「ディア・ファミリー」
(月川翔監督、24年、日本)
映画・健康エッセイスト 小守 ケイ
「えッ、余命10年? 手術も難しい?」。1977年、愛知県の病院。ビニール樹脂加工会社の2代目社長で娘3人の父の宣政は、生まれつき心臓が悪く常に唇が青い9歳の二女、佳美の“三尖弁閉鎖症”の診断に絶句! 直ぐ国内外の専門医に手術を頼むも断られ、落胆する。すると、娘達の“うちの親は超ポジティブ!”の言葉通り、妻の陽子が人工心臓の本を示して「“何もしない10年”と“やってみる10年”、貴方、どっちを選ぶ?」。
「手術費を人工心臓作りに充てよう!」。宣政は東京の「心臓研究所」教授に協力を頼み、素人ながら研究開始! 会社も実験室や無菌室を備えた医療機器会社に改め、日夜、人工心臓作りに励む。しかし、融資も限界に近づいた頃、高校生の佳美が倒れて緊急入院! 「他の臓器も合併症で弱っている。人工心臓でも完治は無理」。一方、教授も“米国の人工心臓移植患者が180日で死亡”の報に腰が引ける。「クソッ!」。宣政は深夜、一人、会社で書類をぶち撒いた!
「ご免な。人工心臓が出来ず・・」。しかし、佳美は強かった! 「私の命は大丈夫だから他の人を助けてあげて」。丁度その頃、若手医師から“海外製BCは日本人の身体に合わず事故が頻発”と聞いた宣政は、陽子の「佳美には役立たない」を後目にBC開発に着手。「“俺と佳美の新しい夢”なんだ!」。
1987年、小学校以来、母の送迎で通学した佳美が無事に高校を卒業し、BC作りが山場の父の会社に入社。そして、遂にBC完成! 89年に製品化へ。「画期的だ。ポリウレタンの先端部分が蛇行血管への安全な挿入を可能にした」。教授も絶賛するが、納入は“御社には実績が無い”と拒否される・・。
「完成祝いにケーキを!」。その頃、会社で席を立った佳美が突然、胸を押さえて倒れ、緊急搬送される! 「もっと側にいてやれば・・」。駆け付けた宣政が唇を噛むと、長女と三女は「お父さんは間違っていない!これ、見て!」と佳美の日記を渡した。『お父さんは私の病気を治そうと頑張ってくれている。お父さん、大好きだよ!』。
その後、BCは「心臓研究所」を含む多くの病院で採用され、“父子の夢”は実現! 佳美を見舞う宣政が「今日もまた命が一つ助かった」と報告すると、「夢がかなったね。うちの家族は私の誇りよ!」。
モデルは「東海メディカルプロダクツ」会長の筒井宣政氏と家族。大泉洋(宣政)、菅野美穂(陽子)、福本莉子(佳美)らの熱演で、奮闘する宣政の姿と家族の団結を描き、観る者に勇気と感動を与える。
【監修】 公益財団法人結核予防会 理事 総合健診推進センター 所長 宮崎 滋
三尖弁閉鎖症は、心臓の右房と右室の間の三尖弁が閉鎖した先天的心疾患です。心臓に戻ってきた静脈血が肺に送り込まれず動脈血と混ざる為、動脈血中の酸素濃度が低下しチアノーゼが生じます。発生率は出生1万人につき一人で、15歳まで生存できるのは患児の約半数です。静脈血を直接肺に送り込む手術が開発され生存率は高まりましたが、心不全による臓器障害が発症するため予後不良です。
大動脈内バルーンカテーテルは、バルーン(風船)を先端につけたカテーテルで、心筋梗塞などで心臓が血液を全身に送り出せない場合に、心機能補助として一時的に用いられます。胸部大動脈内に留置し、注入したヘリウムガスでバルーンを心臓の動きに合わせ収縮・拡張させ、心機能を約20%上昇させます。現在、日本では1年間に約2万例に使われています。