ウイルス不活性化化合物

有機酸/次亜塩素酸類

有機酸

多様な有機酸の中で、クエン酸は0.05%、20分間の接触でインフルエンザウイルスに対し、4.7log10の減少が報告されています(Oxford et al., 1971)。しかしこれは、あくまでpH 3.2の結果であり、クエン酸が幅広いpHにおいて同様の効果を示すかは、さらなる検討で明らかにする必要がありそうです。麦芽酢は濃度1%、60分間の接触でインフルエンザウイルスに対し、7log10を越える減少が認められています。この報告において、同じ条件でのウイルスの遺伝子コピー数に変化は見られなかったことから、麦芽酢はウイルスのエンベロープに存在するタンパク質に作用したことが示唆されています(Greatorex, 2010)。

ウイルス不活性化化合物ー有機酸

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次亜塩素酸類

次亜塩素酸ナトリウムの不活性化効果

漂白剤として汎用される次亜塩素酸ナトリウムはコロナウイルス及び、インフルエンザウイルスいずれに対しても不活性化効果を持つことが確認されています。SARS-CoVに対しては、0.045%、5分間の接触で3log10、MHVに対しては0.21%、30秒間の接触で4log10以上減少させることが確認されており、インフルエンザウイルスに対しては0.1%、30分間の接触で7.2log10の減少が確認されています(Lai et al., 2005; Abe et al., 2007; Dellanno et al., 2009)。一方でSARS-CoV-2に対しては、0.135%、1分間の接触、および0.09%、10分間の接触で不活性化能を示すとの報告もあります(戸高ら, 2020)。

作用機序にはタンパク質の変性が関係

作用機序としては殺菌効果を示す際と同様、ウイルス不活性化においてもタンパク質の変性が関わっていると考えられます。タンパク質の酸化、塩素化による変性、DNAの損傷が複合的にかかわっているものと考えられ、その効果は主に解離していない次亜塩素酸によってもたらされるとされています(CDC, 2008)。

有効性のpHによる変動

次亜塩素酸ナトリウムの効果は一般に水の硬度に影響を受けないとされます。他方、pHによって塩素ガス、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの存在比が変わり、それぞれのウイルスに対する不活性化効果は異なるため、次亜塩素酸ナトリウム自体の有効性はpHで変動します。このpH依存性は試験設計を行う上で特に注意しなければならない点と言えます。具体的には、培地中でウイルスと次亜塩素酸ナトリウムを反応させようとした場合、その混合液は培地の緩衝能により中性域になると予想され、一方で市販される次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性であり、実使用場面での希釈条件でもpHは10前後となります。

実環境での条件に考慮が必要

また、一般に次亜塩素酸ナトリウムは有機物存在下では効果が低下します。これらのことから、培地中での接触試験は実環境を反映できていない可能性を考慮しておく必要があります。実環境での条件を模倣するためには更なる評価系の改良が必要と考えられます。更に、低pH下で発生する塩素ガスは有毒なため、使用に際しては低pH条件にならないよう注意する必要があります。特有の塩素臭があり、粘膜等の人体への刺激性も小さくないため、使用に際してはメガネやマスク等の適切な保護具の着用、換気が必要となります。また、金属を腐食させることも知られています(CDC, 2020; WHO, 2014)。

ウイルス不活性化化合物ー次亜塩素酸類

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Reference

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