ウイルス不活性化化合物
非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルはSARS-CoV-2に対して、0.1%、5分間の接触で4log10以上の減少、0.2%、5分間の接触で、5log10の不活化効果が認められました(NITE, 2020)。同じく非イオン性界面活性剤であるアルキルグルコシド(AG)はSARS-CoV-2に対して、0.05%濃度、20秒間の接触で5log10以上の減少や、終濃度0.09%の濃度、1分間の接触で4log10の不活化効果が認められています(NITE, 2020)。また、オクチルフェノールエトキシレート(製品名:Triton X-100)やモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(製品名:Tween 80)は有機溶媒であるリン酸トリブチル(TNBP)と併用した場合にウイルス不活性化効果が確認されています。これらの組み合わせはS/D(solvent,detergentの略)処理と呼ばれ血液製剤の製造等において用いられます(Darnell and Taylor, 2006)。
コロナウイルスに対してはTriton X-100、TNBPそれぞれ1%、0.3%、の濃度で2時間接触させるとBSA存在下でも3log10を越える減少が確認され、また、Tween 80、TNBPもそれぞれ1%、0.3%の濃度で4時間接触させると同様に、BSA存在下でも3log10を越える減少が確認されています(Darnell and Taylor, 2006)。インフルエンザウイルスに対しては同様の濃度、1分間の接触で3log10以上の減少が確認されています(Jeong et al., 2010)。
ウイルス不活性化の主なメカニズムとしては有機溶媒および界面活性剤によるエンベロープの破壊が考えられています(Hellstern and Solheim, 2011; Pfaender et al., 2015)。グリセロールと脂肪酸のエステルであるモノグリセリドは非イオン性界面活性剤であり、食品添加物として用いられており、モノグリセリドの1種であるモノカプリンは殺菌効果も知られています(Takahashi et al., 2012)。このモノカプリンはインフルエンザに対する不活性化効果も報告されており、0.25%、1分間の接触で3log10以上の減少が確認されています(Hilmarsson et al., 2007)。
ウイルス不活性化化合物ー非イオン性界面活性剤
化合物 | 濃度 | ウイルス種 | 株 | 接触時間 | ウイルス減少量 (log10) |
引用 |
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非イオン性界面活性剤 | ||||||
ポリオキシエチレンアルキルエーテル | 0.2% | SARS-CoV-2 | 5 m | ≧ 5 | NITE (感染研) , 2020〇 |
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0.1% | SARS-CoV-2 | 5 m | 4 | NITE (感染研) , 2020〇 |
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△0.009% 0.01%を希釈9:1 |
SARS-CoV-2 | 5 m | < 4 | NITE (北里大) , 2020〇 |
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アルキルグリコシド | 0.05% | SARS-CoV-2 | 20 s | ≧ 5 | NITE (感染研) , 2020〇 |
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0.09% 0.1%を希釈9:1 |
SARS-CoV-2 | 1 m | > 4 | NITE (北里大) , 2020〇 |
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△0.045% 0.05%を希釈9:1 |
SARS-CoV-2 | 1 m | < 4 | NITE (北里大) , 2020〇 |
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Triton X-100&TNBP | 1% & 0.3% | SARS-CoV | Urbani | 2 h | > 3 | Darnell, 2006〇 |
1% & 0.3% | Influenza Virus | A/NWS/33 (ATCC VR-219) |
1 m | ≧ 3.84 | Jeong, 2010〇 | |
Tween 80&TNBP | 1% & 0.3% | SARS-CoV | Urbani | 4 h | > 3 | Darnell, 2006〇 |
0.2% & 0.3% | SARS-CoV | Urbani | 2 h | > 3 | Darnell, 2006〇 | |
モノカプリン | 0.25% | Influenza Virus | A/Iceland/32/2003 (H1N1) |
1 m | ≧ 3.0 | Hilmarsson, 2007〇 |
