BMI(肥満度を表す体格指数)や腹囲に比べて、内臓脂肪の蓄積が多いことは心血管疾患や死亡率に大きな影響を及ぼしますが、内臓脂肪の蓄積は適切な食生活によって減少する可能性があります。これまでの疫学研究により、栄養成分または食品と内臓脂肪の蓄積との関連性が検証され、食物繊維やカルシウムなど、いくつかの栄養素の関連性が報告されています。
内臓脂肪蓄積の指標である内臓脂肪面積の変化に寄与する栄養素についてさらに解明するべく、岩木健康増進プロジェクト・プロジェクト健診(以下、岩木健診)に参加した624人の健康な人の2年間にわたる包括的なデータを縦断的に(同じ参加者から収集したデータを用いて)研究を行い、33の微量栄養素の摂取量について解析しました。その結果、主要栄養素と微量栄養素が、関連する因子であることが明らかになりました。野菜に多く含まれる7つの栄養素(水溶性食物繊維、マンガン、カリウム、マグネシウム、ビタミンK、葉酸、パントテン酸)は、内臓脂肪面積の変化と有意に負の相関をしていました。また、一価不飽和脂肪酸の摂取量は、内臓脂肪面積の変化と有意に正の相関関係がありました。これらの関連性は、BMIやウエスト周囲長とは無関係でした。このことは野菜中心の食事は内臓脂肪面積を減少させる可能性を示しており、さらに、主要栄養素の摂取量を調整することは、微量栄養素摂取量と内臓脂肪面積の関連性を明らかにするのに役立つ可能性があります*1 。
また、岩木健診の結果を用いて、内臓脂肪面積に影響する食事の主要栄養素組成を横断的に(特定の時点におけるデータを用いた)解析をした結果、一般的には脂質に対するたんぱく質の比率が高い食事は、内臓脂肪面積の少なさと関係することが示されました。ただし、中年女性においては、脂質が少なく炭水化物が多い食事が、内臓脂肪の多さと関連しました。よって岩木地区の成人という集団においては、内臓脂肪面積と食事の主要栄養素組成の関係は、性別および年齢層によって変化することが示されました*2 。
生活習慣病の前段階であるメタボリックシンドロームへの早期介入は、健康寿命の延伸や医療費の抑制に寄与する重要な課題です。また、メタボリックシンドロームが未発症の段階でその発症リスクを把握することで行動変容を促し、早期予防につなげることが期待されます。そこで本研究では、メタボリックシンドロームに対する予防的取り組みとして、岩木健診のデータを用い、将来のメタボリックシンドローム発症を予測するアルゴリズムを構築しました。岩木健診のデータから、3年以内にメタボリックシンドロームを発症した213例(発症群)と、メタボリックシンドロームを発症しなかった1,320例(非発症群)が含まれるデータセットを用意し、トレーニング用のデータと、テスト用のデータに8対2の割合で分割しました。トレーニング用のデータセットでは、メタボリックシンドローム発症群は、非発症群よりも内臓脂肪面積が有意に高く(p<0.001)、内臓脂肪面積のカットオフ値は82.5cm2に決定されました。さらに、内臓脂肪面積を含む7つの非侵襲的因子(内臓脂肪面積、BMI、喫煙本数、性別、年齢、収縮期血圧、拡張期血圧)を用いて機械学習アルゴリズムで検証した結果、最も予測精度の高いモデルのAUC(予測モデルの性能を示す数値。1に近いほど優れたモデルである)は、トレーニング用のデータセットで0.90、テスト用のデータセットで0.88と高い精度を達成しました。また内臓脂肪面積は、7つの因子の中でも、最も重要な因子として同定されました。
この研究によって、内臓脂肪面積がメタボリックシンドロームの発症を予測する上で極めて重要であることが見出され、内臓脂肪面積を含む非侵襲的データに基づいて高精度にメタボリックシンドロームの発症を予測するアルゴリズムが開発されました*3 。

図1 将来のメタボリックシンドローム該非に対する内臓脂肪面積の影響
内臓脂肪は高血圧や、認知症の危険因子の1つであることが報告されています。しかし、高齢者における内臓脂肪と認知機能との関連は、明らかにされていません。
そこで、高齢者におけるMRIによる脳構造異常と内臓脂肪面積との関連、および認知機能と内臓脂肪面積との関連を評価しました。解析は健康な2,364人を対象として、認知症と診断された人は除外しました。対象者を内臓脂肪面積の中央値に基づいて、内臓脂肪面積高値群と内臓脂肪面積低値群に分けたところ、内臓脂肪面積高値群は、内臓脂肪面積低値群より有意に認知機能が低いという結果になりました(p=0.025, 図2)。MRIにおける脳構造に関しては、内臓脂肪量は白質病変(オッズ比1.90[95%信頼区間:1.33-2.70]、調整後p<0.001)、および、血管周囲腔(オッズ比1.28[95%信頼区間:1.02-1.61]、調整後p=0.033)と有意に関連していました。この研究から、内臓脂肪面積を減らすことは心血管疾患の予防だけでなく、認知症の予防にも重要である可能性が示されました*4 。

