新型コロナウイルスの基礎情報
      ウイルスの特徴や、ウイルスの分類、エンベロープウイルスの種類や
 細胞への局所感染機序などについての情報を掲載しています。
ウイルスには自己増殖能はなく、宿主の細胞に付着し入り込むことによってのみ増殖することが可能です。そのため、ウイルスは生命には分類されません。大きさは20~250nmと、かなり小さく、電子顕微鏡でしか見ることができません(fig.1)(ref.1)。
fig.1:ヒト細胞に感染したコロナウイルス(黄色)
ヒト細胞20μm(青)と比べ、コロナウイルス約0.1μm(黄)は非常に小さい

   * イメージ
ウイルスには、エンベロープ(envelope)と呼ばれる脂溶性の外膜を持つものと持たないものがあり、エンベロープの有無が消毒薬抵抗性に大きく関与しています。コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスは、おおむね消毒薬感受性が良好で、一方で、ノロウイルスの様なエンベロープを有しないウイルスは消毒薬抵抗性が高いことが知られています(ref.1, 2)。
エンベロープとは、コロナウイルスやインフルエンザウイルス、などのウイルス粒子に見られる脂質二重膜の構造のことを指します(ref.1)。これらのウイルスにおいて、エンベロープはウイルス粒子の最も外側に位置しており、ウイルスゲノムおよびカプシドと呼ばれるタンパク質の殻を覆っています。エンベロープの有無はウイルスの種類を鑑別する指標にもなっています(Table)。
エンベロープは通常、宿主細胞膜(リン脂質とタンパク質)に由来します。エンベロープウイルスは、感染した細胞内で増幅され、そこから細胞外に出る際に小胞体やゴルジ体などの細胞内膜の脂質二重膜を被ったまま出芽することによって、エンベロープの脂質膜は獲得されます。このため、ウイルスの外側を被覆するエンベロープ膜は、基本的に宿主細胞の脂質二重膜に由来するものです。エンベロープ構造は、スパイクタンパク質などの膜貫通タンパク質が含まれています。糖修飾されたスパイク先端は、そのウイルスが宿主細胞に吸着・侵入する際に細胞側が持つレセプターに結合する部位であり、ウイルスの宿主細胞への感染の特異性に重要な役割を果たしています(fig.2)。ウイルス遺伝情報の突然変異によりスパイクたんぱく質の構造に変異が生じた場合には、宿主細胞への感染性が消失したり、異なる受容体への感染性が生じたり、疾患特性が変化しうると考えられています(ref.2, 3, 4)。
fig.2:細胞への感染機序



  細胞膜に由来するエンベロープがあるウイルスでは、エンベロープタンパク質が細胞側のレセプターに結合した後、ウイルスのエンベロープと細胞膜とが膜融合を起こすことで、エンベロープ内部に包まれていたウイルスの遺伝子やタンパク質を細胞内に送り込む仕組みのものが多くなっています。
エンベロープはその大部分が脂質から成るためエタノールや有機溶媒、石けんなどの界面活性剤で破壊できます。このため、一般にエンベロープを持つウイルスは、消毒用アルコールでの不活化が、エンベロープを持たないウイルスに比べると容易となっています。このエンベロープ破壊性が、コロナウイルスの環境表面での除染の主要な科学的作用機序です(ref.2)。
Table:ヒトに感染性をもつ主なエンベロープウイルス(ref.3,4)
| RNAウイルス | コロナウイルス科 | 新型コロナウイルスSARS-CoV-2、SARS-CoV、MERSコロナウイルスなど | |
|---|---|---|---|
| オルトミクソウイルス科 | インフルエンザウイルスなど | ||
| フラビウイルス科 | C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルスなど | ||
| トガウイルス科 | 風疹ウイルスなど | ||
| パラミクソウイルス科 | 麻疹ウイルス、ヒトRSウイルスなど | ||
| ラブドウイルス科 | 狂犬病ウイルスなど | ||
| ブニヤウイルス科 | クリミア・コンゴ出血熱ウイルスなど | ||
| フィロウイルス科 | エボラウイルス、マールブルグウイルスなど | ||
| 未分類 | D型肝炎ウイルス | ||
| DNAウィルス | ヘルペスウイルス科 | 水痘・帯状疱疹ウイルスなど | |
| ポックウイルス科 | 天然痘ウイルスなど | ||
| ヘパドナウイルス科 | B型肝炎ウイルスなど | ||
| レトロウイルス | レトロウイルス科 | ヒト免疫不全ウイルス、成人T細胞白血病ウイルスなど | |