日常の身体活動量、とくに座っている時間(座位時間)が健康に及ぼす影響について、いくつかの研究成果が報告されました。
座位時間を軽い身体活動、または、中高強度の身体活動に置き換えると、心代謝系の健康にどのような影響を及ぼすかを検討するため、岩木健康増進プロジェクト・プロジェクト健診(以下、岩木健診)の日本人成人758人のデータを用い横断研究(特定の時点におけるデータを用いた研究)を行いました。なお座位時間、低強度の身体活動時間、中高強度の身体活動時間の評価には加速度計を用いました。線形回帰モデルおよびロジスティック回帰モデルを用いて、座位時間と心代謝リスク因子との関連を解析し、等時間置換モデルを用いて、座位時間を低強度の身体活動時間、または、中高強度の身体活動に再配分した場合の理論的影響を推定しました。その結果、座位時間の長さは、メタボリックシンドロームを含む心代謝系の健康悪化と関連していました。座っている時間のうち30分を低強度の身体活動に置き換えると、BMI、内臓脂肪面積、インスリン抵抗性、トリグリセリド、メタボリックシンドローム値が低下し、筋肉量とHDLコレステロールが増加しました(すべてp<0.05)。また、30分の座位時間を中高強度の身体活動に置き換えることは、前述の因子と強く関連していました。
これらの結果は、座っている時間を低強度の身体活動、または、中高強度の身体活動に振り向けることが、アジア人の心代謝系の健康に有益な効果をもたらす可能性を示しています*1 。
座位時間と睡眠の質、および、内臓脂肪蓄積との関連も検討されています。この横断研究には、岩木健診の日本人成人721人の健康診断データを用いました。座位時間と身体活動量は加速度計を用いて7日間以上、1日当たり10時間以上測定しました。睡眠の質の評価には、過去1か月間の睡眠の質を総合的に評価するピッツバーグ睡眠質問票を用い、スコアが6点以上を「睡眠の質が悪い」と判定しました。内臓脂肪面積は、腹部生体インピーダンス法を用いて測定しました。
ロジスティック回帰モデルを用いて、座位時間と睡眠の質の関連を解析した結果、座位時間が長いほど睡眠の質が悪いことがわかりました。この関連は、内臓脂肪面積を含むいくつかの共変量で調整した後も有意であったことから、座っている時間の長さが、直接的に睡眠の質の悪さに影響していることが示唆されました。座っている時間の長さによって対象者を3等分したところ、最も座位時間が短い群に比べて、2番目の群、および、最も座位時間が長い群の睡眠の質の悪さのオッズ比は、有意に高くなりました(座位時間が短い群を1としたときの、2番目の群のオッズ比は2.06[95%信頼区間:1.14-3.73]、最も座位時間が長い群のオッズ比は2.76[95%信頼区間:1.49-5.11]、図4)。
これらの結果は、座位時間を減らすことが睡眠の質の改善に寄与する可能性を示唆しています*2 。

図1 座位時間とピッツバーグ睡眠質問票6点以上との関連オッズ比
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の大流行において、座りがちな行動や肥満が増加したことがいくつかの研究で報告されました。これらは、自記式アンケートによる行動記録に基づく報告が多いため、客観的に測定された座りがちな行動と、肥満因子との関連を調べることとしました。
COVID-19パンデミック前の2018年と、COVID-19パンデミック中の2020年に岩木健診に参加した日本人257人を対象に縦断解析(同じ参加者から収集したデータを用いた解析)を行いました。両時点において、少なくとも7日間の加速度計を用いた座位行動の測定データ、腹部生体インピーダンス法で測定した内臓脂肪面積の測定値、ラテックス凝集比濁免疫測定法を用いた血中アディポネクチン濃度の測定結果を用いて、座りがちな行動とこれらの結果との関連を明らかにするため、重回帰分析を行いました。
その結果、2018年のデータと比較して、2020年には座りがちな行動、および、内臓脂肪面積が有意に増加(p<0.001、p=0.006)しましたが、アディポネクチン値は有意に減少しました(p<0.001)。座りがちな行動の増加は、内臓脂肪面積の増加(β=3.85、[95%信頼区間:1.22-6.49]、p=0.004)とアディポネクチン値の減少(β=-0.04、[95%信頼区間:-0.06- -0.01]、p=0.005)と有意に関連していました。しかし、内臓脂肪面積の影響を考慮した後では、座りがちな行動とアディポネクチン値との関連の有意性は認められませんでした。
これらの結果は、特にCOVID-19パンデミックのような行動制限時には、内臓脂肪の蓄積予防とアディポネクチン改善のために、座位時間を増やさないことが重要であることを示唆しています*3 。
また、勤務日と余暇日でライフスタイルが異なる深夜交替勤務者は、心血管疾患のリスクが高いことが知られています。しかし、深夜交替勤務者の心血管疾患リスク因子と、生活行動(座りがちな行動、身体活動、睡眠)との関連は明らかになっていなかったため、検討がなされました。
66名の男性深夜交替勤務者を対象とし、3軸加速度計を用いて取得した生活行動データから、座りがちな行動、低強度の身体活動、中高強度の身体活動、睡眠の各時間を算出しました(図5)。生活行動の時間は勤務日または余暇日に分けて集計し、心血管疾患の危険因子は定期健康診断の検査値に基づいて決定しました。特定の生活行動を、別の生活行動に置き換えることが心血管疾患危険因子に及ぼす影響を推定するために、等時間置換モデルを用いて解析しました。
その結果、生活行動の時間帯は勤務日と余暇日で異なっており、勤務日において、30分の座りがちな行動を低強度の身体活動へ振り替えることは、ウエスト周囲径の低下と有意に関連していました。さらに、睡眠を座りがちな行動、または、中高強度の身体活動に振り分けることは、中性脂肪値の高さと有意に関連しました。余暇日には、座りがちな行動または睡眠を、中高強度の身体活動に割り当てることは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値の低下と有意に関連していました。深夜交替勤務者が、その不規則な勤務形態に対応し健康を維持するためには、仕事日と余暇日に適した生活行動時間を構築する必要があると考えられます*4 。

