ウイルス関連法規制の国際状況

法規制の現状と課題(日本)

抗ウイルス対抗医薬品は許認可を受けて専門ルートで流通

我が国では、医薬品医療機器規制は優れたレギュラトリーサイエンスの枠組みが機能しており、治療薬、ワクチン、病院内消毒剤、など医療用途の抗ウイルス医薬品が審査を経て許認可を受け、専門ルートで流通されています。このように、医薬品枠でのウイルス対抗医薬品は、医薬品規制調和国際会議ICHの枠組みのもと日米欧3極は他国に先駆けて制度が確立されてきました。
他方、歴史的な経緯から医薬品以外のカテゴリー(医薬部外品、化粧品、日用品等その他の雑貨)では、ウイルス感染症に対応できる規制枠組みはありません。感染対策の上で接触感染の経路のリスクマネジメントには、十分な手洗いに加えて各種環境表面の除染が重要です。ウイルス不活性化効果が確認された化合物は、既に多くの環境表面の清掃を目的とした業務品や日用品など、市場で入手可能な製品に配合されています。しかしながら、その有効性および使い方を製造販売者の立場からお客様の納得する形で説明するには一定の規制が伴います。

日用品の環境除染効果については基準がない

日本の現行規制体系では、「ウイルスに対する有効性」のある医薬品における評価の枠組みが存在しますが、薬事品に該当しない日用品等その他の雑貨においては、環境表面のウイルス除染は、その受け皿となる規制枠組み、もしくは業界自主基準がありません。薬機法で規制を受ける表現(“ウイルスを不活性化する”の類)は、認可医薬品のみに許可されており、薬品医療機器法等の第68条(承認前医薬品等の広告の禁止)の遵守の観点からも、環境除染のための日用品の位置づけを明確にできない状態にあります。結果的に日用品では、ウイルス除染に有効な製品が存在しても、そのことを伝える手段が「物理的な除去」などに限定されています。

日用品、業務品等での環境表面除染対策の充実が期待される

有事の際には、医薬品のウイルス消毒剤は、病院や保健所に対して社会的に優先的に供給されることに競合するため、一般消費者向けに十分な供給量を確保することは困難な場合が多いことも現実です。身の回りの感染経路のウイルス除染は、医薬品だけでなく日用品のカテゴリーでも対処できればより選択肢は広がり、効率的な感染対策の一助になると考えられます。
新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、行政の取り組みとして2020年5月、経産省・NITEより新型コロナウイルスの対策として、洗剤に含まれる界面活性剤で新型コロナウイルスが効果的に除去できる事、また6月には厚生労働省、経済産業省、消費者庁の3省合同で、新型コロナウイルス消毒・除菌方法の一覧が特設ページとして掲載されました。このように法規制の課題がありながらも行政側としても医薬品以外のカテゴリーの製剤の有効性に関し情報を開示しています。今後の根本的な法改正、規制枠組みの構築を含めた日用品、業務品等での環境表面除染対策の充実が期待されます。

Reference

  • 横畑綾治,石田悠記,西尾正也,山本哲司,森卓也,鈴木不律,蓮見基充,岡野哲也,森本拓也,藤井健吉(2020)接触感染経路のリスク制御に向けた新型ウイルス除染機序の科学的基盤~コロナウイルス,インフルエンザウイルスを不活性化する化学物質群のシステマティックレビュー~,リスク学研究 30(1): 1–24
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