パーム油は、食糧や工業製品の原料として広く利用され、単位面積当たりの収穫量が高い植物油です。その中で、種子の部分から採れるパーム核油は、洗剤やシャンプーなどに使用される界面活性剤の原料であり、花王の主要原材料のひとつです。生産量の80%以上がインドネシア、マレーシアで生産されており、これらの国は、熱帯雨林を抱え、多種多様な野生動物が棲む、生物多様性にとって貴重な地域です。花王が行った分析でも、最も優先的に取り組むテーマとして位置づけています。
花王はパーム油・パーム核油の持続可能な調達のために、2025年までに森林破壊ゼロの達成をめざしています。そのための活動として、以下の活動を進めています。
持続可能なパーム油調達に向けた花王の活動については、パームダッシュボードを参照ください。
また、生産されたパーム油・パーム核油を無駄にすることなく、大切に使う研究も進めてきました。従来は、洗浄剤の原料としては使いにくく用途が限定されていた、パーム油・パーム核油の固体状の部分から、分子設計の工夫により新洗浄剤「バイオIOS」の開発に成功しました。バイオIOSは、少量で高い洗浄力を発揮し、すすぎに必要な水の削減が可能という特長をがあり、花王の衣料用洗剤に使用されています。貴重な資源である油脂と水の利用といった点からも、洗浄の世界で革新をもたらす洗浄剤です。
花王は、これまで、より安全性の高い化学物質の開発や適正な化学物質管理を通して、環境中に排出された化学物質の影響を最小化することに取り組んでまいりました。
現在花王は、簡便かつ高精度な生態調査方法を確立するため、環境中に含まれるRNA(環境RNA)の研究に取り組んでいます。DNAよりも分解されやすいRNAを指標とした分析方法は、河川等に流れ込む生活排水に含まれる、たとえば食材由来のDNAの影響を受けにくく、その場にいない生物を誤検出しにくいという特徴があります*2,3 。また、観察や採捕に頼らない分析ができるということは、生物にストレスを与えず、また、種や数を減らさずに調査ができます。
これまでに、河川水中の魚の環境RNAを網羅的に解析する手法*2 に加えて、水質の評価指標とされている節足動物(水生昆虫)や藻類に対する評価法を構築しました*4 。これにより、観察や採捕による調査よりも簡便に生物多様性評価や水質評価ができる可能性が見いだされました。
環境中の生物は日々さまざまなストレスにさらされています。そこに棲む生物の種や数が減少する前にその予兆をとらえることができれば、より早く適切な環境保全活動へとつなげることができます。花王は、水中の環境RNAシーケンシングが、水生生物のストレスを解析するためのツールとして有用である可能性を見いだしました*5 。ポイントは、環境RNAの分解を最小限に抑えるために短時間内に分析する方法を確立することでした。この検討から、ストレスマーカーとなる遺伝子を見いだすとともに、水中の環境RNAが生物そのもののRNA(生体内や皮膚に含まれるRNA)よりもストレスマーカーに対して高い感度を示すことを見いだしました。
花王が開発した方法は、生体を採捕することなく、種や生息数からその状態までを網羅的、かつ高精度に可視化できる可能性があり、生物多様性や生態系保全の取り組みに有益な方法だと考えています。
参考文献
環境RNAを用いた生態調査のフロー
サンゴ礁は生物多様性の保全において重要な海洋生態系ですが、近年その衰退が世界的に注目されています。サンゴの主要なストレス源のひとつとして知られている海水温上昇のほか、さまざまなストレス源がサンゴ礁の衰退要因として議論されています。花王は、東京大学大気海洋研究所と共同で、造礁サンゴの一種であるウスエダミドリイシ*6 に対する紫外線防止剤の影響評価を実施しました*7 。その結果、これまでに沖縄県の海水から検出されている紫外線防止剤の濃度レベルにおいてサンゴの影響は確認されませんでした。さらに、紫外線防止剤と海水温上昇に対するサンゴの遺伝子発現の変化を比較したところ、両者は大きく異なる特徴をもつことがわかりました。この知見は、さまざまな環境因子に対して、サンゴがどのような生理学的な応答をしているかを知るのに役立ち、サンゴの生育や海洋生態系を考慮したモノづくりに活かせる可能性があります。
参考文献
サンゴを飼育している水槽
撮影者:東京大学大気海洋研究所 高木俊幸助教
非可食のバイオマス残渣であるキャッサバ残渣から、非可食バイオノニオン活性剤の製造をめざす実証研究についての取り組みを開始しました。花王の有する酵素並びに酵素の製造技術を活かし、キャッサバ残渣をケミカル材料の原料である糖に効率よく分解することができるようになりました。また、同じ工場の敷地内で酵素の生産から糖化処理を行うことで、輸送によるCO2の発生を抑制することをめざしています。
2023年には、重要な工業原料である没食子酸を糖から生産する技術を開発、「バイオ没食子酸」として販売を開始しました。没食子酸は、電子機器の半導体やボイラー用の防サビ剤の原料などとして利用されています。これは、ウルシ科植物にできる虫こぶ(五倍子)から抽出される植物ポリフェノールのひとつで、樹木由来であることから生産地が限定されている、希少な生物資源のひとつです。