蚊の吸血行動に着目した忌避研究
蚊の脚の構造の特長や対象表面での 接触角についての研究結果を紹介します。
蚊は羽化や産卵の場面で、水面を足場とするため、その脚は高い撥水性を有しています[1]。これは図1のように、蚊の脚の表面は鱗(うろこ)に覆われ、微細な凹凸構造を持つためです。花王ではこの蚊の脚の特性に着目し、蚊の脚と物質との親和性について研究を行なっています。
蚊の脚表面を模した板(蚊の脚の鱗を敷き詰めた板)に、水滴を滴下し接触角を測定すると、130.8°と高い接触角を示します。(水の接触角は、凹凸のない平滑面においては、119°が最大値であると言われています[2]。)その一方でこのような凹凸構造は、疎水性液体が濡れやすく、図2のように、シリコーンオイルとスクワランではいずれも低い接触角になります。化粧品素材のシリコーンオイルでは、滴下1秒後の接触角が8.2°であり、その測定後も液滴は拡がり続けるという結果でした。
図1 蚊の顕微鏡像
(a) 前脚の電子顕微鏡像,スケールバーは50μm(画像上),10μm(画像下)
(b) デジタルマイクロスコープ像,スケールバーは100μm (Iikura et al., Sci Rep 10, 14480(2020)を改変して引用)
図2 蚊の脚表面を覆ううろこを 使用した基板に対する 種々液体の接触角
(a) 各液体の接触角,プロット上のアルファベット(A, B, C)が異なるサンプルは統計的に有意差がみられたことを示す(Tukey post hoc test, p < 0.001)
(b) グリセリン(上図)とシリコーンオイル(下図)の滴下1秒後の液滴 (Iikura et al., Sci Rep 10, 14480(2020)を改変して引用)