花王株式会社(社長・長谷部佳宏)は、2020年10月より、油脂製品製造・販売会社のアピカルグループ(英語名: Apical Group、President: Dato’Yeo How)、農園(プランテーション)会社のアジアンアグリ(英語名: Asian Agri, Managing Director: Kelvin Tio)の2社と共に、パーム油の持続可能なサプライチェーンの構築をめざし、インドネシアの小規模パーム農園の生産性向上、持続可能なパーム油に対する認証(RSPO*1 認証)の取得を支援するプログラム「SMILE」(SMallholder Inclusion for better Livelihood & Empowerment program)を実施しています。また、同じくインドネシアの小規模パーム農園を対象として、2022年夏のグリーバンスメカニズム(苦情処理メカニズム)の稼働をめざし、アンケート調査も実施しています。花王にとって最も関わりの大きい自然資本であるパーム油に対し、社会・環境の面から、本質的な課題解決に向けて取り組んでいます。現在の進捗を報告します。
ジャンビ州の小規模パーム農園の農家がアブラヤシを収穫する様子
●内容
支援対象となる小規模パーム農園を訪問し、アジアンアグリの教育専門チームと花王インドネシア化学の社員が以下4点を実施します。
(1)持続可能な生産と生産性向上に関する教育
(2)RSPO認証取得に向けた支援
(3)安全な作業に関する教育と、ヘルメット・手袋といった安全対策器具の支給や消火器の設置
(4)機能性展着剤「アジュバントシリーズ」*2 の無償提供と使用方法の指導
●実施期間
2020年~2030年の11年間
●実施場所
インドネシア 北スマトラ州・リアウ州・ジャンビ州
●目標値
小規模パーム農園数 約5,000農園(農地面積:約18,000ヘクタール)
フェーズ | 期間 | 農園数 | 農地面積 |
---|---|---|---|
1 | 2021年~2025年 | 781農園 | 約2,376ヘクタール |
2 | 2022年~2027年 | 2,759農園 | 約8,831ヘクタール |
3 | 2025年~2030年 | 1,446農園 | 約6,672ヘクタール |
●進捗状況
小規模パーム農園の持続可能な生産と生産性向上のための調査に加え、アジアンアグリの教育専門チームと花王インドネシア化学の社員が教育を実施しています。2030年に向けて3つに分けて展開を計画しており、2022年中にフェーズ1の対象農園のうち、約600農園がRSPO認証を取得予定です。花王は認証を取得した小規模パーム農園が販売するRSPO認証クレジット*3 の全量の購入を予定しています。
●農地のリスク調査
農地の所在地(緯度・経度)を正確に計測したのち、農地が国立公園や森林保護区などに影響せず、合法的な土地であることを確認
●農園の実態調査
現時点での農園の生産性や作業時の安全性などを確認し、RSPO認証取得にむけて必要な教育プログラムを検討
●農地管理に関するレクチャー
適正な農地管理(収穫、施肥、除草剤の最適な投薬量、収支管理、手順書作成、書類管理)など
●RSPOの原則と基準、保護価値の高い地域に関するレクチャー
RISS*4 に準拠したRSPO認証取得のための、RSPOの原則と基準(NDPE*5 やFPIC*6 を含む)や、河岸や泥炭地といったHCV地域*7 についてなど
●健康と労働安全に関するレクチャー
作業中に怪我をした場合の初期対応など
●火災管理に関するレクチャー
火災の予防、監視、消火器の使用方法など
農園の生産性の向上と、農薬使用量の低減による収益改善や環境負荷の低減を目的とし、農薬散布時に薬剤を濡れ広がるように植物表面に展着させる「アジュバントシリーズ」を無償で提供し、使用方法を指導しています。2022年2月から北スマトラ州0.15ヘクタールで、最適な散布パターンを確認するためのテスト散布を開始しました。組み合わせる除草剤の種類を変えるなど複数のパターンで散布し、定期的に状態を確認します。4カ月の実証実験で最適な散布パターンを選定し、順次農園に提供、除草剤と「アジュバントシリーズ」の混ぜ方など使用方法も指導していきます。
