花王の研究開発部門のウイルス制御研究などについて、
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インフルエンザウイルス及び新型コロナウイルスの不活化に対するエタノールと塩化ベンザルコニウムの組合せの効果を国際規格試験法にて短時間暴露(30秒)の条件で調べた。低濃度エタノールのみあるいは塩化ベンザルコニウムのみでは弱い不活化効果を示したのみであったが、その組合せで相乗効果が得られることを見出した。種々の市販手指消毒剤で試験を行い、低濃度(44vol%)エタノール及び(0.05w/v%)塩化ベンザルコニウムを含有する市販手指消毒剤がインフルエンザウイルス及び新型コロナウイルスを短時間で十分に不活化することも証明した。低濃度エタノールと塩化ベンザルコニウムの組合せは、手指消毒剤の実際的な使用から、効果的かつ有益と結論された。COVID-19パンデミックによって、院内感染管理とは異なる市中感染制御の重要性が新たに認知されてきた。本研究で示した低濃度エタノールと塩化ベンザルコニウムの組合せは、市中感染制御に有効な対策であるとともに、QOL向上にも有用であることが期待される。
本総説では新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックが進む2020年5月現在の状況を踏まえ、医薬品分野ではなく日用品分野による身の回りの環境表面のウイルス除染の検討を試みた。日用品分野がターゲットとするのは環境表面におけるウイルス除染による予防型リスクマネジメントである。感染経路対策のための科学的基盤として、本稿では(a) 3つの感染経路、(b) ウイルスの構造と不活性化機序、(c) ウイルスを不活性化する化合物、(d) ウイルス不活性化製品のための法規制の枠組み、をシステマティックレビューの手法で体系化した。
1. 緒言 / 2. 感染の各種経路とリスクマネジメント / 3. エンベロープウイルスの構造と不活性化機序 / 4. ウイルスの不活性化方法の網羅的レビュー / 4-1. 一般的な不活性化方法とその課題 / 4-2-1. ウイルス不活性化技術の調査指針 / 4-2-2. ウイルス不活性化技術の調査方法 / 5. コロナウイルス,インフルエンザウイルスに対して不活性化効果を有する化合物 / 5-1. アルコール類 / 5-2. 界面活性剤 / 5-2-1. 陽イオン性界面活性剤 / 5-2-2. 非イオン性界面活性剤 / 5-2-3. 陰イオン性界面活性剤 / 5-2-4. 両性界面活性剤 / 5-3. 有機酸 / 5-4. 次亜塩素酸ナトリウム / 5-5. 過酸化水素 / 5-6. アルデヒド類 / 5-7. ポピドンヨード / 5-8. カテキン類 / 5-9. ウイルス不活性化効果を示す除染用製品の現状 / 6. 抗ウイルス製品の国別法規制フレームワーク(日本, 米国FIFRA規制, EU-BPR規則) / 7. まとめと提言