図2 平日と休日の1日の活動時間の比較
腸内細菌叢と肥満の関連は、主に肥満の代用指標として肥満指数(BMI)を用いて研究されてきたことを踏まえて、内臓脂肪面積に着目した検討を行いました。
岩木健診の20~76歳の日本人男女1,001名を対象とした横断研究において、内臓脂肪面積およびBMIと腸内細菌叢との関係を性で層別化して検討した結果、内臓脂肪面積が高い女性では、Firmicutes phylumの相対的存在量が多く(p for trend <0.001)、Bacteroidetes phylumの相対的存在量が少なかった(p for trend 0.030)のに対し、内臓脂肪面積が高い男性では、Firmicutes phylumの相対的存在量が少なく(p for trend 0.076)、Bacteroidetes phylumの相対的存在量が多い(p for trend 0.013)結果となりました。BMIを指標としても同様の結果が得られましたが、男性では有意性は認められませんでした。属レベルでは、性別に関係なく内臓脂肪面積と有意かつ逆相関していた腸内細菌はBlautia属のみでした*5 。
また、腸内細菌叢によって産生される呼気ガスが肥満に関係しているという報告も、肥満の定義にBMIが用いられていたため、内臓脂肪面積との関係を検討しました。2015年の岩木健診に参加した日本人1,033名(平均年齢54.4歳)の呼気ガスと内臓脂肪面積およびBMIとの関係について、横断研究を行いました。呼気サンプルは呼気バッグを用いて採取してガスクロマトグラフィーで分析し、内臓脂肪面積は内臓脂肪計を用いて測定しました。また、腸内細菌叢全体に占めるメタン生成菌の割合は、PCRおよび16S rRNA遺伝子配列解析により測定しました。
解析の結果、交絡因子を調整した後でも、内臓脂肪面積の多さと、呼気メタンの少なさの間に有意な関連が認められました(β=-0.024, p=0.004)。さらに、便中にメタン生成菌を有する対象者を、呼気メタン濃度が中央値より高い群と低い群に分けたところ、内臓脂肪面積は、メタン濃度が高い群の方が、メタン濃度が低い群に比べて有意に低いことが分かりました。メタン生成菌をもつ対象者において、呼気メタン濃度は内臓脂肪蓄積の独立したバイオマーカーである可能性が示されました*6 。
さらに、2型糖尿病と腸内細菌叢の関連も検証しました。
2型糖尿病者106名を含む、1,639名の岩木健診のデータを用いた横断研究で、多変量調整ロジスティック回帰を用いて腸内細菌叢の群間比較を行いました。糞便検体中の腸内細菌叢の相対量は、16SリボソームRNA増幅法を用いて算出しました。また、腸内細菌叢と2型糖尿病寛解との関連を縦断的解析により明らかにしました。
その結果、Faecalibacterium属、Blautia属、Roseburia属、Oscillibacter属が多いほど2型糖尿病のオッズ比が低く、Megasphaera属とLactobacillus属が多いほど2型糖尿病のオッズ比が高いことが示されました。これらのうち、Blautia属のみが非寛解群に比べて寛解群で有意に増加しており(図6)、寛解群では、Blautia属の増加はアディポネクチン値および骨格筋量の増加と有意に相関していました*7 。

図3 2型糖尿病の非寛解群と寛解群の腸内Blautia属の変化の比較
また、サルコペニア予防の観点から、骨格筋量と腸内細菌叢の関係も検証しました。
平均年齢50.0歳の男性353名と、平均年齢50.8歳の女性495名、合計848名の岩木健診データを解析対象とし、体重、骨格筋量、および、体重に対する骨格筋量の比(骨格筋量/体重)を体組成指標としました。骨格筋量/体重の平均値は、男性で34.9%、女性で29.4%であり、男性においてのみ、Blautia属とBifidobacterium属が骨格筋量/体重と正の相関を示しました(Blautia属:β=0.0003、Bifidobacterium属:β=0.0001)。一方で、Blautia属は体重とは負の相関を示しました(β=-0.0017)。女性においては、Eisenbergiella属は骨格筋量/体重と正の相関(β=0.0209)を示し、体重と負の相関(β=-0.0769)を示しました。このことから、骨格筋量/体重と正の相関を示すBlautia属、Bifidobacterium属、Eisenbergiella属が骨格筋量の増加に役立つ可能性が示されました*8 。