発表資料: 2021年10月08日

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育児支援情報による適切なサポートが、
親の育児負荷低減の一助になることを確認

花王株式会社(社長・長谷部佳宏)感覚科学研究所、サニタリー研究所と立命館大学(学長・仲谷善雄)総合心理学部の矢藤優子教授の研究グループは、育児支援情報による適切なサポートが、親の育児負荷低減の一助になることを確認しました。
今回、乳幼児とのかかわり方に関する専門的な知識に、これまでの研究で見いだした子どもの社会性発達に良い影響を与えるかかわり方に関する知見を加えたうえで、日常生活ですぐに実践しやすい形にした、新たな育児支援情報を作成しました。この情報を親に提供することで、子どもへのかかわり行動や育児ストレスがどのような影響を受けるのかを調査した結果、情報の提供を受けた親は、受けていない親と比較して、おむつ替え時における笑顔や発話が増えること、および育児ストレスが低減することを確認しました。
今回の研究成果は、日本心理学会第85回大会(2021年9月1日~9月8日、オンライン開催)にて発表しました。

背景

花王は、ベビー用品の開発に向けた研究の一環として、乳幼児を深く理解する研究を行なっています。また、立命館大学の矢藤教授は、乳幼児期の子どもの行動発達について、周りの環境とのかかわりの視点から研究を進めています。両者は、親子のかかわり方と乳幼児の発達に関して2018年から共同研究を開始し、これまでに、おむつ替えの場面は単に親が子どもの世話をするというだけでなく、親子のかかわりにとって重要な場面になりうるという新しい視点を報告しています*1
乳幼児期における子どもの社会性発達については、親の子どもへのかかわり方が重要であると考えられています。しかし、子どもが1歳前後になると親のイライラや抑うつは高くなり、かかわり方への自信が低下する傾向にあります。これに対し、自治体などによりさまざまな育児支援プログラムが導入されていますが、複数回の参加が必要となるなど、気軽には参加しにくいことが課題となっています。
今回の研究では、乳幼児とのかかわり方に関する専門的な知見を日常生活ですぐに実践しやすい形にした、新たな育児支援情報を作成して親に提供することで、子どもへのかかわり行動や育児ストレスがどのような影響を受けるのかを調べました。

試験内容

試験参加者: 母子20組(月齢12~14カ月の乳幼児20名と、初めて子育てをするその母親20名)
試験方法: 試験参加者を育児支援情報の提供を受けるグループと受けないグループに分けました。情報の提供を受けたグループには、その情報をもとに自宅で3週間実践してもらいました。情報の提供を受けていないグループには、普段通りに3週間過ごしてもらいました。この試験の開始前と終了後に、親が子どものおむつ替えをしている様子の行動観察および親の育児ストレスの評価を行ない、両グループを比較しました。

新たに作成した育児支援情報

発達心理学の分野における乳幼児の特徴および子育てに関する情報に、本研究グループがこれまでの研究で見いだした、子どもの社会性発達に良い影響を与える親のかかわり方に関する情報を加えました。これらを、日常生活ですぐに実践しやすいような具体的な行動例(いつも笑顔で接する、気持ちを言葉にするなど)に変換して情報としてまとめました。
情報の提供を受けるグループには、試験のはじめにこの情報を1時間程度の時間をかけて個別にレクチャーしました*2

おむつ替えをしている様子の行動観察

親に普段通りにおむつ替えをしてもらい、その様子をビデオで撮影しました。その映像を見ながら、おむつ替え時間全体(着替えの時間を含む)とおむつを脱いでいる時間における親の笑顔回数と発話量をカウントしました(図1)。

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図1 おむつ替えをしている様子の行動観察

育児ストレスの評価

本研究では、PSI育児ストレス尺度*3 を用いて、子どもと親の観点からストレスの程度を数値化して評価を行ないました。

  • * 2 情報の提供を受けなかったグループにも、試験終了後に同じ情報をレクチャーしました。
  • * 3 Abidin博士により米国で開発された親の育児ストレスを測定するのに有効なツール。世界中で使用され、ストレス状態にある親子関係の早期発見や、ストレス軽減のための早期介入などに役立ちます。子どもの観点(子どもの特徴に関するストレス)と親の観点(親自身に関するストレス)からの質問項目で構成されており、5段階で答える形式になっています。

試験結果

おむつ替え場面の親の笑顔回数と発話量

情報の提供を受けたグループにおいて、おむつ替え時間全体での親の笑顔回数が増加し(図2)、おむつを脱いでいる時間での親の発話量も増加しました。
このことから、子どもとのかかわり方に関する知識を得て実践を促されることで、お世話の際の親の表情や発話という行動が実際に変化することが確認されました。

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図2 おむつ替え時間全体での親の笑顔回数

育児ストレスの比較

「子どもの特徴に関するストレス」は、情報の提供を受けていないグループでは試験前後でストレスが増加傾向にあったのに対し、情報の提供を受けたグループでは増加が見られませんでした(図3左)。その中でも特に「親につきまとう/慣れにくい」と「子どもの気が散りやすい」の項目においてその傾向を明確に確認できました。一方、「親自身に関するストレス」は、情報の提供を受けたグループでは「親役割によって生じる規制」(図3右)および「社会的孤立」の項目でストレスが減少傾向にありました。
子どもが1歳前後の親は一般的に育児ストレスが高くなる傾向にありますが、今回の情報の提供がそのストレス抑制に有効であることが確認されました。

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図3 育児ストレス評価(PSI尺度)

まとめ

今回の研究結果から、乳幼児とのかかわり方に関する育児支援情報による適切なサポートを行なうことで、親の子どもへのかかわり行動に影響を与え、育児ストレスが低減することがわかりました。特に、かかわり方に関する新しい知見を、日常生活ですぐに実践しやすい形にしてレクチャーしたことで、親がその必要性を良く理解でき、すぐに普段の行動に取り入れやすかったことに大きな意味があると考えられます。
このような形でのサポートを行なうことは、育児における課題解決の一助になることが期待されます。今後は、今回作成した育児支援情報の活用を進めるとともに、育児に関する親へのサポートを通して、子どもの社会性発達に対しても良い影響がもたらされるような提案につながる研究を進めてまいります。

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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