発表資料: 2020年12月22日

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Art × Science : 顔プロジェクト

複数の表情の共存が"個性が輝く顔"につながる
Kazu Hiro氏制作によるオードリー・ヘプバーン彫像の分析

花王株式会社(社長・澤田道隆)感覚科学研究所・スキンケア研究所は、特殊メイクアップアーティスト・現代美術家のKazu Hiro氏により制作されたオードリー・へプバーンの顔の彫像作品をFACS(Facial Action Coding System)*1 を用いて解析し、この彫像は見る角度によってさまざまな表情に見える特徴があることを確認しました。
Kazu Hiro氏による彫像には、モデルが人生の中で重ねてきた経験や深めてきた内面が複雑な表情として表現されていることで、彫像を見る人にモデルの内面からにじみ出る個性を感じさせていると推察されます。
今回の研究成果は、第25回顔学会大会2020年10月3~4日・オンライン開催にて発表しました。

  • * 1 Ekman, Friesen & Hager(2002)による、顔の表情動作を独立した最小単位にわけて、その動きの強度を客観的に記述する方法

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背景

ある人について「美しい」というとき、それが外面的な顔の造作だけでなく、内面からにじみ出る美しさ、魅力に由来していることがしばしばあります。個性や生き様が顔や表情に表れることは、経験的には理解されるものの、多様で複雑な美しさをひとつの基準や視点でとらえることは大変困難です。
花王は、そのような、価値観や生き方がにじみ出るような“個性が輝く顔”の魅力を探求するため、2019年から、特殊メイクアップアーティスト・現代美術家のKazu Hiro氏との共同研究を開始しました。Kazu Hiro氏の制作する2倍サイズの顔の彫像は、非常にリアリスティックでありながら、一方で、モデルの内面がよく表現されていると評されます。そこで、アーティストの鋭い感性によって見いだされたモデルの個性や内面も含めた魅力が、具体的な顔の彫像にどのように表現されているのかを、Kazu Hiro氏へのインタビューによる制作意図の聴取と、完成した彫像のFACSによる表情分析によって解明しました。

対象となる彫像

Kazu Hiro氏によるオードリー・ヘプバーンの2倍サイズの顔の彫像を対象としました。彫像は、経験を重ねることで変化していく内面がどのように表現されるのかを確認するため、若いころと、年を重ねたあとの2体がつくられました。

Kazu Hiro氏の制作過程 ~モデルの内面を彫像に表現

Kazu Hiro氏は、制作を始めるにあたって、モデル自身がどのような経験をし、またそれをどのようにとらえ、どのように向き合って生きたのかを伝記や写真集、映像作品などの資料を通して深く理解しようと努めています。人生の中でそれらの経験を経ることで、モデルの顔がどのように変化していくのかに着目しているのです。今回の制作においても、これらのリサーチによって感じ取ったモデルのさまざまな心の側面を、複数の感情、悲しみ、喜び、怒りといった表情として入れ込んでいると説明しています。
つまりKazu Hiro氏は、静止した彫像にモデルのある切り取られた一瞬ではなく、モデルが自分自身の経験に対峙し続ける連続性をもった姿を表現しようと試み、その手段として、複数の表情を入れ込むことを意図して行なっていました。この工夫によって、Kazu Hiro氏の彫像は、見る人自身の置かれている状況や心情によって異なる印象を感じさせるような、「見る人とつながる」表現となっていると考えられます。

FACSによる分析 ~複数の表情が混在する顔

完成した彫像に制作意図がどのように表れているのかを客観的に分析するために、Ekmanらによって開発されたFACSを用いて分析を行ないました。この手法では顔全体の表情を、眉を下げる、口角を引き上げるなどの細かい動作単位(アクションユニット)に分け、それぞれの動作の強度を判定します。2体の彫像を左右9方向から撮影した画像に対し、FACS認定コーダー4名が、それぞれのアクションユニットの動作強度を記述しました。

その結果、Kazu Hiro氏が制作した顔には、ひとつの角度から見た場合にも、相反する表情が共存していることが確認されました。

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たとえば、彫像の右側の顔を撮影した画像中には、眉を下げる動きと口角を引き上げる動きがみられます(図a)。口角を引き上げる動きは幸福と感じられる表情に特徴的にみられる動きであるのに対し、眉を下げる動きは幸福と感じられる表情には存在しないとされる動きです。これらの動きが同時に見えることで、見る人が多様な感情を読み取れる表情になっていると考えられます。
さらに、角度を変えて観察すると、各表情動作の相対的な強度が変化することがわかりました。先ほどの彫像の右側の顔で見られた口角を引き上げる動きは、彫像を正面から撮影した画像でも同程度の強度で見られた一方で、眉を下げる動きは正面から撮影した画像ではほぼ見られません(図b)。これにより、この彫像は、ある角度から見た場合には優しさを、ほかの角度から見た場合には厳しさをより強く感じるというように、見る角度によって、さまざまな表情が感じられることが客観的に示されました。この効果も、Kazu Hiro氏が意図する「見る人とつながる」彫像を可能としている一因であると考えられます。

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若いころの彫像においても、各表情動作の相対的な強度が見る角度によって変化する傾向はみられましたが、表現された表情動作の強度はいずれも非常に小さいものでした(図c、d)。年を重ねたあとの彫像では、人生の中で経験したさまざまな心の動きが、より強い表情動作として表現されていると考えられます。

まとめ

今回は、ひとつの静止した彫像に複数の感情を入れ込み、彫像を見る角度によってモデルの多様な内面を表現するというKazu Hiro氏の意図が、作品において確かに実現できていることをFACSによる分析で検証しました。年を重ねたオードリーの彫像に表現された複雑な表情は、人生の中でのさまざまな経験とそれにより深められてきた豊かな内面を感じさせるものであり、こうした表情の中に私たちはその人の個性を感じているものと考えられます。“一人ひとりの個性が輝く顔”にとって、その人の内面を表現するような表情が重要であることが示唆されました。
今後は、この知見をもとに、個々の内面的な魅力を引き出し、表現することをサポートできるような技術、情報開発を進めていきます。

※本彫像は、オードリー・ヘプバーンを忠実に再現したものではなく、アーティストの解釈によって作られています。

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※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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