)などに分類し、個人ごとに得点化できます(図-1)。
この質問票と腹部生体インピーダンス法内臓脂肪計を用いて、日本人成人男女11,438名の食事習慣および内臓脂肪蓄積の調査を実施しました。質問票から評価された食事・生活習慣の因子得点と内臓脂肪蓄積の関係を検討したところ、内臓脂肪の蓄積は、食事の「量」、食事の「質」、食事の「時間」、身体活動(不活動)いずれとも有意な相関関係が認められました*2 (図-2)。
花王は内臓脂肪蓄積に関与する食事因子のうち食事の「質」に注目し、成人男女579名に対して質問票を用いた食事習慣調査と連続3日間の全食事記録(写真+日誌)を行い、内臓脂肪になりにくい「質」の高い食事の栄養バランスの特徴の探索を行いました。その結果、摂取カロリーに差は認められない一方、たんぱく質/脂質比(P/F)、食物繊維/炭水化物比(Fib/C)、ω3脂肪酸(ω3/F)(またはEPA+DHA)/脂質比が有意に高いことが内臓脂肪になりにくい「質」の高い食事の特徴として見出されました*2 (図-3)。
そこで、カロリーをほぼ同一とし、内臓脂肪になりにくいと期待される栄養バランスを高めた試験食(2097kcal/日、P/F比=1.09、繊維/C比=0.118、ω3/F比=0.125)および現代(対照)食(2110kcal/日、P/F比=0.37、繊維/C比=0.041、ω3/F比=0.023)を調整し、肥満気味の成人男性21名(平均年齢 41歳、平均内臓脂肪面積 108cm2)を対象とし、2週間の食事を試験食または対照食に全て置き換えたクロスオーバー試験を実施し、介入前後の内臓脂肪およびメタボ関連項目を検査しました。その結果、試験食群では内臓脂肪が有意に低減し(図-4)、LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪およびHbA1cの改善も認められました*3 。このことから、食事の量は減らさず摂取カロリーが一定でも、栄養バランスを最適に調整することで内臓脂肪になりにくい食事が実現できることを確認しました。
栄養バランス調整による内臓脂肪低減作用のメカニズムを探索するため、試験食または対照食摂取後の血中パラメータの検査を行いました。その結果、糖質や脂質など食事の栄養素に反応して小腸上皮細胞から分泌される消化管ホルモンの一種であるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(Glucose dependent Insulinotropic Polypeptide:GIP)の分泌が試験食摂取時に顕著に抑制されることが確認されました(図-5)*3 。GIPは過剰に分泌されることでエネルギー消費を抑制し脂肪蓄積を促進することが知られており*4 、栄養バランス調整によるGIP分泌制御が内臓脂肪になりにくい栄養バランスの作用メカニズムの一つと考えられます。
食事習慣と内臓脂肪蓄積に関する疫学研究から見出され、ヒト臨床試験によって内臓脂肪低減効果が検証された3つの栄養バランスを指標とし、内臓脂肪になりにくい食事を実践する方法として、スマート和食Ⓡを開発しました。スマート和食は、カロリー摂取を過度に制限することなく適量を保ちながら、日本人の食事摂取基準(開発時2015年版)を逸脱しない範囲で3つの栄養バランスを高めることで内臓脂肪になりにくい食事を提供・実践する新しい食事法です(図-6)。
スマート和食Ⓡを実践し、職場と地域の健康増進に役立てて頂くため、花王では様々な取り組みを行っています。まず、栄養士・保健師など対象者に食事指導をされる専門職の方向けにスマート和食の指導媒体を開発し、専門職向けの講座を開設しています。特定保健指導の栄養指導にスマート和食を活用し、半年間で内臓脂肪が約-13cm2(p<0.05)改善された実績も報告されています*5 。また、職場の食堂や給食業者の方と連携し、スマート和食の基準に従って調製した食事の提供を行い、働き盛り世代の健康増進に活用されています*6 。ご家庭向けには料理教室と連携したスマート和食教室の開設やレシピ本の出版を行い、スマート和食の啓発・普及に取り組んでいます。