2022年2月に北スマトラ州でアジアンアグリの教育チームと花王インドネシア化学の社員が実施した
「アジュバントシリーズ」のテスト散布の様子
「SMILE」に参加する小規模パーム農園を対象に2022年夏にグリーバンスメカニズム(苦情処理メカニズム)の導入を予定しています。想定される要望と対応方法を準備しておくため、「SMILE」とは別の活動として、小規模パーム農園の現状を把握するためのアンケート調査を進めています。アンケート調査で得られた結果は、「SMILE」での支援活動にも活用する予定です。
●内容
持続可能な生産と生産性向上に加え、生活環境改善の観点から、効果的なサポートの有無や改善可能な分野について、NPO法人 経済人コー円卓会議日本委員会(CRT日本委員会*8 )やインドネシアのアブラヤシ農民組合(SPKS*9 )と連携しアンケート調査や分析を実施
●実施期間
2021年4月から2022年10月
●実施場所
インドネシア リアウ州・北スマトラ州・ジャンビ州・南スマトラ州(展開順)
●目標値
対象小規模パーム農園数 700農園
※小規模パーム農園支援「SMILE」の効果を測るのではなく、小規模パーム農園の現状を把握することが目的のため、現時点では「SMILE」の対象ではない農園を選定
●進捗状況
CRT日本委員会と協働で、全78問の質問を作成。2021年4月~5月にリアウ州(200農園)、2021年7月~8月に北スマトラ州(200農園)、2021年12月~2022年1月にジャンビ州(100農園)で、SPKSが小規模パーム農園の農家と直接対面して実施
質問項目
・農園のプロフィール
世帯構成、就学状況、総収入と収入におけるパーム油とそれ以外の割合など
・健康・衛生
手洗いの実施状況、生活用水の取得方法、洗面所の屋内設置など
・農地
農地周辺での紛争の有無、農地面積とRSPO認証取得状況、アブラヤシの生産開始年、樹齢、果実収穫状況など
・労働および労働安全衛生
賃金支払い状況、作業時の安全管理状況など
・生産性やマーケットへのアクセス
苗木・肥料等の調達方法、アブラヤシ果実の販売先、生産性向上やRSPO認証取得における課題など
第1回のリアウ州での調査では、世帯収入は年間36万円未満とインドネシアでは低所得者層にあたり、最終学歴は小学校が最も多く、農地面積は2ヘクタール以上5ヘクタール未満が約55%と半数を占めていました。生産を開始した年は、1995年から2000年が多くみられました。年間の平均収穫量は12トン/ヘクタールが最も多く(大手プランテーションの場合は約25トン/ヘクタール)、単位当たりの採算性が低く農業技術レベルの向上が必要と考えます。生産性向上における課題としては、「肥料や農薬の価格が高い」「土地の管理にコストがかさむ」などがありました。植え替えにおける課題としては「資金不足」「アブラヤシの入手の困難さ」があげられました。また、RSPO認証については、「情報を得ていない」「認証取得方法が分からない」などの理由で、すべての農園において認証の取得はしていませんでした。
花王グループは、2019年4月にESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)を策定しました。この取り組みは、「Kirei Lifestyle Plan」の重点組みテーマのなかでは「責任ある原材料調達」に貢献するものです。2021年からは、「Sustainability as the only path」をビジョンに掲げた中期経営計画「K25」をスタートし、すべての命に寄り添う「未来の命を守るライフケアカンパニー」をめざしています。花王グループは、今後も、経営にESGの視点を導入し、高い倫理意識の堅持と実践を通じて、事業の発展と、消費者や社会へのよりよい製品・サービスの提供をめざし、パーパスである「豊かな共生世界の実現」に向けて取り組んでまいります。
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。