図2 認知機能と内臓脂肪量との関連性
また、肥満がインフルエンザ感染と関連することはいくつかの研究で報告されていますが、内臓脂肪の役割については不明な点が多いため、地域在住の日本人成人における内臓脂肪量とインフルエンザ感染との関連を検討しました。
2019年の5月から6月にかけて実施された岩木健診より、20~89歳の日本人成人1,040人のデータを研究対象としました。インフルエンザ感染状況は、自記式質問票に対する参加者の回答により判定し、内臓脂肪面積は腹部生体インピーダンス型内臓脂肪計を用いて測定しました。日本の内臓脂肪面積の基準に基づき、対象者を、内臓脂肪面積100cm2未満、内臓脂肪面積100cm2以上150cm2未満、内臓脂肪面積150cm2以上200cm2未満、内臓脂肪面積200cm2以上の4群に分類しました。
対象者のうち、119人が過去1年間にインフルエンザ感染症に罹患していました。多変量調整モデルでは、内臓脂肪面積値が高いほど、有意にインフルエンザ感染が多い結果となりました(内臓脂肪面積100cm2未満に比べて、内臓脂肪面積100cm2以上150cm2未満の調整オッズ比は1.62[95%信頼区間:0.84-3.12]、内臓脂肪面積150cm2以上200cm2未満の調整オッズ比は1.97[95%信頼区間:0.71-5.45]、内臓脂肪面積200cm2以上の調整オッズ比は5.03[95%信頼区間:1.07-23.6])。またこれらの所見は、翌年の同じコホートでも確認されました。この研究から、内臓脂肪の蓄積はインフルエンザ感染と関連していることが示唆されました*5 。
歩行速度はすべての年齢で生存率と関連があり、特に75歳以上の高齢者では歩行速度が低下したグループの生存率が顕著に低いことが報告されています*6 。
そこで日常歩行速度と、内臓脂肪面積で定義される腹部肥満との関連の検証を目的として、岩木健診の20~88歳の計699人のデータを用いて横断研究を行いました。日常歩行速度は、3軸加速度計を7日間以上、毎日10時間以上装着した被験者のデータで評価しました。内臓脂肪面積は内臓脂肪計を用いて測定しました。日常歩行速度は年齢によって有意に異なるため、参加者を20~49歳の若年群と、50~88歳の高齢群の2群に分けて解析した結果、日常歩行速度と内臓脂肪面積との関連は年齢によって有意に異なりました(若年成人ではr=0.099、高齢成人ではr=-0.080、相関係数の差の検定、p=0.023、図3(b))。高齢成人では、腹部肥満(内臓脂肪面積100cm2以上)の調整オッズ比は、日常歩行速度が最も高い四分位群(日常歩行速度1.37m/s以上)が、最も低い四分位群(日常歩行速度1.11m/s未満)と比較して0.40([95%信頼区間:0.18-0.88]、p=0.022)でしたが、若年成人では有意な関連は認められませんでした。高齢成人では日常歩行速度が腹部肥満と有意かつ負の相関を示したことから、日常歩行速度のモニタリングは肥満の自己管理への意識を高める一助になると考えられます*7 。

図3 日常歩行速度と各指数との関連
メタボリックシンドロームとロコモティブシンドロームは、生活習慣に起因し、健康状態維持を困難にさせる二大ルートと考えられています。しかし、メタボリックシンドロームとロコモティブシンドロームとの直接的な関係性を示唆する研究は存在せず、ロコモティブシンドローム発症に対する内臓脂肪量の影響も明らかではありませんでした。
そこで、メタボリックシンドロームとロコモティブシンドロームの関係性を紐解くために、内臓脂肪面積とロコモティブシンドロームとの関連について、幅広い年齢層にわたって横断研究を行いました。岩木健診の20~85歳の男女1,236人を対象に、性別、体格指数、骨格筋量指数、Tスコア、運動習慣、喫煙の有無、飲酒量で調整した重回帰分析の結果、内臓脂肪面積によって均等に4分割した各群において、初期段階のロコモティブシンドローム(ステージ1[LS1])と内臓脂肪面積との間に有意な関連が認められました。また、内臓脂肪面積が最も少ないグループをオッズ比1とした場合の、2番目に内臓脂肪が多い群、3番目の群、4番目の群の調整オッズ比は、それぞれ1.84、2.68、4.12でした。LS1と内臓脂肪面積との関連は、内臓脂肪面積73cm2、および、年齢65歳を軸に4つの群に分けた場合、内臓脂肪面積が少なく高齢でない群に対して、内臓脂肪面積が多く高齢ではない群のオッズ比が1.87([95%信頼区間:1.28-2.72]、p=0.001)、内臓脂肪面積が少なく高齢である群のオッズ比が3.16([95%信頼区間:1.94-5.14]、p<0.001)、内臓脂肪面積が多く高齢である群のオッズ比が6.43([95%信頼区間:3.98-10.4]、p<0.001)でした。この結果から、食事と運動による内臓脂肪面積の管理が、すべての年齢層でLS1の予防に重要であることが示唆されました*8 。