ウイルス不活性化化合物
界面活性剤は、一つの分子中に親水基と疎水基を持つ化合物で、様々な種類がありますが、大きくは親水基の種類により、陽イオン性(カチオン)界面活性剤、非イオン性(ノニオン)界面活性剤、陰イオン性(アニオン)界面活性剤、両性界面活性剤に分けられます。界面活性剤は洗浄、起泡、乳化、分散、可溶化、浸透など、様々な用途に用いられます。
界面活性剤は低濃度では溶媒中で単一分子として存在していますが、臨界ミセル濃度(CMC)以上では、溶媒中でミセルと呼ばれる自己集合体を形成し、ミセルが形成されると不溶性物質の可溶化など単一分子では見られなかった働きが発現します。生体脂質二重膜と界面活性剤のCMCの関係は、洗剤機能研究や膜タンパク質抽出・可溶化の分野で数多くの知見があります。
例えば、界面活性剤をCMC以上の濃度で用いることにより脂質膜を可溶化し膜タンパク質の抽出、可溶化が行われています(Garavitoet al. 2001; Arnold and Linke, 2007; メルク, 2019)。また、ウイルス同様、脂質二重膜とタンパク質を最外層に有する細菌に対する殺菌効果においても界面活性剤のCMCが関与しています(Kihara, 1998; Inácio et al., 2016)。
このように、界面活性剤は濃度で性質が大きく変化することからCMCを理解することが極めて重要です。CMCの値は界面活性剤の構造、特にアルキル基の鎖長に依存し、また塩濃度や温度、pHなどの環境要因によっても容易に変化します。したがって、界面活性剤のウイルス不活性化データの知見の整理や実験を行う際には試験条件に十分に注意する必要があります。
fig. 界面活性剤によるコロナウイルス不活性化メカニズム
(横畑 et al., 2020)