ウイルス不活性化化合物
酸素系漂白剤などに汎用される過酸化水素は0.5%、1分間の接触でコロナウイルスに対し4log10を越える減少が確認されました。作用機序としては、ヒドロキシラジカルを一過性で発生することにより、エンベロープ、およびDNA/RNAを破壊すると考察されています(Omidbakhsh and Sattar, 2006)。
ウイルス不活性化化合物ー過酸化水素
化合物 | 濃度 | ウイルス種 | 株 | 接触 時間 |
ウイルス減少量 (log10) |
引用 |
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過酸化水素 | ||||||
過酸化水素 | 0.5% | HCoV | Strain 229E | 1 m | > 4.0 | Omidbakhsh, 2006 |
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医療器具の殺菌に用いられるホルムアルデヒドはSARS-CoVに対し0.7%で2分間接触させると3log10を越える減少が確認されています(Rabenau et al., 2005a)。同様の用途で用いられているグルタルアルデヒドはSARS-CoVに対し0.5%、2分間接触させると、4log10を越える量の減少が確認されています(Rabenau et al., 2005a)。作用機序としては、微生物に対する殺菌作用で知られているのと同様、タンパク質の変性が関わっていると考えられます。粘膜等の人体への刺激性も小さくないことから、使用に際してはメガネやマスク等の適切な補助具の着用、換気が必要となります。
ウイルス不活性化化合物ーアルデヒド類
化合物 | 濃度 | ウイルス種 | 株 | 接触 時間 |
ウイルス減少量 (log10) |
引用 |
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アルデヒド類 | ||||||
ホルムアルデヒド | 0.8% 1%を希釈4:1 |
SARS-CoV | Isolate FFM-1 | 2 m | > 3.0 | Rabenau, 2005a |
0.56% 0.7%を希釈4:1 |
SARS-CoV | Isolate FFM-1 | 2 m | > 3.0 | Rabenau, 2005a | |
0.7% | MHV | 10 m | > 3.5 | Saknimit, 1988 | ||
0.7% | CCV | Strain I-71 | 10 m | > 3.7 | Saknimit, 1988 | |
0.009% | CCV | 24 h | > 4.0 | Pratelli, 2008 | ||
グルタルアルデヒド | 2.5% | SARS-CoV | Hanoi strain | 5 m | > 4.0 | Kariwa, 2004 |
0.4% 0.5%を希釈4:1 |
SARS-CoV | Isolate FFM-1 | 2 m | > 4.0 | Rabenau, 2005a | |
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皮膚消毒やうがい薬等の殺菌用途が知られるポビドンヨードは、ヨウ素とポリビニルピロリドンの複合体です。ポビドンヨード0.23%を、15秒間接触させることでSARS-CoV、MERS-CoVに対し4log10以上の減少が見られました(Eggers et al., 2018)。作用機序としては殺菌でのメカニズムと同様、放出されるヨウ素が関わっていると考えられます。同じエンベロープウイルスであるC型肝炎ウイルスを用いた研究において、ポビドンヨードはウイルスの核酸、脂質、タンパク質に作用することが報告されています(Pfaender et al., 2015)。
ウイルス不活性化化合物ーポビドンヨード
化合物 | 濃度 | ウイルス種 | 株 | 接触 時間 |
ウイルス減少量 (log10) |
引用 |
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ポビドンヨード | ||||||
ポビドンヨード | 6.7% 75%を希釈9:1 |
SARS-CoV-2 | 5 m | > 3.8 | Chin, 2020〇 | |
6% 7.5%を希釈4:1 |
MERS-CoV | Isolate HCoV-EMC/ 2012 |
15 s | 4.6 | Eggers, 2015 | |
3.2% 4%を希釈4:1 |
MERS-CoV | Isolate HCoV-EMC/ 2012 |
15 s | 5.0 | Eggers, 2015 | |
1% | SARS-CoV | Hanoi strain | 1 m | > 4.0 | Kariwa, 2004 | |
0.8% 1%を希釈4:1 |
MERS-CoV | Isolate HCoV-EMC/ 2012 |
15 s | 4.3 | Eggers, 2015 | |
0.47% | SARS-CoV | Hanoi strain | 1 m | 3.8 | Kariwa, 2004 | |
0.25% | SARS-CoV | Hanoi strain | 1 m | > 4.0 | Kariwa, 2004 | |
0.23% | SARS-CoV | Hanoi strain | 1 m | > 4.0 | Kariwa, 2004 | |
0.18% 0.23%を希釈4:1 |
SARS-CoV | Isolate FFM-1 | 15 s | ≧ 4.4 | Eggers, 2018 | |
0.18% 0.23%を希釈4:1 |
MERS-CoV | Isolate HCoV-EMC/ 2012 |
15 s | ≧ 4.4 | Eggers, 2018 | |
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カテキン類は、植物由来のポリフェノールの一種で、殺菌効果が知られています。カテキン類を豊富に含む緑茶抽出物はインフルエンザウイルスに対して0.1%、10分間接触させることで、5log10以上の減少が確認されています(Lee et al., 2017)。カテキン類の一種である没食子酸エピガロカテキン(EGCg)は、インフルエンザウイルス表層のヘマグルチニンと相互作用し宿主細胞への吸着を阻害することで不活性化をもたらすことが知られており(Kaihatsu et al, 2018)、また、EGCgは大腸菌の細胞表層に存在するポーリンタンパクに吸着することで殺菌作用を示すことが知られています(Nakayama et al, 2013)。さらに、最新報告では、EGCgがSARS-CoV-2のスパイクタンパクに相互作用する可能性が計算化学的手法によって示されています(Maiti et al., 2020)。以上の知見から、カテキン類、特にEGCgは、ウイルス表層のタンパク質に吸着することによってウイルス不活性化効果をもたらすと考えられます。
ウイルス不活性化化合物ーカテキン類
化合物 | 濃度 | ウイルス種 | 株 | 接触 時間 |
ウイルス減少量 (log10) |
引用 |
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カテキン類 | ||||||
緑茶抽出物 | 0.1% (EGCg 0.0091%含有) |
Influenza Virus | A/Puerto Rico/8/1934 (H1N1) (PR8) |
10 m | > 5 | Lee, 2017〇 |
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