参考資料: 2020年06月05日

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セルロースナノファイバーの疎水化技術を活かし、複合高機能樹脂『LUNAFLEX(ルナフレックス)』の提供を開始

花王株式会社(社長・澤田道隆)は、バイオマス由来のセルロースナノファイバー(Cellulose Nanofiber. 以下、CNF)を改質し、各種用途の樹脂に配合することで、少量でも樹脂の強度や、寸法安定性(熱膨張率の低減)を向上させることを可能にしました。この改質CNF配合高機能樹脂を、ユーザーの目的や用途にあわせてカスタマイズした『LUNAFLEX(ルナフレックス)』シリーズとして、提供を開始します。
改質CNF配合による物性の向上が、樹脂使用量の削減と小型化・軽量化、すなわち資源の効率的利用に大きく寄与できるものと考え、社会のサステナビリティに貢献してまいります。

背景

CNFは、樹木等の植物中でセルロース分子の束を形成しており、高強度・高弾性などさまざまな機能を有するサステナブルな高機能素材として世界中でその有効活用が望まれています。また、CNFを樹脂に配合すると、樹脂の強度や靱性、寸法安定性の向上効果があることがすでに知られています。
しかしCNFは分子間および分子内で強固に水素結合をしているため、ナノファイバーとして単離する(繊維の束を1本1本ほぐした状態にする)ことは非常に難しい課題でした。さらには、単離した後もその表面は水酸基で覆われていて強い親水性を示すため、油性溶媒にはなじみが悪く、分散安定化は非常に困難でした。
また、従来はCNFメーカーが調製したCNF製剤(疎水改質CNFやCNF分散溶媒)を、ユーザーである樹脂メーカーに提供していました。しかし、樹脂への配合の際にCNFが凝集してしまうなどの不具合が生じてしまうことが多く、樹脂中への均一ナノ分散には種々のノウハウが必要ということもわかってきました。

『LUNAFLEX』シリーズの提供開始

花王は、セルロース研究の第一人者である、東京大学磯貝明教授ら*1 によるCNF単離の成功をきっかけに、これまで自社で独自に積み上げた界面制御技術に基づき、CNFの表面にさまざまな官能基を付加することで発現する機能を探索してきました。その結果、親水性のCNF表面を疎水表面へと改質することが可能となり、CNFを樹脂へ均一ナノ分散することに成功しました。この界面制御に寄与しているテクノロジーが、量子化学計算による構造予測に基づいた、“デュアルグラフトシステム”と呼ばれるCNF表面設計技術です(図1)。これは、濡れ性と立体反発の観点で選定した2種類の修飾基をCNFの表面に結合させる方法で、少ない修飾基重量で疎水表面へと改質し、CNF本来の物性の発現を可能とします。さらに、用いる樹脂に合わせて、濡れ性と立体反発の観点から適切な修飾基をカスタマイズすることで、樹脂となじみやすくします。

  • * 1 T. Saito, A. Isogai et. al., Biomacromolecules. 2006, 7, 1687-1691.

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図1 デュアルグラフトシステム(モデル図)

こうして、さまざまな樹脂に対してCNFを均一ナノ分散することによって、CNFの性能を最大限に引き出すことができる高機能複合樹脂を得ることができ、樹脂メーカーに提供することが可能になりました。さらに、単に樹脂メーカーへの複合化原料の提供にとどまらず、樹脂メーカーが抱いている課題を解決する、課題解決型の、改質CNF配合樹脂を『LUNAFLEX』シリーズと称して提供する取り組みを始めました(図2)。

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図2 課題解決型の改質CNF配合樹脂 『LUNAFLEX』シリーズ

『LUNAFLEX』シリーズの例(改質CNFを樹脂配合にカスタマイズした例)

(1)光硬化性樹脂(アクリル樹脂)への適用
図3は、改質CNFを光硬化性樹脂(アクリル樹脂)に配合したサンプルの外観と、これの成形体、およびAFM(原子間力顕微鏡)で観察した像を示しています。改質CNFを配合した製品は、樹脂に均一に分散して非常に透明度が高く、様々な用途での活用が期待されます。

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図3 改質CNFを配合したアクリル樹脂(液体)、その成形体(透明フィルム)、
およびAFMで観察した像(CNF 10wt%配合)

さらにその物性データは、図4(a)に示すように、改質CNFを配合した製品は樹脂補強材であるシリカ(汎用フィラー)を配合した製品と比較して、極少量の配合での寸法安定性改善効果が確認されました。また、強度(弾性率)はCNFを添加するほど向上し、最大で10倍にも向上しました(図4(b))。

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図4 光硬化性樹脂(アクリル樹脂)へのCNF添加効果

(2)熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)への適用
熱硬化性エポキシ樹脂に改質CNFを配合したサンプルにおける物性データは、図5(a)に示すように、改質CNFを1%配合した製品は未配合のブランク品と比較して、寸法安定性が31%も改善されました。また、靭性はCNFを添加するほど向上し、破壊仕事は最大で20倍にも向上しました(図5(b))。

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図5 熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)へのCNF添加効果

(3)熱可塑性樹脂(フェノキシ樹脂)への適用
熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂に改質CNFを5%配合した際の寸法安定性は70%(図6(a))も改善し、強度(弾性率)は2倍に向上しました(図6(b))。

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図6 熱可塑性樹脂(フェノキシ樹脂)へのCNF添加効果

今後の方針

表面改質を施して樹脂への分散・混合性を向上した改質CNFを光硬化性アクリル樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、および熱可塑性フェノキシ樹脂に対して配合したところ、顕著な物性の向上が認められました。今後も、ユーザーの皆さまが使用されるさまざまな樹脂や使用場面において当社CNFが有効活用されるべく、新たな製品、性能のご提案をおこなってまいります。
花王グループは、経営にESGの視点を導入することで、花王らしいESG活動をグローバルに展開し、社会のサステナビリティへの貢献に取り組んでまいります。ケミカル事業は、エコケミカルな視点をモットーに、革新的な製品やソリューションを提供することによって、ユーザーの皆さまや産業界の課題解決に努めてまいります。

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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