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陰イオン性界面活性剤である、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)は、0.1%濃度、5分間の接触で、SARS-CoV-2に対して、4log10を越える不活化効果が認められました(NITE, 2020)。タンパク質の可溶化剤として知られているコール酸ナトリウムもTriton X-100 、Tween 80同様、TNBPと併用することで不活性化効果が確認されており、具体的には、コール酸ナトリウム0.2%とTNBP0.3%の併用系において、SARS-CoVに対して2時間接触で3log10を越える減少が報告されています。しかしながら、Triton X-100やTween 80とは異なり、夾雑物存在下では著しい効果の低下が見られ、上記濃度のコール酸塩とTNBPは25% BSA存在下ではSARS-CoVと6時間接触させても1log10の減少も確認されませんでした(Darnell and Taylor, 2006)。
オレイン酸カリウムは単独で不活性化効果が確認されており、0.11%、3分間の接触でインフルエンザウイルスに対し4log10より多くの減少が確認されています(Kawahara et al., 2018)。作用機序としてはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)や一部の陰イオン性界面活性剤の知見からエンベロープの破壊、タンパク質変性が関与していると考えられます(Imokawa et al., 1976; Kampen et al., 2017)。
ウイルス不活性化化合物ー陰イオン性界面活性剤
化合物 | 濃度 | ウイルス種 | 株 | 接触時間 | ウイルス減少量 (log10) |
引用 |
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陰イオン性界面活性剤 | ||||||
コール酸ナトリウム& TNBP |
0.2% & 0.3% | SARS-CoV | Urbani | 2 h | > 3 | Darnell, 2006〇 |
△0.2% & 0.3% | SARS-CoV | Urbani | 6 h | < 1 (with BSA) | Darnell, 2006〇 | |
直鎖アルキルベンゼンスル ホン酸ナトリウム |
0.1% | SARS-CoV-2 | 20 s | ≧ 5 | NITE (感染研) , 2020〇 |
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0.09% 0.1%を希釈9:1 |
SARS-CoV-2 | 5 m | > 4.0 | NITE (北里大) , 2020〇 |
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オレイン酸カリウム | 0.10% 0.11%を希釈9:1 |
Influenza Virus | A/Udorn/72 (H3N2) | 3 m | > 4 | Kawahara, 2018〇 |
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アルキルアミンオキサイドは、SARS-CoV-2に対して、0.1%濃度、20秒間の接触で5log10の不活化効果や終濃度0.045%濃度、1分間の接触で4log10を越える不活性化が確認されました(NITE, 2020)。それ以外の両性界面活性剤に関しては、コロナウイルスやインフルエンザウイルスに対する不活性化効果については報告が見られませんでした。しかしながら、アルキルアミンオキサイドを含め、スルホベタインおよびその混合物がHIVを含めた他のエンベロープウイルスに対して不活性化効果を有することは知られています(Krebs et al., 1999; Conley et al., 2017)。Conleyらの報告においては不活性化効果がCMC以上で確認されていたことから、両性界面活性剤の不活性化にはエンベロープの破壊が関与していると予想されます。
ウイルス不活性化化合物ー両性界面活性剤など
化合物 | 濃度 | ウイルス種 | 株 | 接触 時間 |
ウイルス減少量 (log10) |
引用 |
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両性界面活性剤 | ||||||
アルキルアミンオキサイド | 0.1% | SARS-CoV-2 | 20 s | ≧ 5 | NITE (感染研) , 2020〇 |
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0.045% 0.05%を希釈9:1 |
SARS-CoV-2 | 1 m | > 4.0 | NITE (北里大) , 2020〇 |
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ビグアニド | ||||||
クロルヘキシジングルコン酸塩 | △0.02% | MHV | Strains MHV-2 & MHV-N |
10 m | 0.7 - 0.8 | Saknimit, 1988 |
△0.02% | CCV | Strain I-71 | 10 m | 0.3 | Saknimit, 1988 | |
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