ウイルス不活性化化合物
殺菌剤として知られる四級アンモニウム塩の塩化ベンザルコニウム(BAC)、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドを含むジアルキルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)は、米国FIFRA規制審査データを中心にウイルス不活性化効果が多数報告されています。
BACは0.05%、10分間の接触でMHV、CCVに対して3.7log10を越える減少が(Saknimit et al., 1988)、また、SARS-CoV-2に対しても、0.05%~0.09%の濃度で3.8log10以上不活化できることが報告されています(Chin et al., 2020, NITE, 2020)。インフルエンザウイルスに対する効果としては0.05%、30分間の接触で7.8log10以上の減少、さらに低濃度の0.01%、20分間の接触で3.7log10の減少が報告されています(Abe et al., 2007)。同様に、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドにおいてもウイルス不活性化効果が報告されており、0.0025%、3日間の接触でCCVに対し4log10を越える量の不活性化が確認されました(Pratelli, 2007)。しかし、本化合物は一定濃度以上では細胞毒性を示すことが知られており、このPratelliの報告では毒性の調査が不十分とも言えます。したがって、この評価結果に関しては更なる調査が必要と思われました。
DDACはSARS-CoV-2に対して0.025%、20秒間の接触で4log10以上の減少や、終濃度0.009%、5分間の接触で4log10を越える減少が確認されています。塩化ベンゼトニウムはSARS-CoV-2に対して0.05%、1分間の接触で5log10以上の減少や、終濃度0.045%、5分間の接触で4log10を越える減少が確認されています(NITE, 2020)。なお、NITEの報告書に記載の北里大学の試験では、試験溶液とウイルス懸濁液を9:1で混合しているため、NITEの報告書に記載された濃度ではなく、終濃度で記載しています。
これら陽イオン性界面活性剤がエンベロープウイルスを不活性化するメカニズムとしては、エンベロープウイルスの最外層の脂質膜とタンパク質と陽イオン性界面活性剤が相互作用することで膜の破壊やタンパク質変性がもたらされ不活性化につながると考察されています(McDonnell and Russell, 1999)。殺菌効果を示す際と同様に、相互作用においては陽イオン性界面活性剤の電荷が重要になるため、静電的な相互作用はpHや夾雑物(対となる陰イオン、有機物)などの影響を受けやすいのです(Jono et al., 1986; Merchel, 2019)。そのため、陽イオン性界面活性剤自体やそれを含む製品のウイルス不活性化効果を調べる場合は評価試験条件および実使用条件に十分配慮する必要があると言えます(Saknimit, 1988; Abe, 2007; Oxford, 1971)。米国FIFRA規制では、本化合物カテゴリーを主剤とする抗ウイルス製品の認可事例が多く、COVID-19に有効な製品として202製品がリスト化されています(4月14日時点, US-EPA, 2020)。
ウイルス不活性化化合物ー陽イオン性界面活性剤
Reference